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中高年姉妹を興奮させたロックバンド~AJICO『ラヴの元型』

「わたしね、この音楽が好き、っていう曲を見つけたよ!
AJICOって知ってる? UAがボーカルしているバンドの『ラヴの元型』って曲。NHK(The Covers)で見たんだけど。すごくかっこよかった!」

冷静沈着な姉が、いつもよりワントーン高い声で、一気に語りました。

66歳と57歳の私たち姉妹は、生存確認も兼ねて、近況や気になることを、電話で話すのが月末の恒例。
あわて者の私の失敗や愚痴を、しっかり者の姉が状況分析&助言。
「来月の電話までがんばろうよ」と励まされるのが、お決まりのパターンなのですが、いつもと違う姉の様子に、私までテンションが上がります。

「AJICOも『ラヴの元型』も知らないよ。どんなところがかっこいいの?」

「ぜ~んぶ、かっこいい!
UAの歌もダンスも、曲も、バンドの演奏も、全部かっこいい!」

66歳の姉を興奮させた、AJICOの『ラヴの元型』とは如何なるものなのか?
早速、私もYouTubeをチェックしました。

イントロの、心を掻き乱すようなギターの音。
私の心臓に衝撃が走ります。
一瞬で心を鷲掴みされました。

ハードロックでサイケデリック。
踊りたくなる、アップテンポのディスコサウンド。
1970〜80年代に青春真っ只中だった私たち姉妹が、どハマりするサウンド。なのに、今風のエレクトロサウンドが相まって、古臭さが全くない。

UAの歌、曲、アレンジ、演奏、メンバー全員のビジュアル、MVの世界観。
全てに、他のアーティストとは違う、大人のかっこよさがあります。
若い頃のように「この人たちみたいになりたい」と、思わず憧れてしまうかっこよさです。

57歳になってこんな気持ちになるなんて、一瞬にして10代に戻った気分!
66歳の姉も、私と同じ気持ちになったに違いない。

私たち姉妹を虜にした、AJICOは如何なるバンドなのか?
UAは知ってはいるものの「昔、ヒット曲あったよね」の程度で、他のメンバーは全く知らない人たち。
早速、AJICOをネットで検索すると「知れば知るほど、かっこいい人たち」ということが判明しました。

AJICOはドラム・ベース・ギター・ボーカルの4人組バンド。
2000年に結成。2001年に活動休止。2021年に再結成。
20年間の活動休止期間は、各々音楽活動を続ける。
キャリア、年齢ともにスペシャルな、4人の平均年齢は59歳(2024年12月末時点)。

ドラム:椎野恭一
プロ歴44年の大ベテラン。
ロックのドラマー=体育会というイメージを覆す、スマートでダンディなジェントルマン。こんなにかっこいい64歳が日本にいるなんて、感動です。
硬くて重いドラムの響きは、70年代のハードロックを体感した人しか出せません。若いアーティストのレコーディングにも数多く参加、どんな音楽にも対応できるスーパードラマーです。

ベース:TOKIE
見目麗しい姿と対照的に、ビンビン心臓に響く音を奏でる彼女のベースとの出会いは、中学校の吹奏楽部でウッドベースを弾いたのが最初。
45年以上ベースとともに生きているだけあって、息をするがごとくプレイする姿は、女も惚れるかっこよさです。
多くのミュージシャンのレコーディングやライブに参加。大物アーティストのバックに美しいベーシストを見つけたなら……彼女に間違いありません。

ギター・ボーカル:浅井健一
1990年代にロック好きの若者に絶大な人気があった「BLANKEY JET CITY」のメンバーで、愛称ベンジー。
椎名林檎の『丸の内サディスティック』の歌詞に出てくる
「そしたらベンジー あたしをグレッチで殴って」
のベンジーとは彼のこと。グレッチとは、愛用のギターのブランド名。
『ラヴの元型』では、彼が奏でるグレッチの音を存分に味わえます。
ベンジーのグレッチの音を聴いていると……女心がザワザワしてきます。
椎名林檎の歌詞に思わず共感。

ボーカル:UA
1996年『情熱』のヒットで有名に。
その後、Eテレで「うたのおねえさん ううあ」として活躍。
現在はカナダ在住。結婚⇒出産⇒離婚⇒再婚⇒出産⇒出産⇒出産と、プライベートで多忙にも関わらず、精力的に音楽活動を続けています。
2023年は、JR東海キャンペーンソング『会いにいこう』を配信リリース。
ジャンル問わず、童謡さえも「大人の心に沁みる歌」に変えてしまう、聴く人の心に響く歌声を持つ、類稀なシンガーなのです。

メンバーではなくアレンジャーさんですが……
アレンジ・キーボード:荒木正比呂
彼のエレクトニカルなアレンジなくして『ラヴの元型』は、かっこいい歌にならなかったでしょう。
サイケなキーボードと強烈な効果音の組み合わせは、過去と現在、未来を行き来するような、浮遊感のある不思議なサウンドを聴かせてくれます。

ふ~、ため息が出るほど、かっこいい人たちです。

AJICOを知ることで、日本の音楽界には素晴らしいアーティスト、ミュージシャンがいることを、改めて認識しました。

多くの人々は彼らと同じく、若い頃にたくさんの音楽を聴き、憧れ、「自分もアーティストになりたい」と思いましたが、夢で終わりました。
しかし彼らは、憧れと夢をかなえるため、音楽の道を選び、様々な困難があっても、愛する音楽とともに人生を歩み、新しい音楽を作り続けています。

自分の好きな道を極めて生きるかっこいい大人を見れば、若者も「私も自分の好きなことで、生きてみようかな」と、自分の未来に希望が見えます。
中高年にも「こんなにかっこよく生きている同世代がいるのなら、自分もまだまだがんばれるかも」と元気が出て、良い刺激になります。

刺激と言えば……複雑で不穏なサイバー社会に戸惑う人々を俯瞰する歌詞も、かなり刺激的。
歌詞は「野生ならでの不安は ラヴの元型」の言葉で終結しています。

『元型』とは、心理学用語で、人類が共通して無意識に持つ、心の動きのパターンのこと。無意識にしてしまう反応、のようなものでしょう。

歌詞を作ったUAは、『ラヴの元型』という言葉に込めた思いを、次のように語っています。

不安を感じるのを恐れるな、ということです。
ラヴという言葉には母性的なイメージがあるかもしれないけど、不安を感じることも哀しみも怒りも、実は愛がもとにあるからそうなることで。
このご時世、いろいろ不安になることだらけでしょ。
でも、左脳で考えたややこしい不安と違って、人間が動物に近かった頃、いつ襲われるかわからないから夜も火を消せないといったような不安は、もともとあるものじゃないですか。
そういう意味では、不安を持つことはなんらおかしいことではない。
若い子たちは自分たちの未来に不安を持って、それを無理に克服しようとするから余計におかしくなるというところもあると私は思うんです。だから「不安だー!」って叫んでしまってもいいんじゃないかって言いたくて。それはもともと、ラヴの元型としてあるものなんだから、ってことですね。

引用:ローリングストーン/UAと浅井健一が語る、AJICOの現在地と『ラヴの元型』制作秘話

一瞬で心を鷲掴みにするサウンドの中に、さりげなく入っている世の中への問いかけは、歌を聴く人々への愛を感じます。

わが姉貴よ、素晴らしいバンドと歌を教えてくれてありがとう。
AJICOの他の曲も聴いているよ。
カッコよく、深く、クールで、温かい音楽を楽しんでいます。

AJICOを知らない人にも、聴いてもらいたい!
できる限り多くの老若男女に知ってもらうには、やはりテレビが一番。

私が思うに……大晦日の紅白歌合戦のオープニングに『ラヴの元型』は、ピッタリ。

『ラヴの元型』のUAを見ていると、老若男女問わず踊りたくなる。
この気分は『マツケンサンバⅡ』や『U.S.A』を見ているときと同じ。
ビートに合わせて、身体が自然に動くのです。

『マツケンサンバⅡ』は「オーレ― オーレ―」、『U.S.A』では「カーモンベイベー アメリカ」、『ラヴの元型』でも「イザイヤホー」とみんなで声を上げて盛り上がるところも共通しています。

『ラヴの元型』を盛り上るバックダンサーは、出場歌手のみなさん。
サイケな七色の照明を浴びながら、ジュリアナ扇子を持って踊る櫻坂&乃木坂46、UAのように腰をフリフリするあいみょん、ゴーゴーダンスを踊る南こうせつ、みんなノリノリで盛り上がること、間違いなし……と夢想するものの、今年の紅白には間に合わない。残念無念。

そうだ! 「tiny desk concerts JAPAN」に出てもらいましょう。
NHKさん、世界中にAJICOを紹介して下さい。
放送&配信待っています。
なるべく早めによろしくお願いします。

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