【天獄編零式】YPPはフィナーレを迎える【初週クリア振り返り】
前書き
昔々あるところに、零式再生編を初週クリアできなかったヒカセンがいました。彼は大変悔しい思いをしたため、リベンジのために固定のリーダーとなり、新しい固定を作りました。その名は「YPP」。
彼の固定は辺獄編を初週でクリアした後、続く煉獄編では絶望的な状況から逆転し、同様に初週クリアを掴み取りました。
彼はその時の劇的なサヨナラ勝ちにたいそう感動し、今までの経緯とノンフィクションで起こった出来事をnote記事にまとめました。
これは、そんな彼が次の零式「天獄編」を区切りにフィナーレを迎えるお話。もちろんノンフィクション。
色んな事の始まり
3月末、パッチ6.3で実装された絶オメガ攻略も落ち着きを見せ始めた。私の絶固定も消化が終わり、次の零式「天獄編」に挑むならそろそろ準備を始めないといけない時期だった。
しかし、その時の私は仕事がめちゃくちゃ忙しく、正直FF14のことを考えていられる状況ではなかった。1月末に実装された絶オメガを仕事と両立していたせいで、絶オメガクリア後に取れるようになった時間の多くは仕事へと注がれていき、FF14へのモチベーションを大きく落としていた。
社会人として若手を卒業しつつある年齢にもなってきた。そろそろステップアップする時期でもある。実際、頑張っている同僚を見ると自分も仕事を頑張らねばと思うことが多々あった。
さらに直近で別部署への異動が内々で言い渡されており、引っ越しもしないといけないし、仕事もガラッと変わるから慣れるまで専念しないといけない状況でもあった。今までの生活から大きな変化点を迎えていた。
加えて、昨年の年末に大学時代の知人と久々に会って互いの状況を話し合ったのだが、
知人1「俺は今メーカーからコンサルに転職して、今まで手が出せなかった領域まで仕事が出来るようになってすごく頑張ってる」
知人2「俺は元々夢だった音楽作家になって、毎日締め切りに追われながらもプロとして曲を書いて頑張っている」
知人1「お前は? 最近どんなこと頑張った?」
私「え、煉獄編初週クリア・・・?」
と、ヤバい会話をしてしまったことも心の隅のどこかに残っていた。
長い人生、このままずっとFF14の零式攻略を続けられないのは理解していたが、実際こんな感じで私生活とのバランスを見直すきっかけがあると零式攻略を辞めることになるのだろうと気づいた。正直FF14をスパっとやめるなら今のタイミングだと思う、が・・・煉獄編終わった直後、固定メンバーに言っちゃったんだよなあ。
私「次の零式も絶対一緒にやりたい! 煉獄編のメンバーから必ず優先して声かけるから! 次も初週で!」
う~ん、どうしよう。言っちゃった手前、やっぱりやりませんは無責任なんだよな。元々FF14自体は好きだから多分続けるだろうし、そんな急に零式攻略を辞めるっていうのもなんか違うなあ。う~ん、う~~~~ん・・・。
とりあえず、私がリーダーの固定は今回で最後にしよう。辺獄編、煉獄編と続いてきたが、今回の天獄編で最後にして有終の美を飾ることにしよう、と決めた。
そう決めたなら、全力でやるしかないよな。
私はPCを開いて固定の企画書もどきを作り始めた。そこの固定のコンセプトとして、こんな一文を書いた。
FA宣言
元H2「ごめん、今回は”超早期”の固定に入ろうと思うから一緒に出来ないや」
覚悟はしていたが、とうとうきたかあという気持ちだった。
私はまず煉獄編の固定メンバー全員に次の天獄編もやろうと改めて声をかけた。7人中6人からはOKをもらったのだが、元H2は超早期の固定に入るために私の固定から脱退することになった。
FF14の零式攻略で”早期攻略”と呼ばれるのは実装初週から2週目クリアを指すことが多い。FF14の1週間における報酬制限の仕組み上、週ごとに区切る慣習があるからだ。その早期攻略を超える"超早期攻略"は、零式実装の瞬間から昼も夜もぶっ通しで攻略を行い、3日程度でクリアを目指す人たちのことを指す。情報が全く出揃っていない状態で戦うため、FF14のプレイスキルはもちろん、トレース力だけでなくギミック解析能力や現場での瞬間的な対応力、そしてぶっ通しで攻略できる強靭な体力とメンタルが要求される。もはやレイドレースに片足を突っ込んでいるレベルだ。
初週クリアが日本プロ野球だとしたら、超早期はメジャーリーグだと言っても過言ではない。元H2は私の固定からFA宣言してメジャーに行くことになったと考えると、元H2のファンの1人としては頑張ってほしい反面、一緒にやりたかったなあという寂しい気持ちもすごくあった。しかし私は元H2がずっと超早期への憧れを口にしていたのを知っていた。
元H2「うちのメンバーでさあ、例えば火曜実装日だったら、次の水曜に全員で休み取って昼も夜もぶっ通しで攻略やるとか出来ないかなあ」
私「確かにやってみたいなあ。でもうちの固定って昼に休み取れない人もたくさんいるから、やるのは難しいかもね」
元H2は以前から零式が実装されたらすべての時間をFF14にかけて遊びたいと思っていたことを私は十分知っていた。その気持ちに応えるべく、私は諸手を挙げて送り出すことにした。
さて、メジャーリーガーを輩出したとなれば穴を埋めるメンバーを入れないといけない。初週攻略のモチベーションがあるヒーラーに心当たりがないかを考えていると、D4の推薦もあって候補を1人決めた。直接連絡を取って条件等の確認を行うと、ものすごく前向きな返事をもらえた。
新H1「前の煉獄編は悔しかったので、是非リベンジしたいです!」
私も彼とフレンドの間柄なので、その時の状況はよく知っている。新H1は前回の煉獄編で、最終日の月曜21時から次の日の火曜18時まで粘りに粘り、おおよそ”21時間”ずっと4層を戦い続けたがクリアできなかった。そんな攻略、生半可な覚悟で出来るものではないし、それだけ零式に懸ける気持ちも知っていた。
私が声をかけたときはまだ固定が決まってなかったようなので、是非一緒にやりたいと誘った。
他の固定メンバーにも新H1の身の上話をした上で、モチベーションは十分だから固定に引き入れたいと相談した。
MT「俺は全然いいと思うんだけど、うちの固定は”絶対に初週クリアするぞ!”って固定じゃないのはちゃんと理解してもらってる? 気持ちが前のめりになりすぎて俺らと温度感違ったらまずいから」
私の固定は辺獄編、煉獄編と初週でクリアしてきたが、煉獄編に至ってはほぼ初週クリア不可能な状況からの逆転勝利だったため、全く以て常勝集団というわけではない。固定コンセプトも「とにかく楽しくやる!!」がモットーであり、楽しくやるために全力で高い目標を掲げてクリアする、といつも言っている。万が一初週クリアできなかったとしても、新H1にはがっかりして欲しくない、というのがMTの気持ちだった。私もそれに同意した。
新H1には再度固定のコンセプトを説明して、了承してもらった上で入ってきてもらった。
新H1「自分は占星が得意なので、占星やらせてもらえるならすごく嬉しいです」
元H1→H2「じゃあ私は絶オメガでは学者をやっていたので、直近で慣れているジョブを出せるならそれで行きたいです~ 今回は学者に着替えてH2で行きますね」
固定メンバーのピュアヒラをバリアヒラにコンバートすることになったが、今この固定で組めるベストな構成になったのではないか、と感じた。私もいつも通り、STのポジションで攻略を行う。
私の固定は出来るだけ自分が得意なジョブを出すようにメンバーに求めている。今回は戦ナ占学侍竜詩召の構成で挑んだ。
あとはいつものように定期的に集まり、コンテンツに行って固定メンバー感でのコミュニケーションを増やした。4月から5月にかけては時間があったので、まだD3がクリアしていない絶オメガに一緒に行ってクリアした。絶なのでそれなりに時間はかかったが、その分H1が固定に慣れるには十分な時間だった。
攻略ペースの想定
私の固定では、平日21時-25時、土日は1日10時間確保、延長してもプラス1時間まで、というペースで攻略の計画を立てた。これは前回の煉獄編と同様で条件は変えていない。というより、メンバーそれぞれの都合でこれ以上増やせないというのが正しい。全員社会人で日中は仕事をしているメンバーしかおらず、全員が休みを合わせるのも難しいためだ。夜中も延長しすぎると睡眠時間が確保できず次の日のパフォーマンスに関わるため、1時間が限度。この限られた時間で4層までクリアしなければならない。
一応の目安として、攻略ペースの想定を固定の中で共有していた。このペースに乗っていれば順調だよね、という計画線だ。
この計画線を表にするとこうなる。
ちなみに煉獄編ではこんな感じの実働だった。
水曜で3層が終わっていたため、余裕をもって4層に時間をかけることが出来た。しかし4層前半でかなり足踏みしてしまったのは事実だった。日曜日のアクシデントもあったため、煉獄編は本当にギリギリの戦いだった。
計画に沿って進捗を出せているかが、天獄編クリアに漕ぎつけるかどうかの目安になりそうだと考えていた。
穴はリーダーが埋める
今回の攻略には懸念点が1つあった。攻略中の層については各自、予習したり情報を拾ってくるが、さらに先の層の情報を予め集めてくれるのはいつも元H2だった。目の前の攻略に加えて先の層まで情報を追いかけるのは、仕事の片手間だと難しい。メンバーの誰かにこの役目をお願いすることはできないと思った。
誰かに割り当てられないなら、リーダーが巻き取る仕事だろうと私は思った。普段の仕事でも、下っ端の私が出来ない業務や手が回らない所をいつも先輩や上司がフォローしてくれていた。元H2の穴は私が埋めなければと思い、他のメンバーよりも多く時間が使えるように零式実装週は全て有休を取って昼の時間を使えるようにした。
昨年度末にメンタルが追い込まれるほど忙しかったことをちらつかせながら、上司に長い休暇をもらえるようにお願いした。一応嫌な顔はされなかった。一応。
加えて、私たちが4層前半に入っているであろう金曜日辺りには、超早期の元H2は4層後半をクリアしている頃だろうと思った。実際にクリアした人からのギミックの細かい仕様の気付き、感想はすごく重宝しそうだと考えた。そのため、事前に元H2に声をかけて金~土辺りでギミックについて共有してもらえないかお願いをして、快諾を貰った。
何かイレギュラーがあれば私が対応できる状況を作ったため、これで準備は万端だった。今回も大丈夫、と自分に言い聞かせながら実装日を迎えた。
火曜:1層っていうかジャンブルコンボ層
火曜19時に零式が解放されてレイドレース勢が一斉に1層に突入していく。配信でその様子を見ていた私は度肝を抜かれた。普段なら1層の難易度であればトライ回数を増やして強引に突破するチームばかりだが、どのチームも攻略を止めてとあるギミックの解読を優先し始めた。そのギミックが「ジャンブルコンボ」である。
すごく平たく説明すると、右手で旗を振りながら左手でカスタネットを叩き両足でコサックダンスをするギミック。どれかのテンポがズレるとほぼ確定でワイプ。あまりの凶悪さのため、丁寧に処理を読解すべくホワイトボードを使って整理するチームもいた。まだ1層なんだが・・・?
逆にそれ以外のギミックはいつもの1層の難易度程度だったため、このジャンブルコンボをいかに早く攻略できるかがカギだった。
私は配信勢の攻略を4~5窓しながら、攻略のヒントをもらいつつ、情報を組み合わせて処理法を組み立てた。後で合流した固定メンバーの補助をもらい、出来るだけ判断を減らせるような処理に仕上げた。
それでも、実際にやってみると難しいものは難しかった。というより露骨に得意or不得意が出るギミックだった。ジャンブルコンボが安定するまで3時間かかったが、逆にジャンブルコンボが通ったらほぼ最後まで通せた。結局1層をクリアしたのは25時過ぎで、天獄編は予定よりも大幅に遅れてスタートすることになった。
水曜:タンクだけ大谷翔平
なんとか遅れを取り戻すべく、私は水曜の昼から2層の情報をかき集めた。さらに3層の情報をまとめたり、野良の初見PTに混ざって2層の前半部分を現地で体験してきた。
2層を実際にやって体感したのは、タンクしかできないギミックが多く、タンクの責任が重いということ。タンクしか処理できない「尖脚」というギミックで大ダメージを受けながら対岸の島へ吹っ飛ばされて、本島との橋を架けるという流れがあるのだが、キャラクターの立ち位置を1ミリでも間違えると対岸の島に着地出来ず落ちて死ぬ。そうなると橋を架けられなくなり、次のギミックが成立しないため前に進まない。
配信勢の動画を見て何度も予習したが、それでもちゃんと着地できるまで3~4回は落ちた。綺麗なストライク送球が出来るようになった辺りで、私はコーナーギリギリに160km/hのストレートを投げる大谷翔平の姿を想像していた。
他にも色々収穫があったため、今日は2層の進捗で遅れを取り戻せると前向きな気持ちになって固定に合流した。しかし、実際にやってみると見落としていた点がいくつかあった。
まず、「パンデモニックタレット」でタンクが4番目のビームを誘導する時、3番目から4番目に向かって真っすぐ吹っ飛ばされておかないと4番目のビームの誘導判定を貰えない。ここのタンク誘導がかなりシビア。
他には、「魔殿の震撃」のノックバックが「タンク大ダメージ」という言葉しか把握できていなかったが実際蓋を開けてみるとタンクへ素ダメ約17万が入り、最大体力11万のタンクは1~2枚の軽減だけだと普通に死ぬ。全体軽減をきっちり数えて、最低でもジャスガ込みの軽減を炊いておかないと足りないというのを把握できていなかった。
また、タンクに限らず散開・頭割りが連続で来るスピード感が思ってるよりも速く、まともに処理が安定するまでPT全体でかなり時間をかけた。
MTにいたっては「尖脚」の吹っ飛ばしを連続で失敗し、完全にイップスになっていた。
MT「なんで出来ないのかわかんねえ・・・」
私「が、頑張れ! 感覚を修正するんや」
MT「いや毎回同じ位置に立ってんだよな・・・」
結局、この日は1時間延長したものの2層をクリアできなかった。メンバー間でも「このペースはまずくないか?」という雰囲気が漂うのを感じた。
木曜:再生編の再来
木曜日にW1stのクリア報告があった。零式実装から4層クリアまで約36時間。これは再生編W1stの約38時間と遜色ない時間だった。そう意識すると途端に緊張感が出てきた。再生編のリベンジでこの天獄編を始めたわけではないが、自分が今挑戦しているきっかけは全て再生編の悔しさである。もし今回も初週クリアできなかったら、やっぱり自分は初週を目指すレベルではなかったのかもしれない、という不安が頭をよぎる。
周りの初週目標のPTは昨日で2層をクリアしているところが多く、遅れを少しでも取り返すために3層だけでなく4層前半の情報も取りに行った。幸い木曜日にもなれば結構情報が出ていて、偉大な先人の手で資料化されたものもいくつか手に入った。
2層は突入から1時間程度でクリア。軽減周りも十分に噛み合ったし、素早い散開・頭割りも綺麗にさばけたし、MTは尖脚を一度もミスしなかった。
MT「偉いでしょ 褒めてくんね?」
私「偉い!!!!!!!」
3層は確かにギミックのテンポは2層より早い。しかし私たちがよく知ってる零式のスタイルを感じた。敵や予兆を見て決められたルールの通りに動くのは身体に沁みついている。
再生編3層のフェイトブレイカー再来と言われていたが、実際に蓋を開けるとアーカイブアームだったりエンバグだったり、アルファ編4層後半も意識されてたように感じる。
3層は特に散開の基準をボス基準にするか、フィールド基準にするかで周囲の意見が割れていた。私は予習段階で複合ギミックに備えてボス基準に統一したほうがいいと提案していたが、実際にやってみるとボス基準に統一するとわかりにくく感じた。メンバーで都度話しながら、基本はフィールド散開にして一部を例外的にボス基準にするように変更した。ここのフットワークの軽さは本当に良かったと思う。
進捗が遅れていることもあり1時間延長する雰囲気かな?と様子を見ていたが、仕事が残っている人がいるため予定通りの時間で切り上げた。
MT「仕事がちょっときつくてあんま寝れてないんだよな」
H2「私も全然寝れてなくて~」
・・・ん?大丈夫かな。
金曜:台風、襲来
D4「台風来てるね。みんなのところは大丈夫?」
今週、あまりにも世俗を離れてニートをしていたため、「なんか外が暗くて雨が降ってるな」ということしか認識していなかった。世の中は季節外れの台風が大雨を降らして大騒ぎになっているらしいが、まあずっと家にいるし仕事だったら外でなくちゃいけなかったからむしろラッキーか、ぐらいに思ってた矢先だった。
D1「大雨の影響でパトロールの要請が出たのでちょっと行ってきます」
D3「電車動かないかもしれなくて、わかったら連絡します」
MT「今日も25時終わりでいい? 固定終わった後に大雨の影響で職場行かなきゃいけなくなった・・・」
まさか悪天候が仕事に影響し、間接的に固定活動に影響するとは。仕事ありきの固定なので優先すべきところは仕事なのだが、あまりにも運が悪い。他のことで時間が取られるとそれだけ休息を取ったり予習したりする時間が削られる。特にこの状況、明らかにMTに負担がかかっている。
とりあえず、時間が限られてるのは変わらないから、出来る範囲で攻略を進めていくしかない。昨日から引き続き3層の攻略を進めた。
「光と闇の調停」まで安定するようになり、あとは最後の山場ギミック「理法の幻想」を越えるのみとなった。今までのギミックを全て複合したような総復習のギミック。ここに来て私が原因で2回ワイプした。
D2「どんまーい!」
H1「どんまいです」
D4「落ち着いていこう!」
メンバー各々時間のないのに頑張っているなか、時間がある自分が足を引っ張っている感覚がした。最後の最後でクリアしたときも、外周雑魚からのタンク線を綺麗には落とせておらず、メンバーみんながフォローしてくれてなんとかクリアまで漕ぎつけた。
私「いやホントすいませんでした・・・」
D1「いやいやw 気にせず」
かなり予定からは遅れたが、4層前半に辿り着いた。周りと比べると後発になったため、「パラディグマ2回目の線と塔ギミックは線の色を見て塔持ちが優先度順に寄る」という形が安定しそうだと情報が合ったため、「スーパーチェインセオリーI」に辿り着くまでは割と早かったように思う。
この「スーパーチェインセオリー」は「I」「IIA」「IIB」と3種類あるのだが、全て厄介だった。ギミックが来るスピードがこれまでの比ではない。「I」は割と手前に来るギミックなので、数をこなして体に染みつくように練習した。この日はPTで「スーパーチェインセオリーI」を越えられなかったが、ある程度の形は出来上がってきた。
この日は予定通り25時で活動を終えて解散となった。
固定後は負荷がかかっているメンバーにまとまった情報を渡すことで予習の時間を減らしてあげられないかと考え、私は固定が終わった後も黙々と攻略情報をまとめた。
土曜:なんとかしなくちゃ
私「大丈夫? 仕事の後寝れた?」
MT「まあ一応、1時間半は・・・」
私「おー・・・」
MTのコンディションが明らかに絶不調なのは見て取れた。とはいえ、じゃあ攻略やめときますか、と言うわけにはいかない。いつも通り資料を使い、4層前半のギミックについてメンバー全体で認識を共有していく。メンバーに負担をかけないように、出来る限り資料を整理し、共有に時間がかからないようにした。
「スーパーチェインセオリーI」も安定し始め、パラディグマ3回目も必ずDPSに線、タンヒラが塔踏みだとわかった辺りでサクサクと抜けられるようになってきた。
問題は「アルテマブレイド」だった。絶アレキの「次元断絶のマーチ」が零式に来たと巷を賑わせたギミック。処理が綺麗に見えたW1stの処理をトレースしたが、実際にやってみるとかなり難しい。
本当は1人で受けられる攻撃をあえて2人ペアになって受けてフィールドを広く綺麗に使う処理のため、とにかくダメージが痛い。最終的にヴェール・シェイクオフ・トルバを固めて安定したが、かなりヒラに負担をかけた。
他にも、真ん中から雑魚が撃ってくるビームを2名でペアになって誘導するが、そのビームのタイミングが毎回違う。厳密に言うと、アルテマブレイド開始前に雑魚がフィールドを囲むが、その雑魚が消えていく順番でビームのタイミングが決まる。どのタイミングでビームが来てもいい処理にはなっているが、毎回動くタイミングが変わるのはとてもやりづらく、とにかく事故が起こりやすい。私たちの固定ではビーム処理のペアが「ビーム来た!!」と毎度コールすることで、タイミングがずれても動けるように全員で工夫した。
「アルテマブレイド」を抜けた先に待っているのは「スーパーチェインセオリーIIA・IIB」で、これもまた難しい。単に今まで見たギミックの複合なのだが、見なければいけない箇所が多すぎて視点が定まらない。そして定まらない間にミスをする。それが4層前半の最後に待ち構えているせいで、回数見るためにはアルテマブレイドを安定させる必要があった。限られた時間の中で安定させるにはかなり難しかった。
結局、最終的には時間切れまではいけたものの死屍累々のありさまで、前半クリアとまではいかず土曜日の練習時間を終えた。4層前半はクリアしても再突入すればまた前半からなので、無理に前半クリアに拘らずきっちり25時に解散した。
元々の予定では既に4層後半の練習に入っているはずだったが、土曜を終えてまだ4層前半すら越えれていない。
私たちは本当に初週クリアできるのだろうか。
ふと、隠し続けてた不安が表に出てくる。
いや、絶対に諦めてはいけない!! 今は出来ることやる。明日の昼からまた活動があるから、それまでに4層後半の資料を整えて全員の認識が揃うようにしなければならない。4層後半は「カロリックセオリー1回目」が一つの山場と聞いている。その資料を作らなければ。それだけじゃない。4層後半は他にも気をつけなければいけないことがたくさんある。今固定で積極的に4層後半の情報を集めていたのは自分だけだ。時間がある私がなんとかしなくちゃ、私がなんとかしなくちゃ、私がなんとかしなくちゃ、私がなんとか────
元H2「なんかほしい図解ある? 今日ある程度つくれるよ」
・・・へ?
私は元H2から届いたDiscordの通知を見て、その言葉の意味をすぐには理解できなかった。そもそも土曜の夕方ごろ、既に4層後半をクリアしていた元H2から情報を共有してもらっていた。そのとき元H2はカロリックセオリー1回目についてはW3rdが採用した処理が良いと私に提案してくれていたのだが、その共有の時間を取ってくれただけでなく、今から私の固定のためにその図解を作ろうと言うのだ。元H2にとっては既にクリア済みで、今更図解など作る必要など無いのに。もう既に深夜だというのに。
私「マジすか」
元H2「私もサポメン出荷とかの固定活動があるからその合間になるし、どのぐらいの粒度かにもよるけど、全パターンあればいいよね?」
私「全然十分それで足りる!!」
元H2「明日朝くらいまでには作って渡すわ。ちゃんと寝てね」
え? いや、固定メンバーの中では時間ある方だからちゃんと寝てるけどな・・・そう思いながらシャワーを浴びる前に体重計に乗ると、3日前と比べて体重が2kg落ちていたし、鏡を見ると生気を失った自分の顔がそこにあった。そうか、自分もちゃんと追い込まれてたんだな・・・。
倒れこむようにベッドで寝た後、スッキリ目覚めてDiscordの通知を見た。元H2から届いた資料は「カロリックセオリー1回目」の全パターンが展開されており、それらを分かりやすく説明するルールも添えられていた。文句無し、完璧な資料だった。
私は感謝のチャットを送り、急いで固定メンバーに共有した。まだ4層前半は越えていないが、前半を越えた後の1セットを無駄にしたくない。4層突入前に元H2からもらった資料を使ってギミックの説明した。相談の結果、メンバーに理解してもらった上で私が全て処理パターンをコールする形を取った。
ここまでやってもらったのだ、絶対に諦められるか。
日曜:理不尽と戦い
前日に4層前半を詰めこんだおかげか、この日は攻略を始めてたった2トライで4層前半を越えた。最初から1セット100分近く、まるっと後半の練習に使える。前日に前半を越えられなかった悔しさはいつの間にか消えていて、目の前の後半に集中していた。
山場と言われた「カロリックセオリー1回目」はたった3トライで越えることができた。間違いなく元H2の完璧な資料のお陰だった。その後の「パンゲネシス」も元H2のアドバイスを整理したカンペを作り、詠唱開始の度にPTチャットで流して処理方法のド忘れミスを減らしていた。
1日10時間の練習はあっという間に過ぎていった。気づけば前半もかなり安定してきて、後半の練習時間をしっかり確保できた。しかし、夜になると少しずつ疲れも出てきた。既に安定していたりいつもなら丁寧に処理できるギミックでもミスがポロポロと出てきた。「イデア・エレメンタル2回目」に2回ほどたどり着けたが、焦りすぎた私が点対称を探せず2回ともワイプさせて、理系出身の肩書に泥を塗った。
さらに、「カロリックセオリー1回目」の処理が終わると本当なら解除されるデバフが再付与されるバグが私の固定でも発生した。
このデバフはフィールド半分ぐらい歩くとデバフが爆発してワイプする上に、このデバフを持った状態で死んでもワイプする。つまりバグが発生した時点でほぼワイプ確定。このデバフが何人にも再付与されるのだからどうしようもない。
MT「なんで今のワイプした・・・?」
私「これデバフが付いたままだ」
H2「バグ?」
D4「なんかSNSで見たかも」
D2「マジか、しょーもなすぎる」
このバグで強制的にワイプしたトライが記憶してるだけでも3回はあった。時間を浪費するだけでなく、3回分の集中力もこのワイプで持ってかれてしまい、他のトライにもかなり影響が出たと思う。
それでも、このバグを乗り越えてクリアしている固定もある。加えて、このバグの修正が初週の間に入らないこともわかっていた。このいつ発生するかわからないバグを乗り越えて私たちは初週クリアしなければならない。
気が付くと25時を迎えていた。明らかに途中からギミックが安定しなくなり、「イデア・エレメンタル2回目」の後を見ることは叶わず、残りを月曜に残すこととなった。
また自分が足を引っ張ってしまったのだろうか。
最後のギミックを見れていないが、本当にクリアできるだろうか。
不安でたまらなかった。でも、決して諦めてはいなかった。
月曜:最後の日
疲れを引きずりながら起床してDiscordの通知を見た。固定メンバーが各自で「カロリックセオリー2回目」の足りていない図解を追加してくれていたり、「イデア・エレメンタル2回目」のコツなどをまとめてくれていた。私の手が届かなかった部分を各自がそれぞれで考えて、自分たちで考えて手を動かし、フォローしてくれていた。私からは何もお願いしていないのに動いてくれる所を見て、チームの自走力と最後まで絶対に諦めないという気持ちを感じた。
私はまとめてくれた資料を見ながら、自分でも気になる所は復習資料を集めた。残りの時間は全身をとにかくマッサージしたり、限界まで来ている腰をマッサージしたり、目の周りを何度もほぐしたり、夜の時間に集中できるようにとにかく休養を優先した。
21時。固定で最後のギミック確認を行い、コンテンツに突入した。前半はもうかなり安定していて、ほとんどを後半の練習に充てることが出来た。
この日、PT全体で「イデア・エレメンタル2回目」のミスをほぼ無しにすることが出来た。「カロリックセオリー2回目」も巷では簡単だと言われたが、細かいミスが発生してワイプが多々あったため細かく確認を繰り返した。
バグへの対策も試みた。サーバーへの負荷を減らすと良いと風の噂で聞いたため、バリアを貼らず軽減系のバフのみでヒールワークを組んだ。結果的には対策をしてもバグは発生した。途中から「カロリックセオリー1回目」はバグが発生しないことを祈るギミックになっていた。
何度もトライする中で最後の「ガイアオコス」を一回見た。ただ、クリアはできなかった。一通りギミックを見たところで時刻は25時半を回っており、予定の時間は越えていた。一旦コンテンツを出る。
私「今もう25時越えてるんだけど・・・」
D1「今VC繋いでる状態だったら、ここで攻略を止めて2週目クリアに回したいって人は言いづらいんじゃないかな。一旦みんな休憩とって、続けるのがきつい人はリーダーにDMしよう」
私「そうだね、それが良いと思う。一旦離席するわ」
私は席を立ってお手洗いを済まし、飲み物を汲んでからゆっくりと飲み干した。
絶対にクリアしたいという気持ちは、もしかすると実はただのエゴであって、自分だけが熱くなってた一週間だったのかもしれない。
そう思うと少し冷静になってきた。これだけ頑張ったわけだし、このメンバーでいけるところまで頑張れたのだから、クリア出来なくても悔いはないんじゃないか?
うーん・・・
・・・
本当はクリアしたい。
初週クリアしたい。
諦めたくない。
自分の気持ちを再確認して席に戻ると、Discordの通知が光っていた。
DMだ。
私は恐る恐る、その通知を開いた。
ばかがよお。
VCのミュートを解除し、大きく息を吸い込んだ。
私「みんなやるってさ!!!!」
「っしゃあああああ!!!!!!」「やったーー!!!!!!」「やるぞおお!!!!!」「おっしゃあ!!!!!!」「あ~~~また今回も残業か~~~~!!!」「僕はこうなるってわかってましたけどね」
気持ちは揃った。絶対に勝つ。
絶対に勝つ!!!!
再突入。正直疲れは限界まで来ている。でも絶対に今日クリアしたい。今日しかないんだ。明日でも来週でも一か月後でも一年後でもこのゲームは遊べる。それでも今日クリアしたいんだ!!再生編に置いてきた気持ちを今日取り返しに来たんだ!!今日がラストチャンスなんだ!!!!!
体力も気力ももう無かった。くたくただった。この状態でノーミスというわけにはいかなかったが、たとえワイプしても誰も諦めていなかった。
D1「どんまい!」
D2「次行こう次!」
H1「どんまいです!」
私「行くぞ行くぞ!」
最後のガイアオコスまでたどり着いた。
H1「相方探すマクロ押して!!」
D4「押した! OK!」
D1「自分がギミックコールするから処理と軽減に集中して!」
H2「バリア貼る!」
MT「シェイクオフあるよ」
私「リプ入れた! 後ろ頼んだ!」
全てのギミックを終えて、最後のダメージを受けて、あとは攻撃するだけ。スキル回しはもうぐちゃぐちゃだった。でもこのチャンスを諦めたくない!!!!!
「いけいけ!!!!!」「あと殴るだけ!!!!!!」「いけーーー!!!!」「いけいけいけ!!!!」「いけるぞ!!!!!!!!!」「俺たちなら絶対いけるぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
午前3時、私達は天獄編零式を初週でクリアした。
私はその場で泣き崩れてしまった。全員が諦めなかった気持ちへの最高の感謝と、リーダーとしての重荷から解放された安心感でぐちゃぐちゃになった。
再生編のリベンジから始まった私の固定は、暁月のフィナーレ初週クリア三連覇で幕を閉じた。
私「本当にありがとう・・・みんなが最後まで諦めなかったおかげで・・・自分も頑張れて・・・本当に・・・本当に・・・」
MT「なに最後みたいな雰囲気だしてるんだ? まだやるだろ」
・・・え?
─Fin─
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?