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ほぼ全歯を虫歯治療して口腔サイボーグと成り果てた男の格闘記録【#いい歯のために】

突然ですが皆さん、「歯」はお持ちですか?
歯ってあるとすごく便利なんですよねぇ。食べ物とかすごい噛めますし。

これは、自業自得により普通に歯があることに感謝の気持ちを抱かざるを得なくなってしまったある男の物語です。

第1章:始まりは1枚の画像、とかより遥か昔

まずはこちらの画像をご覧ください。

地獄絵図ですね、はい

これは私が通っている歯医者さんで撮影した口腔内のレントゲン写真に先生が治療計画を記した資料です。口の中全体を撮影したもので、並んでいる歯が見て取れると思います。この写真の中で青丸で囲まれているのがこれから治療する予定の虫歯、濃い白色に写っている部分は過去に治療済みで詰め物などが入っている状態の歯です。

すでにツッコミどころ満載なのはわかります。ちゃんと説明しますからいったん落ち着いてください。

時は遡ること25年前(!?)。

私は幼少期から歯が弱く、小学校低学年くらいの歳には歯医者に通っていました。歯医者に行くため母に手を引かれて地下鉄を乗り継いだことを今でもよく覚えています。子供の頃の虫歯は放置期間が短かかったため、当時はそこまで大きな治療をせずに済んでいたと思いますが、それでも私にとって歯医者は口の中に謎の器具を突っ込み拷問を仕掛けまくってくる悪魔のような存在であり、私は歯医者が大嫌いでした。

成長して高校生になると、親の言いつけを無視して歯磨きもそこそこにスナック菓子をコーラで流し込みながらゲーム三昧の日々。「虫歯とか怖くねぇし。歯医者になんて行くもんか。あんな拷問受けてたまるかよ。」私は思春期の只中にあり、大嫌いな歯医者にあろうことか親の言いつけで通うなどという恥を晒すまいと、意地でも歯医者には行きませんでした。

そうして歯医者通いをやめたまま月日は流れ大学4年生となったある日、事件は起こりました。友人と大学近くの定食屋で定番のチキン南蛮定食を食べていた時のことです。

左上前から2番目の歯が急に欠けました。チキン南蛮でです。ただ、思い返すとここは中学生時代の治療ですでに詰め物が付いていた場所であり、どうもその詰め物が外れてしまったようでした。

にっこり笑うと前歯が欠けた大学生。これはマズい。私はついに歯医者へ行く覚悟を決めたのでした。

第2章:「どうしてここまで放置したんですか!?」

当時私は大学近くで一人暮らしをしていたため、歯が取れた事実は親にバレずに済みそう・・・。なけなしのバイト代を握り締め、自宅近くの歯医者に向かいました。中学生ぶりの歯医者でしたが不思議と恐怖心はなく、「オレも大人になったなぁ。」などと思いながら受付を済ませ、まずはレントゲン撮影、その後いよいよ治療開始です。

詰め物が取れただけで他に痛む歯もなかったため、正直そこまで緊張はしていませんでした。くっつけて終わりかな、みたいな。

そして担当の先生がレントゲンを見ながらやってきて開口一番、
「どうしてこんなになるまで放置したんですか!?」
想定外の一言に驚きを隠せない私。
「ど、どういうことですか?」

先生が言うには、取れた詰め物の下にかなりひどい虫歯が存在していたらしく、なんとその虫歯は上顎の骨までをも侵食して、そこにぽっかりと穴を空けていたのです!しかもその穴は膿で満たされているという状況。(写真がないのが悔やまれますが、レントゲン画像を見ると確かに前歯の上あたりの骨に丸い影がありました。やば。)

「他にも虫歯がたくさんあるので、それも一緒に治療していきましょう。」

元々歯が弱いのに中学生以降歯医者に行っていなかった私は、自分の歯の状態を全く理解できておらず、私の口腔環境は長年放置された虫歯の進撃により崩壊の一途を辿っていたいのです。(歯医者には定期的に行け、と言われるのはこういう事です。最近行ってないって人はマジですぐ行って!)

その時に治療した歯が、冒頭の画像で目立っていた前歯3本です。

この3本以外にももっと治療したと思います。

前歯は食べ物を噛み切るという重要な役割を持つ歯であり、こいつらが使えないのは食事という行為において死活問題です。さすがに3本同時進行ではありませんでしたが、非常に大変な治療でした。この3本の歯はいわゆる差し歯であり、歯の根っこの神経を取り去って空けた穴に土台を立てて固め、歯の代わりとなる義歯を付けるというものです。

一番状態がひどかった骨まで溶かしていた凶悪な虫歯については、差し歯にする前にまず上顎に空いた穴の中の膿を掻き出して、そこに消毒液やら薬やらぶち込むという治療を何週間にもわたって繰り返しました。少しでも菌が残っていると埋めた後にまた再発するので、完全に除去する必要があったためです。

うろ覚えですが、全部終わるのに少なくとも半年はかかったし、費用も軽く10万円はいっていたと思います。当時時給700円で働いていた大学生のバイト代で10万超えは痛い!ここまでの人生で一番デカい自腹の出費だったと思います。

無事に全ての虫歯を治療し終えて一安心。親にもバレずに済みました。これからはちゃんとデンタルケアをしつつ健康な歯を維持していこうと口腔の神様に強く誓った私でしたが、この後さらなる地獄が待ち受けていることを、この時の私は知る由もありませんでした。

第3章:人類(私)は同じ過ちを繰り返す

時は流れ、私は生まれ故郷の福岡を離れて遠く茨城の地で社会人生活を送っていました。あれからは特に歯が急に欠ける、などといった問題もなく平和な食事生活を送っていました。

しかし、何もないことを良いことに私の歯医者嫌いは再発し、地元を離れてかかりつけの歯医者もなくなったために、定期的な健診にも行かず、仕事に趣味にと忙しい生活を送っていました。

最後の歯医者から7年ほどが経過したある日、私は口腔内に違和感を覚えました。

「左上の奥歯、最近すごい水が滲みる。ていうかお湯も滲みる。何ならチョコレートとか甘いものも滲みる。」

冷たいものが滲みるのは、経験上よくあったのですが、お湯や甘味まで滲みるというのは聞いたことがありません。不安になった私はすぐに歯医者を予約し、健診を受けに行きました。そう。私は過去に学んでおり、変な意地を張って歯医者に行かないなどというあの若かりし頃の愚行を繰り返しはしないのです。

そうして歯医者で健診を受けた結果、先生から一言、

「これはかなり大きい虫歯ですねぇ。歯が残せるかわかりませんが、できる限りのことをやっていきましょう。」
「歯が残せない可能性があるんですか!?」

先生は頑張ってくださいました。何とか抜歯せずに済ませようと虫歯菌のユートピアと成り果てた奥歯の虫歯を削り落とし、腐り切った神経の除去作業をしてくださいました。しかし、麻酔が切れると歯が何日も痛みます。普通であれば治療による刺激で1日程度痛いことはありますが、ここまで痛みが長引くのは初めてでした。仕事中も歯が痛くて集中できない。いつもは余らせる痛み止めも使い切るという状況でした。

そして懸命な治療の甲斐なく、私は左上の奥歯2本を抜歯することになってしまいました。虫歯の勢力が強すぎて隣の歯まで一緒に死んでおりました。(下の画像の四角い枠で囲まれたものが今回抜歯となった歯です。)

この画像は5と書いてある歯を抜いた後に撮ったものです。

抜歯を経験したことない方も多いと思いますが、抜歯ってガチでペンチのようなもので引っこ抜きますよ。引っこ抜くというか、強固にくっついている骨と歯をテコの原理で無理やり剥がし取る、といった方が良いかもしれません。バキン!!ってすごい音がします。骨折の音ですよ、あれ。抜歯の衝撃と痛みで次の日仕事を休みました。

痛む頬をさすりながら、私は学生時代と同じ過ちを繰り返した自身の愚かさを呪いました。なぜ私は歯医者に定期的に行かなかったのか。茨城に引っ越してきてまずやるべきは歯医者を探すことでした。

引っ越ししたら電気、ガス、水道、歯医者。皆さんも肝に銘じてください。

第4章:金ならいくらでも払いますから!

2本分の抜歯を乗り越えて虚無となった私ですが、現実問題としてこれからどうするかを決めなくてはなりません。このまま歯抜け状態で生き続けるわけにはいかないからです。

実は歯というのはちょっとずつですが口の中で動き回っています。矯正して歯並びが良くなるのは口の中で歯が動いてくれるからです。そして、抜歯をして口の中に隙間ができた場合、残された歯でその隙間をカバーするように動いていきます。

私の場合、2本分の隙間があるわけなので、それを残りの歯でカバーするとなると歯は上顎でプレートテクトニクス並みの大移動を繰り広げることになります。端的にいうと歯並びが終わります。これは審美性だけの話ではなく、噛み合わせも絶望的に悪くなるために噛んで食べるという機能的な問題も生じさせることになるのです。

これを解消するためには何かしらの方法でその抜けた穴を埋める必要があり、現代の医療では基本的に3種類の選択肢が用意されています。

  1. 入れ歯(おじいちゃんとかがたまに外して洗ってるアレ)

  2. ブリッジ(関係ない両脇の歯2本を生贄に捧げて、橋をかけるようにして治す治療)

  3. インプラント(くそ高いヤツ。でも見た目、機能はピカイチ。)

親知らずじゃない限り、抜歯をするとこの3択になると覚えてください。

  1. 入れ歯:これだけはない!彼女とのロマンチックなデート中に「ごめん、ちょっと歯洗ってもいい?」じゃないのよ!

  2. ブリッジ:これは抜いた歯の負担を両脇の2本に肩代わりしてもらう治療なため、生贄となる歯に多大な負担がかかります。そのため最終的に両脇の歯までダメになってしまうことも。それが私の場合、2本分なので単純計算で両脇の歯は1本あたり2本分の仕事量ということに・・・。

  3. インプラント:高い!骨にドリルで穴を空けてネジを付けるという、SFチックな手術を受けることになる。(ヤダちょっとかっこいい)でも超高い!

つまり、私に選択の余地はありませんでした。インプラントを入れるしかありません。
「インプラントって費用はどれくらいかかりますか?」
「1本60万円くらいかかります。」
「つまり2本で120万円・・・。」

多分ここまでの人生で一番デカい自腹の出費だと思います。

そして私は思いました、長きにわたって虫歯と戦い続けてきましたが、もうこれ以上の犠牲を出すわけにはいかない。この戦いの連鎖を断ち切ることができるのはこの私だけだ!そのためにはいくらでも投資しようじゃないか。

私はこの戦いを終わらせる覚悟を決めました。

「金はいくらでも払うから!全部虫歯をやっつけてください!」

そして、全ての虫歯を駆逐するために行われた徹底的な検査の結果作成されたのが冒頭の画像というわけです。

治療する歯、13本もあるんかい・・・。

第5章:#いい歯のために

「どうしてこんなになるまで放置したんですか?」

学生時代に先生から言われた言葉がフラッシュバックします。治療計画は膨大です。いったいどれくらいの期間がかかるのか。そして、一体いくらかかってしまうのか・・・。しかし、虫歯菌を我が口腔内から駆逐するために中途半端なことはできません。

治療のおおまかな流れとしては、まずインプラントを入れる予定の歯を抜歯し、傷口が綺麗に塞がるまで置いておく(約3〜4月ヶ月)。それを待つ間に他の虫歯治療を進めておきます。そしてインプラントの手術をして、術後の傷が塞がりインプラントが体に定着するまでの間にさらに虫歯の治療を進める(約半年)。最後にインプラント用の義歯を装着して完了です。

しかし、ことはスムーズには運びません。インプラント定着待ちの期間に治療する虫歯が全て軽症であるという保証はどこにもありませんし、実際にかなり大きな虫歯も何本かありました。

幸い3本目のインプラントとなることはありませんでしたが、右の奥歯2本が新たに差し歯となりました。材質を良いものにしたというのもあり、こちらも1本あたり10万円くらいかかりました。さよなら20万円・・・。

差し歯などの義歯の材質にもいくつか種類がありますが、いわゆる「銀歯」呼ばれるものは保険適用なため安価で治療できます。しかし、銀歯は時間が経つにつれて取れてしまったり、銀歯の中で虫歯ができたりと、安価ですが多少リスクも取ることになります。今回私が選択したのはジルコニアという材料にセラミックをを焼き付けるという、名前からしても強そうな材質です。私は覚悟を決めていますし金銭感覚もバグってしまったので、一番良いものにしました。

それ以外の歯も大小様々ですが、基本的には銀歯を使わないようにして、お金がかかってでも強度、耐久性のある材質を選ぶようにしました。結構かかったと思います。でも私は覚悟を決めていますし(以下略)

そして、ついにインプラント手術の時がやってきました。治療室に入ると普段いないインプラント専門医的な先生が1人増えてるし、アシスタントの人も2人くらいいる。ものものしい雰囲気が漂っていました。治療椅子に座ると、まずは顔の周りを消毒されて口のところだけ丸く穴が空いている防菌シートを被せられました。そして歯茎にガッツリ麻酔を撃ち込まれていよいよ手術開始です。

まず、インプラントの手術は全く痛くありません。ドリルで顎の骨に穴を開けるのですが、麻酔がしっかり効いてくれています。でも歯茎にメスが入っていく感触、ドリルが骨に穴を開けている感触はめちゃくちゃ感じます。「お〜!歯茎が切り開かれてるぅ〜!骨が削られているぅ〜!」って感じです。そして空いた穴にインプラントの土台を入れて周りに骨の素?みたいな粉を詰めます。あとは歯茎を縫合して終わりです。1時間くらいであっさり終了しました。

これであとはインプラントと自分の骨がしっかり合体するまで経過観察。良かった良かった。と思うのはまだ早い。ここから半年間一切左側の歯を使うことができません。もしも途中でインプラントが動いてズレてしまうと全てが水の泡です。地味にこの期間がしんどかったです。食べるものにはなるべく咀嚼が少なくて済むものを選んだり、大きくかぶり付くような食べ物を避けたりと気を遣わばなりません。

せっかくの美味しい食事が、ただただインプラントに気を遣って栄養を摂取するだけの苦痛の時間になってしまいました。でもしょうがない、これを越えた先には綺麗になった歯で美味しい食事ができる!好きなものをたくさん食べられる!

「いい歯を手に入れるんだ。」

それを夢に見ながらを半年間を耐え凌ぎました。

第6章:いい歯は一日にして成らず

全ての治療が終わるまでに、結果的に約1年半もの時間がかかりました。インプラントに問題はなかったのですが、その他の虫歯治療に思った以上に時間がかかってしまいました。

最後の治療が終わった日、先生やアシスタントの皆さんからたくさんの労いの言葉をもらいました。もう治療をしなくていいんだという清々しい気持ちもありましたが、私はあまりにも多くの歯を失いました。金属やセラミックの歯に置き換えられた口はさながらサイボーグのようです。

軽自動車くらいの値段になった我が口とこれからどう付き合っていくべきか。次にまた同じ過ちを犯したら、いよいよ歯がなくなってしまう。やはり虫歯の予防に一番効果があるのは定期的な検診と歯のメンテナンスです。

私はこの治療以来3ヶ月に1回の歯医者でのクリーニングに欠かさず行くようになりました。日々の歯磨きのやり方もちゃんと歯科衛生士の先生からレクチャーを受け基礎から学び直しました。それに加えて歯間ブラシやフロス、液体歯磨きも活用し、口腔環境の維持管理に努める日々です。

インプラント治療をしてから現時点で1年ほど経過しましたが、日々の歯磨きと歯医者でのメンテナンスのおかげで、現在すこぶる調子が良く、今となっては定期検診時にチェックしているプラーク付着率が10%を切り、先生から「インプラントするような人と思えないくらい上手に磨けてますよ♪」と褒められています。なんだろう嬉しいけどちょっと心がチクってするぅ。

というわけで、かなり長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。「歯」なんてあって当たり前と思うかもしれませんが、大切にしなければ失ってしまう物であるということ。やばいと思ってから動いてももう手遅れであること。定期的な検診が大切であること。私は人生を通して理解するのが遅かったですが、歯を大切にする習慣はいつからでもスタートできます。あなたもぜひ今日から始めてくださいね。

・・・私みたいになる前に。

最後に

私が夫婦で運営している毎週月曜日配信のポッドキャスト「ひとつ屋根の下ラジオ」でも私の虫歯エピソードを聴くことができます。興味がある方は下のリンクから聴いてみてね!面白かったらフォローや評価もよろしくお願いします!


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