081 滑舌が悪い、だけど喋るのは好き (後編)
(↓前回からの続きです)
『ぼくはヤナギサワ』(後編)
3.
23歳のとき、友達のマタノさんが誕生日パーティーを開いてくれた。10人ぐらい来てくれてワイワイやった。その頃は、いつも相も変わらず酒を破滅的に飲んでいた。
ほくとに片桐仁のTシャツと、エレ片のサイン入りのポップをもらったり、コタニにX-MENのサイクロプスみたいなグラサンをもらったり、コタニに「要らないんならください」とX-MENのサイクロプスみたいなグラサンを没収されたりしながら、楽しく飲んでいた。誕生日当日に、誕生日プレゼントの返還を求められたのはこのときが初めてで、その後一度もない。
お酒は、ずっと芋焼酎をこよなく愛している。どんなメシにも合うのが良いし、オールシーズンいつ飲んでも変わらずウマイのがとても良い。意外なところでは、ようかんとか、わらび餅とか和菓子にめちゃくちゃ合う。
最近は、あまり強い酒は要らなくなったので、水割りで飲むことがほとんどだが、当時はとにかく沢山酒を飲んで酔っ払ったほうがおもしれーじゃんという悪魔のような飲み方だったので、芋ロックを続けて10杯以上飲むことがザラだった。北海道の、飲み放題価格のあまりの安さも、飲酒を加速させる一因であった。
その日も結構なペースで芋ロックを飲み続けていた、中盤に来て、芋ロックを空けたそばからまた芋ロックが空いてしまったので、追加で頼もうと店員さんを呼んだ。
ホールの店員さんは数人いて、今日はじめて我々のテーブルに来た店員さんが、注文を取りに来てくれた。
僕が芋ロックで、というと、アダリョージのときと同じ(あの時は電話だったが)「?」感が、その店員さんから対面で漂っていた。
少し間が空いた後に店員さんが「芋ロックで~」と復唱したと思ったので、はい。と答えた。
店員さんがはけていった後、ほくとが「今絶対芋ロックって言ってなかったよ。モロキュウって言ってたよ」と僕に忠告をした。
「確認したほうが良いんじゃない」と言われたので、忙しい所申し訳ないが、もう一度店員さんを呼んだ。
先程の店員さんがテーブルに来て、僕が、何回もすいません。さっき芋ロック頼んだんですけど大丈夫ですよね?と確認した。店員さんが「はい、芋ロックですよね」と言ったように聞こえたので、はい。じゃあよろしくおねがいします。と答えた。
数分後、モロキュウは運ばれてきた。
芋ロックは来なかった。やっぱり僕の「芋ロックで」は、「モロキュウで」と聞こえていたようだ。もともとの滑舌の悪さ+程よく酔っ払ってきて、口周りの筋肉が弛緩していたことが重なってのことだった。
よく考えると、ほくとの「確認したほうが良いんじゃない」というアドバイスは的確だったのだが、注文も確認も、2回とも俺とあの店員さんでやり取りしたのがミスだった。
俺の壊れた送信機と、店員さんの壊れた受信機の組み合わせで2回やり取りしても同じに決まっている。
かくして、エンタの神様だったら下部にテロップで「児島:芋ロックだと思っている」「渡部:モロキュウだと思っている」とそれぞれ出ている、ナチュラルボーン・アンジャッシュ状態が成立してしまったのだった。
モロキュウは勿論美味しく頂いた。モロキュウって美味しいんだ、とこの時に気づいた。この会では、その後から、ほくとに芋ロックを頼んでもらうようになったのは言うまでもない。
この日で決定的に、自分が滑舌が悪いということを自認した。
4.
三四郎の漫才のお馴染みのくだりで「焼肉屋でアイス頼んだらライス来るんだよ!ライス頼んだらアイス来るんだよ!」と言うのがあるけど、ほとんど変わらないぐらい滑舌が悪いので、普通に同調して見てしまっていた。
それでも「俺って滑舌悪いよね?」とたまに友達に確認するが、「そう思う」「むしろ滑舌がいいと思う」「それ以上に声がこもってる」など評価がマチマチなので、これすら一定していない。
もしかすると仕事中のように、テンションが低いときは聞き取りにくくて、ちゃんと意識して伝えようとしているときはハッキリしている、とかそういう違いかも知れないが…
これからも、重要な書類を提出する場とかじゃない限り、ヤナギサワと言われても訂正しないで、この滑舌悪い人生は続いていくだろう。
そして、無性にモロキュウと芋ロックで飲みたくなった。できればわらび餅も傍らに付けて。なんか信州のおじいさんが茅葺き屋根の家で「これがウマイんだよ」と、酒を飲み始めたばかりの親戚の子に勧めてるみたいなラインナップだな。とりあえず買ってきますわ。
<完>
うれしいです。