【1人・15分・声劇台本】落語・久兵衛
不問1
【演じる上で注意点】
1人台本で、落語をモチーフにしています。その為、色々な演者が出てきます。その際に、名前「」で書いてあります。
() 描写(読まないでください)
[] セリフ読み方
名前「」 各キャラクターのセリフで、名前は読まないでください
【登場人物】
久兵衛・・・男性20代。奉公人として、両替商で働く。でくの坊で、馬鹿。
旦那様・・・男性50代。鴻池弥太郎は、両替商を営み、久兵衛を奉公人として雇う。
安藤・・・男性50代。呉服屋の亭主で、鴻池弥太郎がよく頼んでいるお店で、久兵衛の事も知っている。
御宮・・・女性20代。吉原の遊郭で働く女で、久兵衛のお気に入りの女性。
【台本】
おやー、おやおやおや、端から端まで、奥から手前まで、
今日はお客さんは、よーく入っているようで、上がってしまいます
本日は、高座から1つお話をさせていただきたいと思います
でもねぇ、噺家の我々もわかってるんですよ?
話を聞く為に、みなさんが来てくれてるってのは、ただねー
気恥ずかしさ、というものは、
いくつになっても、消えないものですから(笑う)
そのー、「いくつになっても、消えない」というのは、
江戸の昔にも言えた話でございまして、その昔、久兵衛、
と呼ばれる奉公人がございました
久兵衛は、何をやってもうまくいかず、奉公に出されては、暇を出されてを繰り返している間に、
両替商の旦那のところに奉公にやって参りました
久兵衛「旦那様ー!旦那様ー!」
旦那様「おー、久兵衛、どうしたんだい?」
久兵衛「その、旦那様があっしを探されていると聞きまして」
旦那様「そうでした。お使いを頼まれてくれますか?」
久兵衛「もちろんでやんす!どちらに向かいましょうか」
旦那様「いつもの、安藤の呉服屋に行って、服を貰って来て欲しいんだ」
久兵衛「へぇ!どんな服を?」
旦那様「いえいえ、久兵衛。安藤の旦那はわかっているはずだから、この代金をもって行ってくれればいい」
久兵衛「うへぇーーー!こんな大金…怖いですね」
旦那様「これこれ、こんなところで数えるんじゃないよ」
久兵衛「すいやせん…」
旦那様「余った分は、帰りに蕎麦でも食べてらっしゃい」
久兵衛「よろしんでございますか!」
旦那様「もちろん」
久兵衛「では!いってまいりやす!!」
旦那様「気を付けてね」
そうして、久兵衛は走って呉服屋まで向かいます
久兵衛「すいやせーーーん!あー、失敬失敬…」
安藤「そんな大声出さんでも…どうしたんだい、久兵衛」
久兵衛「そのー、旦那様からお使いを頼まれまして、
旦那様の服を取りに来やした」
安藤「おーそうかいそうかい、で、どこの旦那だい?」
久兵衛「いやー、旦那様と言えば、旦那様ですが…」
安藤「前にも話しただろう?お前さんは沢山、奉公をしてるから、今どの旦那のところで奉公してるかって、聞いてるんだ」
久兵衛「そのー、お恥ずかしながら…」
安藤「お前さん!名前知らんのかい!あちゃー、こりゃ…困ったねぇ…一回聞いてから出直しておいで」
久兵衛「すいやせん…」
そうして、久兵衛は走って、戻ります
日本では明治時代に公布されるのですが、江戸の当時、東京周辺では、苗字というものが流行りはじめました。その為、久兵衛ら奉公人は、雇われ主の苗字を覚えておく事が決まりになっていました。
久兵衛「旦那様ー!旦那様ー!」
旦那様「おー、久兵衛、お帰りなさい。早い戻りじゃないか」
久兵衛「すいやせん…まだ、買えてません」
旦那様「どうしたんだい?」
久兵衛「旦那様、お名前は…なんと申しますか」
旦那様「あちきの名前、知らないのかい?
こりゃー、困った者だねぇ…あちきの性は、鴻池、名は弥太郎」
久兵衛「コウノトリ…ヤジロウ…」
旦那様「こ・う・の・い・け、や・た・ろ・う」
久兵衛「すいやせん…あっし、覚えが悪いもので…」
旦那様「書いていけばいいだろう?」
久兵衛「あ、そうでやんすね!えーっと、筆は…どれどれ、こうのいけ…やたろう…っと。それじゃ!行ってまいります!」
(沈黙)
久兵衛「すいやせーん!」
安藤「おかえり、久兵衛」
久兵衛「あ!安藤の旦那、これが」
安藤「ん?これというと?」
久兵衛「これですって、これが旦那様の名前です」
安藤「鴨地弥太郎…これ、ほんとにあってるのかい?」
久兵衛「もちろんでやんす!言われた通り、書きやしたから」
安藤「すまないねぇ…久兵衛や、もう一度、聞いてくれはしないかい?こんな旦那は知らんね」
久兵衛「ん…わかりました」
久兵衛は、旦那様のところに戻り、書いていた名前を見せます。
久兵衛「あ、旦那様!」
旦那様「久兵衛、手に何持ってるんだい?」
久兵衛「旦那様、本当に名前あってますかね?」
旦那様「ん?鴻池弥太郎だよ、なにおかしな事言ってるんだい」
久兵衛「いやー、それが、旦那様の名前、ほら、この通り見せたんですけど、安藤の旦那がわからねぇっていうんですよ」
旦那様「んー、どれどれ…って、久兵衛。これじゃ、鴨地だよ。名前の漢字が違うじゃないかい。鴨でも、地面でもないよ」
久兵衛「そうでございやしたか!で、どんな漢字を書くんでしょうか?」
旦那様「はぁ…鴻池は、江田島の江と、鳥取の鳥に、水が溜まった池、これで頼むよ?」
久兵衛「へぇ…鴨ってこう書くんですね…」
旦那様「聞いてたかい?」
久兵衛「あ!もちろん!…えっと、こうで、こう…これであってやすかい?」
旦那様「あぁ…もう日も暮れてきたから、ちゃっちゃっと行って、帰っておいで」
久兵衛「へぇ!行ってまいりやす!」
旦那様「あー、お待ちお待ち、呉服屋で「鴻池の旦那の紋付羽織袴」と伝えておくれ、そうすれば簡単に伝わるだろう」
久兵衛は、日暮れの忙しい江戸の町を走っていました。
江戸の仕事終わりというのは、日が暮れる時刻で、その時間から町の食事処や、大人のお店で知られる、吉原の遊郭なんかも賑わっていました。
遊郭では、お店の中にいる女性を「張見世」を通してみて、かわいい子がいれば、お店に入っていくというのが、当時のしきたりでした。この、張見世というのは、お店の小さな柵、窓といったものです。久兵衛もやはり男の端くれ、そこから女の子を覗いていました。
久兵衛「うへぇー、人が増えてきたなぁ、
ちょっくら、遊郭の娘を…
こりゃー、眼福眼福…うへへへへ」
御宮「これこれ、久兵衛さんや」
久兵衛「あら、御宮さん、今日は通りに出て、今晩は、お仕事は?」
御宮「毎日、遊郭になんて出てられないよ」
御宮さんとは、久兵衛の遊郭のお気に入りの女の子でした。
御宮「今日は、どうしたんだい?」
久兵衛「それが、旦那様にお使いを頼まれて、呉服屋に行くんですよ」
御宮「てことは、安藤さんのところかい?」
久兵衛「へぇ…そうですが、それが?」
御宮「そっちの方面なら私も行くから、ご飯でも付き合ってくれない?」
久兵衛「今日、あっし、あんま持ち合わせてないんすよ」
御宮「いいのよ、お蕎麦でも食べましょう」
久兵衛「お!それなら!入ろう入ろう」
こうして、2人はお蕎麦屋で軽くご飯を食べ、お会計をします。
久兵衛「えーっと、すいやせーん!あ、お勘定を、お蕎麦2人前で」
蕎麦屋「へいへい、そしたら、全部で32文だね」
久兵衛「そしたら、これで」
蕎麦屋「久兵衛、こんな大金どうしたんだい」
久兵衛「あ、今お使いの途中でして、釣銭ございやすかい?」
蕎麦屋「釣銭は…あっ、切らしてる…あそこの女将さんのところで「釣銭を8文ください」って言ってくれるかい」
久兵衛「わかりやした…
すいやせん!女将さん、釣銭を8文程…
あ、そうでやんす、蕎麦屋の旦那に…どれどれ、2の、4の、6つの、8つ…はい。全部受け取りやした。それじゃ」
御宮「私は、ここで行くところあるから、失礼するよ」
久兵衛「また、遊びに行きますねぇ~…って、
もういないし…」
(沈黙)
久兵衛「すいやせーん!」
安藤「おかえり、久兵衛」
久兵衛「あ!安藤の旦那、これが」
安藤「あー、字が汚いねぇ…久兵衛。結局、鴻池の旦那のところかいな。で、いくつかあるけど、何を取りに来たんだい?」
久兵衛「いくつかある?」
安藤「そら、鴻池の旦那にはよくお世話になってるからね、色々頼まれてるから、今日はどれを取りに来たのかい?」
久兵衛「なんだっけなぁ…確か…旦那の…えっと…」
安藤「ほら、なんか伝えておけと言われたりゃ、せんかったかい?」
久兵衛「言ってくれ…あっ!8文の釣銭を!」
安藤「釣銭?お前さん、蕎麦屋行ってきたろ?しかも、2枚もか?」
久兵衛「いやー、それがー、その、御宮さんと…」
安藤「まぁーーーた、遊郭かい?懲りないねぇ…で、だ・ん・な・さ・ま!に言われたのは、なんだい?」
久兵衛「それがー、たしかー、えっとー、ダメだぁ!!」
安藤「はぁ…お前さん、諦めたら旦那に怒られちまうだろう?なんか、予定があるとか言ってなかったか?」
久兵衛「それが…覚えが悪いもので…」
安藤「はぁ…よしっ!待ってろ…
(沈黙)
久兵衛、これ持ってけ!」
久兵衛「これは?」
安藤「いいか?これ全部、鴻池の旦那がうちに頼んでる服の品書きだ」
久兵衛「うっひゃー、こんなに!?」
安藤「いいからいいから、ほら、行ったいった」
久兵衛「へぇ!」
こうして、久兵衛は旦那様のところに帰る…と思いきや…
御宮「久兵衛ー!」
久兵衛「あら、御宮さん…その恰好もしかして…」
御宮「そうよー?久兵衛さん、来る?遊郭」
久兵衛「あっし…今晩は、その、まだ、旦那様のお使いが終わってなくて」
御宮「いいじゃない~」
久兵衛「ですよねぇ~」
(沈黙)
久兵衛「うへへへへへ、御宮さん、また。
さて、旦那様のところへ~、えっちらおっちら
(沈黙)
あ、旦那様!」
旦那様「久兵衛、手に何持ってるんだい?」
久兵衛「これ、品書きでっせ」
旦那様「お前さん…紋付も覚えられなかったのかい…」
久兵衛「あ!紋付だ!わかったので、いってまいりやす!!」
旦那様「これこれ、もういいですよ、今日は」
久兵衛「と、申しますと…」
旦那様「外見てみんさい」
久兵衛「もう、真っ暗だい」
旦那様「だから、また明日行ってちょうだい。この品書きの紋付のところに、朱色で印を付けておくから」
久兵衛「へぇ!」
旦那様「それじゃ、そこにお金だけ置いていっておくれ」
久兵衛「えーっと…それが…」
旦那様「お蕎麦食べた後の残りがあるだろう?」
久兵衛「その…遊郭の方に…」
旦那様「まさか!お前さん、御宮さんのところに…」
久兵衛「へぇ…」
旦那様「こらぁ!!お前さんってやつは、こうやって、厄介にしておいてやってるっていうのに!!」
久兵衛「あーーーー!旦那様、怒らないでくだせぇ…」
旦那様「これが怒らずにいられますか!!!あのお金は大切な紋付に!」
久兵衛「すいやせん!!明日、明日の朝一に必ず!」
旦那様「ふー(鼻息)…今日はもう玄関で寝てなさい!そして、明日の朝一に取りに行くんですよ!!」
久兵衛「わかってやす!!すいやせんって…」
そして、次の朝、久兵衛は玄関で旦那様に起こされます。
旦那様「ほらほら、久兵衛や」
久兵衛「へ?あっし、玄関で…」
旦那様「それじゃ、お使い頼まれてくれますね?」
久兵衛「あ、旦那様。もちろんでやんす!どちらに向かいましょうか」
さぁ、鴻池の旦那様はここから久兵衛をお使いに出しのたのか、暇を出したのか