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  人生はやり直しがきくんだよ

先日ここで紹介した小黒。その横。つまり向かって左に映るゴリラは吉兼。簡単に彼の紹介をすると2009年創立のYANAGIHARAジム。

しかし約13年間維持した、プロテスト合格率100%を誇る記録を、とうとう止めた男。
本当はこの子のプロテストを取り下げ、向かって右の小黒を出した方が、100%の合格率をキープ出来る事は分かってた。なのに私は小黒を引っ込め、何故か吉兼をプロテストに出した。

後悔のない顔

魔が刺したと、いうのもあるが(笑)、吉兼はセンス以前に不器用だが、真面目で素直で、毎日毎日力仕事を終え、遠いとこからジムに来て黙々と練習してきた。何か秘めたるものを感じていた。

毎日体重を計りスパーリングをさせる。息一つ上がらない所を見れば、吉兼が朝どれだけ走ってるかがわかる。

あっという間に最後は66キロと、筋肉質の体から6キロも体を絞り、最後に体重の近い子と、まあまあ良いスパーをしたので最終許可を出した。

実は物凄く嫌な予感はあった。よく手は出るのだが、形がボクシングになってない。素人が見ても素人に見える。そして迎えた当日。プロテストが始まると、その物凄い嫌な予感は見事的中した。

テストの相手はサウスポーの上、最悪にもアマチュア上がりの凄く上手い選手だった。1ラウンド滅多打ちにあう吉兼。しかし怯まない。

トレーナーに「タオル持ってこい」と言ってるうちに、打ち返していた。タイミングが少し空い相手が少し嫌な顔をするが、いかんせんレベルが違いすぎる。

2ラウンド目。送り出す時「相手に合わせるな。同時に打て。」
これしかかける言葉はなかった。彼はこれを遂行したが、遂に倒されダウンした。

それでも起き上がり、相手が嫌になるくらい夢中に打ち返す吉謙のスタミナは素晴らしく、その姿は格好良かった。

もう一つ、吉兼を出場させた理由に、彼に何か逼迫した物を感じたから、というのが私の本音である。昭和のような男なので、その辺は聞かなかった。数日経ち、挨拶に来た時事情を聞き納得した。

来年結婚したり婚約者が云々と、色んな切迫した事情があったらしい。これが最後のチャンスだった、と言った。私は相手が求めてこない限り、こちらから何がどうかと聞かない性格である。

ただ、落ちる可能性が高い吉兼をプロテストに出したのは、色んな意味で勘が当たった。それが彼に通じた事はきっと、彼の今後にプラスになると思う。人生はやり直せるから。

「会長。後悔はありません。今までありがとうございました」。
奴はそう言ってジムを退会していった。今回テストを受けさせなければ、何かこいつに後悔させるのでは?という勘は当たっていた。

辞めていっても、来年のジムの新年会には来るといってた。奥さんと来ればいいな、と思う。元気な子を産んでいろんな相談に乗れればいいな。そう思わせる男。それが吉兼だった。

プロアマ問わず、我がボクシングジムは勝ち負けだけ、強ければいい。そんなジムにする気はないとずっと書いてきた。少しは近づいてきたのかな、と思う。

来年は新たなプロたちのスタートになる。人は常に進化せなばならぬが、お金にも戦前にもならぬ一見どうでもいいような、こんな事の繰り返しを怠り見逃し、放棄してなならん!

そう思うのは間違ってないと思う。やり直せる人生を作るにも、私の役目だと思うと、ちと楽しい。



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