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バランス機能評価のまとめ -各疾患別での推奨-
臨床の理学療法で広く用いられるバランス機能検査について、各検査の概要と活用ポイントを以下に整理します
また、よく遭遇する疾患における、推奨される評価方法とその解釈についてもまとめました。
バランス評価の代表格
Bergバランススケール(Berg Balance Scale; BBS)
適応疾患・病態・症状: 脳卒中片麻痺、パーキンソン病、高齢者のバランス低下、脊髄損傷、変形性関節症、前庭障害など幅広く使用される
評価方法: 14項目の課題(静止立位、起立・着座、物品の拾い上げ、方向転換、片足立ちなど)を順に実施し、0~4点の5段階でそれぞれ採点します
注意点: 正確な手順と採点基準に従うことが重要です。被験者が課題を安全に実施できるよう介助準備をし、必要に応じて見守りを行います。また本検査は上位レベルのバランス能力には天井効果が指摘されており
結果の解釈: 合計56点で正常範囲とされます
評価の所要時間: 約15~20分程度かかります
最新の研究エビデンス: 信頼性・妥当性が非常に高い尺度です。例えば、脳卒中患者に関する21研究のシステマティックレビューでは、内部一貫性(α=0.92-0.98)、検者内・検者間信頼性(ICC=0.95-0.98)ともに優れていると報告されています
Timed Up & Go テスト(TUG)
適応疾患・病態・症状: 高齢者の転倒リスク評価として有名であり、加齢によるバランス・歩行機能低下のスクリーニングに広く用いられています
評価方法: 標準的な高さ(約46cm)の椅子に深く腰かけた状態から開始します
注意点: 安全確保が最優先です。歩行に不安定さがある患者では、横について万一の転倒に備えます。また椅子の高さ(だいたい46cm前後)や歩行距離3mを正確に測るなど、環境設定を標準化します
結果の解釈: 記録された時間が短いほどバランス能力・機動性が高いことを意味します。健常高齢者では10秒未満で完了するのが通常範囲です。一般に13.5秒以上かかる場合は転倒リスクが高まっている可能性があり
評価の所要時間: 約3分以内と非常に迅速に実施できます
最新の研究エビデンス: 高い信頼性と有用性が確認されています。TUGの検者間ICCは0.98~0.99と非常に高く
機能的リーチテスト(Functional Reach Test; FRT)
適応疾患・病態・症状: 高齢者全般の動的バランス能力の指標として用いられ、主に自力歩行可能な高齢者の転倒リスク評価に適しています
評価方法: 被験者に足を肩幅程度に開いて立位になってもらい、壁に取り付けた目盛り(メジャーやヤードスティック)に沿って**腕を前方に水平挙上(90度)します
注意点: 安全管理のため、患者の前方に椅子を置くなどして万一の前方転倒に備えます。被験者には膝や腰を曲げず、踵を床から離さないように説明し、主に足関節を使って体を傾けるよう促します。また開始と終了時の姿勢を毎回一定にする(腕を水平に挙げ、拳を作る等)ことで測定誤差を減らします。測定者は目盛りと拳の位置を水平目線で読み取ることで視差誤差を避けます。簡便なテストですが、特に重心移動に不安のある高齢者では心理的萎縮が生じやすいため、リラックスして実施できるよう配慮します。必要に応じ一度軽く練習させ、感覚を掴んでもらってから本測定を行うと良いでしょう。
結果の解釈: 測定値が大きいほど動的平衡性が良好で、値が小さい場合はバランス能力低下を示唆します。健常高齢者では約30cm(12インチ)前後のリーチが可能ですが、15cm(6インチ)以下しか手を伸ばせない場合は明らかにバランス能力が低下しており転倒リスクが高いとされています
評価の所要時間: 約5分以内と短時間で実施可能です
最新の研究エビデンス: FRTは簡便ながら信頼性・有効性が実証されています。再現性が高く, 高齢者では検者間ICC 0.98、検者内ICC 0.87-0.92と報告されています
Mini-BESTest(ミニ・バランス評価システム検査)
適応疾患・病態・症状: 神経疾患全般のバランス障害に対して開発された検査です。特にパーキンソン病や脳卒中後遺症、前庭機能障害、多発性硬化症など、バランス能力の多面的な低下が見られる患者に適しています
評価方法: 14項目のテストからなり、0~2点の3段階評価で各項目を採点します
注意点: 複数の器具を用いるため事前準備が必要です(フォームマットや傾斜台がない場合は該当項目を実施できません)。各テストの手順を正しく守り、必要に応じて補助者を配置して安全を確保します。特に後方へのステッピング反応テストなどは転倒リスクが高いため、後ろに倒れ込まないよう補助します。評価者は事前にマニュアルを熟読し練習しておくことが望ましく、主観が入らないよう採点基準に沿って判断します。Mini-BESTestは比較的新しい検査のため日本語版マニュアルの整備など情報共有も進みつつあります。なお本検査でも補助具の使用は減点要素となる(例:必要な場合は1点減点)点に留意してください
結果の解釈: 高得点ほどバランス能力が良好です。28点満点中、健常高齢者では平均約25点程度との報告があります
評価の所要時間: 約10~15分程度です
最新の研究エビデンス: Mini-BESTestは信頼性・有用性ともに高いエビデンスが蓄積されています。高齢者施設入所者を対象とした研究では、Mini-BESTestはBBSや原版BESTestと極めて高い相関(r=0.72)を示し信頼性も遜色なく、短時間で実施できる利点から臨床で有用と報告されています
ティネッティ検査(Tinetti Performance Oriented Mobility Assessment; POMA)
適応疾患・病態・症状: 高齢者のバランスと歩行機能全般を評価するために開発された包括的テストです
評価方法: 16項目からなるテストで、バランス項目(9項目、最大16点)と歩行項目(7項目、最大12点)に分かれます
注意点: 評価者の主観に依存する部分があり、統一した評価基準で採点するよう注意します。例えば「歩行の対称性」や「体幹の揺れ具合」など定性的な判断項目があるため、事前に評価者間で基準をすり合わせることが望ましいです。また患者には普段通りの歩行をしてもらうよう指示し、評価中に不用意に介助せず自然な動作を観察します(ただし転倒しそうな場合は安全確保のため介入)。押し試験(胸骨を軽く押してバランス反応を見る)は倒れる危険があるため必ず準備をして行います。さらに、本テストはやや時間がかかり疲労しやすいので、高齢者では途中で休憩を挟む配慮も必要です。採点の際には部分点が0-2の粗い区分であるため、微妙な差異がスコアに反映されにくいことも留意します。
結果の解釈: 28点満点に近いほど転倒リスクが低いです。開発者による基準では、25~28点は低リスク、19~24点は中程度リスク、18点以下は高リスクと分類されています
評価の所要時間: 約10~15分を要します
最新の研究エビデンス: ティネッティPOMAは比較的古くから使われている評価法ですが、現在でも一定のエビデンスがあります。高齢者における信頼性は概ね良好で、例えばある研究では検者間ICCが0.96と非常に高く報告されています
以上、主要なバランス機能検査のポイントをまとめました。
各検査は特徴が異なるため、患者の状態や評価目的に応じて使い分けることが重要です。
また必要に応じて複数の検査結果を総合的に判断することで、転倒リスクの高精度な予測や効果的な治療計画の立案につながります。
各検査のエビデンスは蓄積が進んでおり、最新の研究も踏まえて適切に活用してください。
各疾患におけるバランス評価の推奨まとめ
1. 脳卒中(Stroke)
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