マルセル・デュシャンのメートル原器
ニューヨークのMOMA(国立近代美術館)にデュシャンの「三つの停止原器」が展示されている。これは1メートルの紐を1メートルの高さから落としたものを固定したものだ。今では1メートルは誰でも知っているが、そもそも度量衡の単位は統一されてなかった。そこで19世紀フランスで1メートルの長さが決められプラチナの合金で製作された。日本も明治政府がメートル条約に加盟し メートル原器がフランスから贈られた。
デュシャンの停止原器はそのような世界統一の標準を茶化すかのように制作されたのである。
デュシャンは常に一般的に有名な絵画に対して網膜的芸術であると批判していた。
デュシャンにとって芸術とは、一様ではなく、むしろ個人的体験であると考えていたのではないだろうか。ある芸術作品が皆にとって価値があると考えるのは一種の幻想である。共同幻想といっても良い。そこに個人幻想が加担して調和するなんてことを真っ向から否定するのがデュシャンの立場であると思う。
ですから、世界統一のメートル法なんて意味があるのかというとこで、三つの停止原器を作った。
ところが 実際に1メートルの紐を1メートルの高さから落としても 丸まったりしてまっすぐにはならない。これには秘密があってワックスを紐に塗っているのである。
そうすれば、わりと真っ直ぐに落ちる。
しかし デュシャンの停止原器は実際には板の裏側で止めているので1メートルではない。
でも、そんなことは関係なく停止原器は我々に一つの標準に対する アンチなスタンスを提示している。その意味ではデュシャンはアナキストであるとも言える。
量子力学がニュートン力学の因果律を根本から覆した現代をデュシャンが知ったらどう思うだろうか愉快である。