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近所が舞台の映画「上飯田の話」を観に行った

私が暮らしてる横浜市泉区という場所は、絵に描いたような郊外だ。
もともと農村地帯だった所へ、首都圏の郊外として高度経済成長期に大規模な団地建設やニュータウン開発が進められ、増える人口を吸収し、そして移り住んだ家族の成長と共に高齢化と人口減を迎え、というよくある光景が広がっている。

みんなが想像する横浜とは違う、何の変哲もない郊外。そんな泉区の上飯田団地にあるショッピングセンターを舞台に映画が撮られたと聞いて、気になって仕方なかった。
ウララさんの企画で那覇の市場・市場跡を回って以来、町にある昔ながらの市場、マーケット、商店街という空間に意識が向いているのもある。

一体どうしてこんな地域でと思いつつ、客観的に見れば、私が古い那覇の市場に惹かれたように、昔ながらの団地とそこにあるショッピングセンターは格好の舞台なのかもしれない。そんなことを考えながら映画館に足を運んだ。

1回目は東京・東中野にあるポレポレ東中野へ。だけどこの時は、観たものをほぼ覚えていない。正確に言えば、あらすじは追えたけど、登場人物の機微や心情まで推し量れなかった。ただ、上映後のたかはしそうた監督と福地リコ助監督のトークショーで、福地助監督が「地域と関わりながら作る映画でノスタルジーに逃げないのはすごい」という旨の話をしていたのは印象に残っている。

考えても消化できず、もう一度観に行った。確かに、よくあるご当地映画ではない。正直なところ、同じような団地とショッピングセンターがあれば、この映画は成立するのではないか。しかしタイトルは上飯田という地名を真正面から取り込んでいる。なぜ「上飯田の話」なのだろう。

2回目を観たのは、東京・菊川にある「Stranger」という映画館。映画を観たあとはまっすぐ帰る気にならず、新橋へ行く都バスに乗り込もうとバス停で待っていると、後から老夫婦が来た。が、すぐに奥様は何も言わずに消えてしまった。もうすぐバスが来るのに、と他人事ながら焦っていると、到着直前の絶妙なタイミングで戻ってきた奥様が「焼き鳥頼んじゃったから次のバスで行くわ」と。

ほぼ無言なのに互いの動きが分かる2人の様子に、あらゆる意味での慣れを感じた。長年の夫婦だからこそ関係、と思いながらふと気づいた。この映画、地名がタイトルに入っているのに場所の描写や説明はないし、さまざまな登場人物が出てくるけどその説明もない。ただひたすらに、出てくる人との人との関係性を意識させる内容だった。

監督は、上飯田団地のすぐ近くに暮らす祖父母の家をよく訪ねた、とトークショーで話していた。私の憶測だが、監督は古い団地のショッピングセンターに、古さがあるからこそ積み上げられた人と人の関係に着想を得て、この映画を作ったのかもしれない。

もしそうならば、まさにこの映画は、上飯田団地とショッピングセンターという場所を描いていることになる。もしまた機会があれば監督にぜひお聞きしたいけど、果たしてそんな機会があるのかという点で、そもそも映画はまるでド素人の私に聞くだけの勇気はないのだ。

stranger  明日7/26(水)に今回最後の上映があるそうです。
テアトルフォンテ(横浜市泉区民文化センター) 8/23(水)に上映会があるそうです。凱旋上映ですね。

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