メディアの話 ドラえもんとサザエさんの世界に「老人」がいない理由
「サザエさん」と「ドラえもん」の日常にないひと。それは「現代の老人」である。
「サザエさん」の老人は、60歳のいささか先生、54歳の波平と50歳の舟、である。
今年60歳の私は、もはや波平よりいささか先生に近い。サザエさんワールドでは、老人である。
核家族世帯の住宅街の話である「ドラえもん」には、そもそもおじいちゃんおばあちゃんはレギュラーで存在しない(たぶん)。
親は全員30代だ(おそらく)。
現実の世界は、すでに「超高齢老人社会」になっているのに、サザエさんやドラえもんのような数十年前からやっているアニメは現代の老人がいない。つまり70代80代90代がいない。
理由は当然で戦後すぐの家族をモデルにしたサザエさん、1960年台の家族をモデルにしたドラえもんの世界には今のような老人はほとんどいない。男性の平均寿命が60台だったからである。
いじわるばあさんいるけど、いじわるじいさんはいない。死んじゃうからだ。
下記の人口ピラミッドの変遷を見ると、よくわかる。
1960年代も1970年代も65歳以上の老人は少数派、だったのだ。
サザエさんやドラえもんに出てこなくても当然である。
ところが2020年のデータを見れば、一番メジャーなのは70代半ばの団塊世代である。寿命が伸びたから、それより年上の80代90代もかつての65歳以上よりはるかに多い。
ちなみに2020年の日本の人口ピラミッドはこちら。国立社会保障・人口問題研究所のデータ。
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サザエさんのアニメが始まった1969年の翌年1970年人口ピラミッドはこちら。
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ドラえもんのテレビ朝日のアニメが始まった1979年の翌年1980年の人口ピラミッドはこちら。
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ところが、現代のドラマや漫画やアニメにも、老人がたっぷりいる現実は反映されてない。
反映されているときは、認知症それ自体がテーマになっているときに限る。
なんとも不思議な話である。テレビの視聴者は、この2020年の人口ピラミッドで一番人数の多い団塊の世代の前後が最大の「マス市場」なのに。
とある集まりで、看護師さんのお話をうかがった。
そこでびっくりしたのは、病院が迎える患者さんの多くが「認知症の老人」たちで、医者や看護師の日常業務に「認知症の患者さんのケア」がすでに当たり前のように含まれている、ということであった。
うかつだった。
自分の親の年齢や、周囲の同世代の話を聴けば、人口比でそうなっているのは、本来だったら容易に想像がつく。
でも、特別擁護老人ホームや、認知症の方を扱う病院のような「専門機関」だけではなく、「老人」が必然的に多く集まる場所、それこそ普通の病院では、その中に含まれる何割かの認知症のひとのケアをしないと、治療そのものができないのである。
特殊な話じゃなく、それがもう日常なのだ。
これ、さまざまなサービスの現場が同じはずである。鉄道、小売業、その他もろもろ。
こういう日常が、当たり前のようにドラマや漫画のモチーフになる。いずれなる。いつなるだろう。