2022年3月に聴いた新曲4つ
どうもヤンです。今回も恒例となった企画を描いていきたいと思います。
Ado「永遠のあくる日」
破竹の勢いで知名度を増し続ける歌い手・Adoさんの新曲。今回曲を書き下ろしたボカロPは、「ギラギラ」以来のタッグとなるてにをはさんです。
「永遠のあくる日」は、「あいしてる」という言葉の意味を問い詰めるような歌詞が特徴的な、耳に残る壮大なバラードです。今やラブソングでの常套句になりつつある「あいしてる」やら「Love」やらといった言葉ですが、果たしてその言葉に意味はあるのか?と問い直したくなります。
特にこの歌詞が刺さりますよね。歴史的にはラブソング主体のポップスやロックンロールに対抗するために生まれたロックというジャンルでも、また当の本人たちは恋愛が禁止されている傾向があるアイドルというジャンルでも、「あいしてる」という歌詞を使っている現代の流れを皮肉っているようです。それでも、聞き飽きるほどに「あいしてる」という言葉を歌詞に入れるということは、人間は誰しもが愛に飢えており、「あいしてる」という言葉を欲している、そういうことを言いたいのかもしれません。
また、この曲はサウンドプロデュースにおいても興味深い仕掛けが点在します。いくつか見てみましょう。
他にもこうしたサウンド面での仕掛けをこの曲には用意してあると思います。こうした試みが、ドラマチックな曲展開につながっているんでしょうね。
Mrs. GREEN APPLE「ニュー・マイ・ノーマル」
2年間の活動中止と2名のメンバー脱退を経て、「フェーズ2」として活動を再開したロックバンド・Mrs. GREEN APPLE。その活動再開時に発表した曲が「ニューマイ・ノーマル」です。
「ニュー・マー・ノーマル」は、従来のミセスが持つ鮮やかなサウンド表現を残しつつも、転調を多用する仕組みにすることでより今らしい曲になっているのではないでしょうか。Bメロからサビにかけての転調は、世界観が一気に変わるような爽快感をもたらしているのでめっちゃ好きです。また、「ロマンスの香りに〜」のパートでも転調を行うのですが、こちらも単なる壮大感だけではなく、大きな草原の中に立たされた時のような、雄大な情景を想起させる音だなと思います。「田んぼ道も走って」っていう歌詞も、山郷の原風景そのものって感じがして…。
とにかく、懐かしさとともに、新しさも感じられるような不思議な曲なんですよね。それは、「フェーズ1」時代のミセスももちろん大切な思い出として残しておくし、「フェーズ2」ではさらに世界を広げていくぞ、「未だ見ぬ思い出」を作っていくぞという、ミセスの野望が垣間見える気がします。新時代のMrs. GREEN APPLEも楽しみですね!
藤井風「まつり」
紅白歌合戦でのパフォーマンスも好評を集めたシンガーソングライター・藤井風さんによる新アルバム『LOVE ALL SERVE ALL』の先行解禁曲。
「まつり」は、R&Bテイストのナンバーであり、イントロではヨナ抜き音階が使われるなど、和の雰囲気も感じられる曲です。不思議なサウンドも面白いポイントの一つですが、今回注目したいのはその歌詞です。
日本民俗学の基礎概念として、「ハレ」(晴れ、霽れ)と「ケ」(褻、毛、気)の対比が挙げられます。「ケ」がごく普通の生活文化を表す言葉であるのに対し、「ハレ」は儀礼や祭り、年中行事などの冠婚葬祭、つまりは非日常生活を指すものとされています。人々は日々の「ケ」の生活の中で合間合間に「ハレ」を挟み、日常のサイクルを維持しているのです。
しかし、藤井風さんは「祭り」に対し「毎日」というワードを用いて表現しています。「毎日」のうち多くの日数を占めるのは「ケ」であり、「ハレ」の一つである「祭り」の機会など少ないはずなのに、なぜ彼はこのように表現したのでしょうか。
実は、日本民俗学の父である柳田國男は、「ハレ」と「ケ」の区別が曖昧化していることを提唱していました。例えば、「ハレ」の日にだけ出されていた米や魚、肉、酒などの料理は、人々の生活水準の向上により、今や日常的に親しまれるものとなっております。そうした「ハレ」と「ケ」の境界線が薄れるような時代が近代なのです。
「まつり」の歌詞からは、こうした境界線の曖昧化の延長線として、もう毎日「ハレ」ということでいいんじゃないだろうか、というマイペースな主張が感じられます。彼らしい気楽で安らぎのある表現ですよね。歌詞の中には「生まれゆくもの死にゆくもの / 全ては同時の出来事」と歌う場面もありますが、まさに非日常の象徴的な「人の生死」の瞬間についても日常生活の中にあると言いたいのでしょう(ちなみに、ここの場面ではボーカルを多重にMIXされており、「ハレ」の中でも「人の生死」は特に重要であることを匂わせている気がします)。
最終的には、「何にせよめでたい」という、全てを肯定する魔法の言葉で締め括られるこの曲。日々を「まつり」と考えて、肯定的に生きていきたいですね。
asmi「PAKU」
MAISONdes「ヨワネハキ (feat. 和ぬか & asmi)」のバイラルヒットで注目を浴びたボーカルasmiさんのもとに、「なにやってもうまくいかない」で脚光を浴びたmeiyoさんが作詞・作曲、ずっと真夜中でいいのに。や和ぬかさんなどの編曲を担当していることで知られる100回嘔吐Pさんが編曲として集った、まさにニュー世代の新生たちによる新曲。今回、3人は「なにやってもうまくいかない (feat.asm)」でのコラボレーションをきっかけに、asmiさんの新曲のために再集合したのだとか。
「PAKU」はmeiyoさんらしい独特なリズムと浮遊感のあるラップを、100回嘔吐Pさんがカラフルなサウンドで味付けし、asmiさんがキュートに歌い上げるという、まさに三拍子合わさったコラボレーションで構成されています。「パクっとしたいな」というサビのフレーズからは、かわいげのある女子っぽさを感じつつも、ふとした瞬間に飲み込まれてしまいそうな、そんな中毒性を感じますね。
ここからは僕が思うmeiyo作品の好きなところなんですけれども。彼はサビのキラーフレーズで視聴者の脳内をそのフレーズだけでいっぱいにさせ、そのサビを生かすために合間のラップを華麗に繋ぐ、ということが非常に上手いと思うんですよね。meiyoさんがTikTokから「なにやってもうまくいかない」で流行った手法はまさにこれで、「なにやってもうまくいかない」というキラーフレーズを思いついたからなんです。作詞作曲する人は「中毒性の高いフレーズを考えよう!」と誰しもが思うところだと考えるんですが、頭の中に描いている「中毒性の高いフレーズ」と実際にできたフレーズは違うわけで。でも彼は、(恐らく)「中毒性の高いフレーズ」の作り方を脳内で確立しており、毎曲ごとにキラーフレーズを世に発表し続けることができる数少ない才能だと思います。meiyoさんのこれからにも期待ですね!
今回は以上です。ご覧いただきありがとうございました!