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ある犯人探し〈2〉
iyamori(管理人2)→(管理人1)からの続き
*****
ゴミ問題。
どこのマンションも、
どんなマンションも、
ルールが有って、
居住者1人1人がそのルールを守って暮らすことで「平和」は保たれる。
(たぶん)うっかり出したスリッパラックは1週間放置されたがゴミ収集車には持って行ってもらえなかった。
可燃ゴミの日にも、カンの日にも、ペットボトルの日にも、紙ゴミの日にも、小さい金属や瓶の日にも、それはスルーされて放置された。
なぜか?
「粗大ゴミ」だからだ。
yamoは、張り紙を貼ってみた。
【これは粗大ゴミです。ルールを守って出し直して頂けるとありがたいです】と。
「管理人」と。
黒いマジックでできるだけ丁寧に、太字で書いて貼ってみた。
その2日後、管理人室の電話が鳴った。
もちろん丁寧に出た。
「はい管理人室です」
「ああ、、1号棟に住んでる者だけどね」
「はい、お世話になっています。管理人のyamoです」
「ああ、うん、あのゴミ置き場に有るあの、、ホラ」
「はい、、」
「アレはあんたが書いて貼ったのかい?」
「スリッパラックですよね?持ち主様ですか?」
「!!、、いやいや私はそんな、、
あれはどう見ても粗大ゴミだろ。
私はちゃんとゴミ出しのルールは守るよ。
そうじゃなくて、、」
「はい?」
「そこの管理人室には防犯カメラが有るだろ。
それで誰が出したか調べることは出来るだろ。
マンションの住人じゃない他所の人間がコソッと置いていくことも以前は有ったんだよ。その可能性はどうだね?
アレは、ゴミ置き場の中に有ったのか手前にあったのか、あんた覚えているかい?」
「手前側には有りませんでした。中に有りましたし、なんなら雑多に置かれた可燃ゴミに埋もれていたというふうに記憶しています。他所の人がこっそり置いていったという印象ではありません」
「そうかね。それなら尚更けしからんね」
「はい、、。
本当にこれは多分という私の予想だけで申し訳ありませんが、マンションの住人さんが捨てていると思います。なので、張り紙で様子を見ようかと思った次第です」
「様子を見るのは構わんけれど、そこには防犯カメラが有るだろ」
カメラは確かに有る。
yamoも今回初めてソレに触ってみた。
巻き戻したり、早送りしたりといった操作をしてみたのだ。
とは言え、この防犯カメラは管理人のyamoが勝手に触っていい備品ではない。
少なくともyamoは入社時に上司からそう説明されていた。
管理人室には有るけれど、防犯カメラは管理会社の持ち物ではないので管理人は勝手には触れないのである。
それがそこのマンションのルールであると教えられていた。
*****
マンションにおける住人さん達全体のことを「管理組合」と呼ぶ。
その住人さん達の中から役員を選抜して「理事会」が構成されている。
理事長や副理事長、書記さんや会計さん、町内会担当さん等。
毎年、この役員決めでてんやわんやになるわけだ。
多かれ少なかれどこのマンションもそれはそうなのだろう。
yamoは、そのマンションの共有部を管理する管理会社に雇われている「管理員」である。
この「理事会」と「管理会社」とで、細かい規則以外のところで何か行き違いというか、伝達のすれ違いによる「現在のルール」は出来上がっているのだろう。
少なくとも防犯カメラについては、管理人室に有るにも関わらず、なぜか管理人は勝手には触れないんだから、yamoもそこは不自然に思わなければいけなかったのかもしれない。
でもまあ、今回このような問題が起きないと、yamoにとっては別に防犯カメラに触れないことはなんら不自由なことではなかったので、どっちでも良かったのだ。
映っていればOK!で、別に良かった。
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後々分かったことだが、そこの管理人室に有る防犯カメラは、管理組合の当時の理事会役員が管理会社の担当を通さずに買って持ち込んできたものだったらしく、管理会社側の当時の担当は、それでも構いませんけれどならば管理会社(管理人)は防犯カメラは触りませんよ〜という対応をしたらしい。
どんな?
それってどんなよ。
*****
「私は別にね、あんたに何かこごとを言いたいわけではないんだよ。
ただね、1つの意見として聞いてほしいなと思ってこうして電話しただけでね」
電話の向こうから聞こえてくる声は、別に言葉の通り、怒っている様子も無くて実に温和な印象だ。
「ありがとうございます。それはよく分かります」
「うむ、
そこに有る防犯カメラで捨てた人間を特定出来るんじゃないかと思ってね」
「このカメラを操作するには理事会のどなたかに立ち会って頂くか、その要請が無いと管理人の私が勝手に触れない規則になっていると聞いています。
失礼ですが、1号棟のどなた様でしょうか?
お名前を伺ってもよろしいですか?」
「いや、ただの意見だから、、、」
「ご心配だし不愉快なんですよね。」
「うむ、、あのままというのはね、、」
「よく分かります。どうしたらいいでしょうか?捨てた人を特定しますか?
言葉は悪いかもしれませんが、もし犯人探しをするのであれば、理事会のどなたか役員さんに話を通してカメラを一緒に操作するか、許可を頂く必要が有るんです」
「それはまた面倒だね」
「お名前、、ダメですか?
又は直接理事長に言っていただくというのはいかがでしょうか?」
「いや、、ただ1つの意見にと思っただけだからね。
よく分かった。あんたのあの張り紙でもう少し様子を見てみましょう」
*****
同じような内容の電話がもう1本入った。
男性の声だった。
この人にも同じ説明をした。
犯人探しをしたいのであれば、理事会の役員の誰かにカメラの操作の許可を頂きたいという説明だ。
この人も名前は名乗りたがらない。
犯人探しをしたいわけではないとも言っていた。
「例えばですが、犯人が分かったとしてなんですが、、」
「ああ」
「犯人が分かったとして、そこのその人にアナタ犯人ですよね?という行為は管理人は出来ないんです」
「そうなのかね」
「そうなんです。
それも結局最後は理事長に言ってどうするのかの判断を仰ぐことになるかと思います。
なので、犯人探しをしたいというご本人様が理事長に言っていただくのが1番早いかと、、」
「なるほど。なかなか面倒なんだね」
だから、yamoから話しを通すにしても、名前を名乗って頂けると有り難いわけです。
まあここはご意見についての信憑性というか信頼度の問題だけだが。
名前も名乗らずに色々と言うだけの事柄というか「ご意見」は、なかなか進みにくい。
管理人を1人動かすのも簡単ではない。
まあそもそもこの人は「別に犯人探しをしたいわけではない」と言っていたわけだけれども。
犯人探しをしたところで、犯人はあなたですよね?ということを管理人が出来ないなら、じゃあ誰があのゴミを最終的にどうにかするのか?
誰にどうにかしろと言いたいですか?
(もちろんyamoはそんな文言は言わない)
名前を名乗りたくない電話の住人様はそこから先の思考が面倒になって電話を切った。
、、ように思えた。
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その後も直接管理人室に来てまで「意見」を言いたい人は居た。
yamoは同じ説明をした。
この御人は、
「ここに有るのに触れないとはどういうことだ」と、防犯カメラを指さして大きな声で問うた。
それはこっちが知りたい。
と、その時は思っていた。
そしてとりあえずやいのやいのと拉致があかないので、自分の(管理会社)上司に許可を取って、カメラの操作方法を教えてもらった。
一応、「触ります」という内容で理事長にも許可を取った。
理事長は、
「そんな電話が入ってるの?」と、呑気な口ぶりだった。
電話だけじゃないぞ。
今もここに仁王立ちしている御人もおられるぞ。
が、それはもちろん言わない。
とりあえずカメラの操作を許されたyamoの様子に満足したところで御人にはお帰り頂いた。
そこから半日かけて犯人を特定した。
否、捨てている現場映像を特定した。
4月のある日、月曜日の早朝6:06。
*****
まずは理事長に連絡。
「住人に間違い無い?」
「間違い無いと思います。どうしましょう?」
「そうだね〜。僕1人で見てもそれが誰なのか分かる自信が無いな〜」
「ですね。どなたかお顔が広い人は役員様の中におられますか?」
「1号棟だよね?捨ててる人」
「はい」
「1号棟の誰かちょっと声かけて一緒に行きますよ」
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と、いうわけでまた次回。
日常はドラマに満ちている。
ではまた。