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夜の蝶になってみた

iyamori(スナックでアルバイト編)

「え?シラフだよね?」w
「なんでここに居るの?」w
「お酒飲めないんでしょ?」w

****

ゴルフコンペの打ち上げだというお客様(紳士6人)のポカンとした顔が忘れられない。

常連客のタクシードライバーさんにその夜出勤早々カラオケのデュエットをリクエストされて歌った。
「カナダからの手紙」だった。
初めて歌った。知っている歌ではあったけど、あんなに難しいと思わなかった。
全く声が出ない。
そもそも私は歌が下手くそなのだ。

なーにが♫ラブレターふろーむかなーだー♫♩ だ!
顔から火が出るとはこのことだった。

でも歌うしかない。
ヤダヤダ本当にヤダと思っていた。

でも顔はにっこり。
タクシードライバーさんに笑顔を向けて、下手くそなりに
♫涙が頬をこぼれて〜いま〜す〜♫うんちゃらなんちゃら〜♫♩
1人旅で〜す〜(出ない裏声)♫♩なんて感じだ。

2番とか最悪という気持ち。
下手くそは基本だが、その上緊張している。
声が震えている。
マイクを持っている手も震えていた気がする。
きっと顔は真っ赤。

カウンター席の紳士達のポカンとした顔が近い。

必死すぎたら人は死ぬだろうかという想像をした。

そんな中、紳士のうちの1人が、ポカンとしたところから間もなく「よ!頑張れ!」と応援してくれた。
泣きそうになった。

****

紳士6人は、なんならyamoの出勤直後にはもう帰ろうとしていた。
何本で締める?なんて会話が聞こえていた。
そりゃあそのはずだ。
紳士達は夕方16時より前から飲んでいて、私が出勤していった18時にはまあまあ杯が進んでいたのだ。

ボックス席にもお客様が入ってきて、店内は混み始めていたし、じゃあそろそろ長居している俺らはこの辺でという雰囲気だったのだ。

ところが、タクシードライバーさんとyamoのデュエットを皮切りに、それまで静かだったその紳士達が次から次へとカラオケを歌い出した。
アレはどういう心理なのだろ?
ホントに我も我もになった。
更に杯は進む。新しいウィスキーボトルも入った。スゴイ。


カラオケは皆様とても上手でびっくりする。
この日に限ったことではないけれど、どの日のどのお客様も本当にお歌が上手。
上手な人ほど、yamoにも歌えって言う。
最初yamoはそれを虐めだな〜と思っていた節がある。
虐めに屈するyamoではないけれど、下手くそを威張れる図太さが有るわけでも無い。

最初、歌えと言われることが苦痛でしょうがなかった。
「いえいえそんなyamoなんてそんな」と、断ってみたがそれはママにダメ出しされた。
下手くそは関係無いらしい。
歌えませんは通用しないらしい。

マジか、、。となった。
ムリ、、となった。

とは言え、yamoはこの日を境に、辞めよう辞めようと思っていたスナックのバイトを続けていく決心をした。
でも、週に2回しか行っていなかった回数を更に減らしてもらって、週1にしてもらった。

****

「飲めないんでしょ?」

「そうなんですよ」

「ねえーーー!yamoちゃんには烏龍茶ご馳走してーーー」(ママ、店の端から)
「スミマセンこの子飲めないんで烏龍茶を、、」(マスター、yamoと会話中のお客様数人にカウンター越しに顔を寄せて)

「OK OKいくらでも飲みなよ w」
「100杯くらい伝票に書いたらいい w」
「そうだそうだ飲め飲め烏龍茶 w」

「ありがとうございます!!」(マスター)
「ありがとうね〜大好き〜」(ママ、遠くから大声)

ママにはなんでも聞こえててびっくりする。


「とにかくさ〜、シラフでしょ?」

「はあ、、」

「シラフで、歌え言われて歌うってスゴイよ」

「はあ、、。ありがとうございますスミマセン」

「そもそも飲めないのになんでここに居るの?」

「そこなんですよね〜」

「ww   なんで面接しようって思った?」

「もうホントに今となっては分からないんです」

「ww」

「魔がさしたとしか、、、」

「コラ!yamoちゃん!ご縁があったって言いなさい!」(ママ、遠くから大声)

一同爆笑。yamoは黙る。冷や汗。お口を両手で覆う。


そこから更に紳士達は杯が進み、yamoは約束の時間になったので上がらせてもらった。
店内に居るお客様全員にお先にすみません言いながら、なぜか(まだこの段階では辞めようという気持ちが強かったからかな)紳士達6人には「どこかでまた」と口走った。
すると6人のうちの1人が、「どこかでじゃないだろ。ここでまた会うんだろ」と、握手を求めてくれた。するとみんなが順番に握手握手になった。

「コラ!yamoちゃん!」というママの声がまた聞こえてきた気がして、ビクっとしていた。

続きはまた次回。
ではまた。

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