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バンドマンに恋煩い【2】
iyamori(スナック)
***
6月のその日、生バンドの、生歌の、LIVEイベンというものにチケット代を払ってまでyamoは参加していた。yamo的に前代未聞の体験だ。しかも一泊二日だ。
場所は千葉県木更津市だった。
yamoの暮らす横浜にピーチさん(湯河原)が車でお迎えに来て、拾われて一緒に木更津入りした。
***
ピーチさんとyamoの付き合いは長くて、yamoが湯河原で暮らしていた頃からの付き合いだから、かれこれ15年だな。
ピーチさんは長く保険屋さんで、yamoはそのお客さん。
付かず離れずで長く続いている。
で、yamoが最近占いのお仕事を始めたことで、その集客も手伝ってくれる。
素敵なサポーターである。
なんでも仕事に繋げる威力。
(勉強になりま〜す!!)
で、ピーチさんの同級生さんがバンド活動をしている関係で、その応援団的にチケットの販売を手伝っているのだと言われて、じゃあ行ってみるか?と、ピーチさんのことが昔からなぜか好きだったyamoは、とは言え興味が全く無いLIVEチケットを悪いけど付き合いで買った。
ピーチさんは、自分が懇意にしている誰かのために惜しみなく役に立とうとする人なのだと思う。ウィンウィンが良いのだとよく言っている。
とは言え、
とは言え、ホテルの飲食代と宿泊費も払って、全く「大好きなものが無いイベント」に、yamoがなぜか参加したのには意味があったと思うのは、だいぶ時間が経ってからだ。
***
ぐーに握った両手を口元に持ってきて、「yamoちゃんが行かないならピーチも行〜かないっ(むふ)」なんて本気でかわいこぶって見せる、決して痩せていない身長170センチのデカい大酔っ払いのピーチさんの姿が可笑しくて可笑しくて、一貫してシラフのyamoは吹き出して笑っていた。
LIVEの演者さんばかりが出席していた二次会で充分お腹いっぱい(食べるものは何も無かったが)だったのに、このあとラーメン屋に行こう!と、ピーチさんの同級生さんが言い出して、ええええええ〜〜嫌です〜とごねたyamoの正面に立つ同級生さん(男性)に、yamoの横にピッタリくっついてピーチさんがかわいこぶって見せる。
吹き出して大笑いのyamoに対して、くすりと笑みを浮かべる程度のリアクションで同級生の男性は頼むよ〜と言う。
どうやら別の誰かにしつこく誘われていて、断るに断れないようだ。
誘っているのは、「付き合いで」はない気持ちでチケットを買ってくれた女の同級生さんのようだ。
やるな〜バンドマン。ニヤリ
と、思っていた。
なああ〜〜ピーチい〜と、同級生バンドマンの男性は顔の前に両手を合わせて拝んでいる。
「えへっ
ねえyamoちゃんどうする〜??」
えへじゃね〜よ
なんでyamoに決めさせるんだよ
「行ってくればいいじゃないですか〜」
「やだ。yamoちゃんが行かないならピーチも行かないもん」(いつまで続ける)
バンドマンが1人でそのファンと行ってこいよとyamoは思っている。
でも、ピーチさんのかわいこぶってる様子がとても面白いのと、必死に頼み込んでいる同級生バンドマンの困った様子に同情もして、yamoは結局、「ハイハイじゃあ行きましょう」という運びになる。
ヨシ!とガッツポーズする同級生バンドマンにyamoは隠れて舌打ちした。
お前のためじゃないからな。
大酔っ払いのピーチさんは上機嫌でyamoにひっついて歩く。
「ありがとう〜〜yamoちゃ〜ん」と、なぜかピーチさんにお礼を言われた。
酔ったふりなのかな?
酔える人は酔ったふりも出来るんだろうなきっと。
てか、ピーチさんもなんならバンドマンのファンか。
そうだったなとyamoは独りごちた。
まいっか。
***
酔っ払うという事態がいつもyamoは羨ましい。
陽気で楽しそうですごく羨ましい。
ロレツが回らない口が羨ましい。
よろつく足取りが羨ましい。
***
7月。
「歌って〜!もうyamoちゃんのお喋りはおしまいおしまい」(ママ)
まずい。
完全にママが飽きてしまった。
他にお客様が居るわけでもない。
横浜のヒマなスナックの店内。
木更津のLIVEイベントに演者側ではなくお客さんとして来ていたトールちゃん。
しぶしぶ付き合った三次会会場のラーメン屋さんで、たまたま居合わせただけのただの酔っ払い。
yamo達よりラーメン屋さんに先に居て、お友達と2人でチャーシュー盛りを食べながら緑茶ハイを飲んでいた人。
千葉県に住んでいる。
そのトールちゃんが、yamoが週1でバイトするスナック(横浜)に来た。
1人で来た。
yamoは有頂天で木更津での出来事をトールちゃんに捲し立てていた。
「いや、全然覚えてない 笑」
「えええーーーっ!ショック。全部?まったく?お酒でみんな忘れちゃうんだ、、」
笑笑笑
「え?あ、じゃあアレは?ピーチさんが自分のラーメンをトールちゃんにハイあ〜〜んって食べさせようとして、すっごい嫌がったあげく食べさせてもらってたの。アレは?」
「それは覚えてる」
きゃはははははそれは覚えてるんだ〜〜
「すっげ嫌だったの」
「おりこう〜ってyamoは思った〜。トールちゃん一貫しておりこうさんだったイメージ。もおおお〜ピーチ先輩勘弁してくださいよ〜みたいな態度でかわすのもすごく上手で」
「ほぼほぼ覚えてないっす 笑」
きゃははははははえ?え?じゃあ何なら覚えてるの?
「楽しかったってことだけ」
うそ、マジで?
「そう。目が覚めて、やけに楽しかったな〜って思ったことだけは覚えてる」
最悪なにそれ〜〜 笑笑
酔っ払う人ってそれで良いの?
あんなに楽しかったのに、何がそんなに楽しかったのかってことは全部忘れちゃってもったいな〜〜いって思わないの〜?
「笑笑 もったいないとは思ったことないかな〜〜」
yamoはね、今夜ホントにトールちゃんが来てくれたら、あの夜のピーチさんの酷い悪態ぶりをいっぱい喋ってもう一回笑えるってすごい期待してたの。
タバコについてお説教された時のこととかは?
「説教されてんの?俺が?タバコで?」
そうよ。トールちゃんのステージのことも、歌い方がどうじゃないこうじゃないってピーチさんに言われて、頭をピーチさんに小突かれながらも、俺だってアレで精一杯やってるつもりでもじょもじょもじょってyamoに言ってくるから、yamoはそれが面白くて面白くて、、
と、
あの夜はとにかくyamoは本当に一生分笑った気がしていた。
あんなに苦しい思いをして、泣きながら大声で何時間も笑ったのは本当に久しぶりで、それが全部忘れられている状況にショックすら感じていた。
更には1ヶ月経って、トールちゃんは横浜のここにこうして何故居る?
「楽しかったな〜ということしか覚えていない」のに何故?わざわざ?
湯河原のピーチさんもその夜の楽しかった痕跡のみじんも覚えていないんだから、yamoが1番したかったあの木更津の「楽しかった夜の答え合わせ」は、誰とも出来ないことが決定してしまった。
あんんっっなに楽しかったのに。
酔っ払いめという気持ち。
そしてまたひどく寂しい気持ちにyamoだけがなる。
***
歌え歌えとママに促され、もうこの辺が限界とyamoは諦めた。
全然場が温まっていない中でトールちゃんは歌いにくそうだ。
そりゃそうだ。
しょうがない♫♫yamoが歌うよ〜〜ん♫しょうがないもん(むふ)
***
いえーい♫拍手。
♫♫亜麻色の〜ながい髪を〜〜風がやあ〜さしく包うむう♫乙女は〜胸〜にしい〜ろい〜花束を〜♩♫
「いいね〜♫ハモッちゃっていい〜?」
イエーイ♫カモーン♩♩、、、なんちゃって。ハハ
照れながらもハモってもらうyamo。最高か。うむ、さすがに上手いなトールちゃん。
気持ちよくハモってもらっている曲の途中で男性2人が入ってきた。
「ちーす。島谷ひとみがおる?」
「居るよ!きゃはははは!!うま〜い!いらっしゃいませ〜〜♫どうぞ〜」
なんて都合の良いガヤ。上手。yamoやトールちゃんより10は若いガヤ登場。
「島谷ひとみがおるぞって思って階段に引き込まれてきましたよ〜」
お調子もん。いいぞ。
「島谷さんに俺の愛しのエリーを聞かせたくて」
笑笑 いやマジお前ら何者?一気に場が温まる。盛り上げ役でピーチさんが自分が行けない代わりに送り込んできたのではないか?
お前ら行ってこい入るタイミング間違えるなよ、、的な。笑
聞かせて〜
あ、、でもトールちゃん、、
あ、大丈夫大丈夫
歌ってもらって
オケ。ハイじゃあ愛しのエリー入りました〜
エエエエエっりいーーーー♫♩♩♩♫♩
♫♩泣かしたこともある♫冷たくしても尚、、、
、、うん。まあこんなもんでしょう、、(何様)
次俺!
島谷さん次SAYYESで〜
自分で入れて
、、あ、はい。
島谷さん怒っとる?
怒ってないよ
セイYES?完璧に歌ってね(若干塩対応)
がんばります!!
とは言え、yamoの島谷ひとみの方がマシ(だいぶひどいってこと)。
***
デンモクと睨めっこのトールちゃん。
どうしようかな〜という横顔。
ホントにここに居るんだな〜(ウットリ)なんて眺めちゃう。
この人きっと元々は真面目でシャイな性格なんだろうな〜という印象。
「yamoちゃんどんなのが好きなの?」
「ん?、、!!、ミスチル」
「ミスチルか〜」
「うん、ハナビは?」
「、、、、」
「?」
トールちゃんそっとマイクを持つ。
♫♫♫♩♩♫♩ ♩♫♫
♫♩♩♩♫♩キターーーーーっ!!HANABIーーーーー!🎆🎇
♫どれくらいの値打ちがあ〜るだろ (ヤバ💕)
♫♩ちょっと疲れてんのかな、、(マジでヤバい✨💕)
♫♫手に入れたもんと引き換えにして〜
♫♩いったいどんな理想を描いたらいい
どんなっ希望を抱きすすんだらいいっ♫♩♩♩♫♫♫
♫♫決して捕まえーることの出来ない〜花火のような光だとしたって
もう一回もういっか〜い
もう一回もういっか〜い♫♩
君に巡り会えたことで世界がこんなに美しく見えるなんて想像さえもしていない
君を強く焼き付けたい
♫♩♫♩♫♫♫♩、、、(拍手全員忘れる)(ガヤ口開いてる)
一瞬の間。
歌が上手いという破壊力。声量と声質の魔法。
「俺の声を聴け!」「俺を見ろ!」という魂。
そこへママ。
よかったわよーーーー!!(酒やけした低い声で)ママどこに居た
!!おおおそうだったそうだった拍手喝采!!!
「えええ〜〜すっご〜い最高〜カッコいい〜」
色々言ってみた。
何を言ってもそれでは足りない。
yamoは心から感動していた。
次元が違う感覚。破壊された後に残った小さな火🔥を感じていた。
深部が温まっていく。
ぬるま湯で満たされていく。
「おれらウタったらダメなやつ、、、」
びっくりし過ぎて拍手する気が有るのか無いのか、のけぞり気味の体制を立て直して、ゆっくり拍手しながらつぶやくガヤ2人。
あざ〜〜っす!と、トールちゃん。
タイミングといい選曲といい全てがパーフェクトな時って有る。
用意された特別な時間。
特別な、用意されたステージ。
ご満悦。
***
と、いうわけで次回に続きます。
ここまでありがとうございました。
次回、バンドマンのファンサービスに、忘却の彼方に忘れ去られていた乙女心を翻弄されるyamoに乞うご期待。