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ある犯人探し〈3〉
iyamori(管理人3)→(管理人2)からの続き
*****
管理人室がこんなに賑やかになる日は珍しい。
その日の午後は、管理人室に数人の理事会役員達が集合していた。
*****
ゴミ問題。
1週間前、鉄製のちょっと丈夫そうなスリッパラックを捨てたかった人が居た。
可燃ゴミの日に捨ててみたけれど、でもそれはゴミ収拾車には持って行ってもらえなかった。
1週間経って、管理人名で張り紙を貼ってみた。
でもそれは放置されたままだった。
防犯カメラ映像から犯人を割り出せるだろ!と、言う住人様が現れた。
1人ではない。
数人、そういうご意見をyamoに投げかける人が現れた。
割り出せたとして、それをじゃあどうしましょうか?
ん?
っっっっむむっ!??
*****
各マンションにもよるのだと思うけれど、たぶんどこのマンションも、管理会社(管理人)は、そのマンションの共有部の維持と管理を担っているはず。
資産としての価値をなるべく落とさないように維持と管理をする。
だから日々の掃除が大事なのだ。
資産価値を下げない方法とは、掃除が1番だ。
建物と敷地が清潔に保たれることと、安全性を守ることが、まあたぶん一般的な管理会社の仕事なのだろうと思う。だいぶ大雑把な言い方だが。
だから、個別に住人様に何かご意見や要望を管理会社(管理人)は出せない。
てか、出さなくていい立場なのだ。
せいぜい今回のこの場合も含めて、何か個人的に迷惑を被っている人が出たとしても、「ちょっとなんとかしてよ」と言われたところで、
管理人のyamoに出来ることはせいぜい張り紙を貼ってみるという程度なのだ。
それが、まさにそのせいで「具体的現実的個人的にすっごい迷惑している」という事柄ですらなく、「自分はきちんとルールを守っているのに、守らない奴が居ることが我慢ならない」という理由の「ただのご意見」には、「ハイかしこまりました」と、「私がきつく取り締まりましょ!!」と、ハイハイと簡単には運ばないのだ。
と、いうわけで、理事長が動いた。
てか、もう動いてもらうしかなくなった。
当初yamoは、カメラ映像からそれが誰なのかということが分かったとして、じゃあその人に直撃しましょう〜という事態は得策ではないと考えていた。
だってそれを誰がやるのよ〜と思っていたし。
誰もやりたくないに違いないでしょ。
直撃された方だって、、体裁が悪いに違いない。
で、もう一段階上の『張り紙』を用意してから理事長には電話をした。
張り紙の内容とは、
『これは粗大ゴミです。監視カメラ映像で捨てた日も特定されました。どうか、もう一度出し直して頂きますようお願い申し上げます。管理人』
良心に訴えている。
え!監視カメラだって!!俺(あ、男性でした犯人)の顔も映ってるってこと?!
と、驚いて夜中にこっそりそのスリッパラックは引き取られるに違いないとyamoは思っていた。
穏便。
平和的。
ね。。。
ところがどおーっこい。
*****
「管理人さん犯人見つけたって?」
「いやーさすがだね」
「誰誰?誰だったの」
「や、私はただ許可を頂いたので録画されてる映像を確認しただけです」
「で?誰誰」
「おう、で?誰だった」
映像を見せた。
ん?
という男性陣から一歩前に出て、モニターを指差して1人の初老の女性が「間違いないわよ!」と特定した。
そう。
この瞬間、部屋番号も名前も特定されてしまったのだ。
そこからの展開がyamo的には面白かった。
と言うか、意外すぎて慌てた。
もう電光石火のような勢いでこの女性は理事長にも詰め寄り畳み掛けてきた。
「どうする?誰が持って行く?私が部屋も知っているし玄関前に置いてきましょうか」
「この人ホラ役員も嫌だって言ってたでしょ」
間違いないわよーーー!何号室の〇〇さんよーーー!!
ぎゃいぎゃい。
ぎゃいぎゃい。
モニターと集合している役員それぞれに交互に忙しなく視線を行き来する。
興奮していることを隠そうという気配も無い。
そこに「そうだそうだ」と同意する仁王立ちの御人。
管理人室にドンドンドンと強くノックして直接「意見」を言いに来た御人である。
待て待て待て待てと、yamoは思っていた。
おいおいおいと。
この瞬間はとにかく「捨てた人が特定された」だけだ。
間違いない!
というところから、「私がスリッパラックをそいつの玄関に置きに行ってもいいぜ」という人間が簡単に現れ、なんなら率先してそれをやりたいと言っている。
その展開にyamoは軽い恐怖を感じていた。
玄関先にそれを置いて、それに気づいた時の犯人のどんな様子を思い描いて興奮しているのだろうか。
や、ちょっと落ち着こう。
ね。
ちょっと落ち着こうよというyamoの気持ちは、どうも口に出ていたようで、理事長が
「そうだね。ちょっと考えましょう」と同意してくれた。
「まずは、本当にその人で間違いないんですね?」
実に柔和に問うた。
初老の女性は、
「まちがいないですっ!!」と、
再度またモニターを強く指差して〇〇さんですっ!!と鼻を膨らませた。
何度も言わせんな!という勢いだ。
「そうですか。分かりました」
「ね。だからホラ!これは粗大ゴミだって書いて貼って」
「そうだそうだ!カメラで見たって書けよ」
もう止まらない。
興奮MAX。
犯人を特定した初老の女性と、仁王立ちの御人の興奮は止まらない。
「、、いやいやとは言えね、、じゃあすぐに玄関に突っ返すというのもどうでしょうか」
「そうですよ〜」(yamo)←なに一員の立場になってんだ
「例えば、【監視カメラから特定出来ましたよ】という内容でね、他の住人さん達にも広く分かるようにね、、」
「あ!それ!理事長!私、張り紙コレ書いてもう1回貼るのはどうかと思って書きました!(見て見て〜)」(yamo)←自分の提案を採用してほしい一員
「いや!!ダメだ。
そ〜んな悠長なあんた。
あのゴミを!!玄関前に持っていくか、特定出来てるぞってメモでも張り紙でもとにかく玄関に分かるようにしなきゃダメだ。
これを許したらまた次もやるんだよこういう奴は!!」
「そうよ!!だから私が」←どうしても自分がそのお役目を担いたい 笑
「や、あ、
でもでもでも、まだ1週間しか経ってないし、張り紙してから2日だし、もう1回張り紙して、カメラでバレてるっていう内容読めばさ〜」(yamo)←すっかり一員
「1週間もだっ!!!」
「ひ」
「まだ1週間なんかじゃない!1週間もっ!放置しやがってんだ!」
(そうかよ〜、、えええ〜〜、でもさ〜)
「は、あ、でもでも、それがその人だって特定したの1人だけじゃないですかあ、、。ここに居る全員がその人で間違い無いという自信があるわけじゃないですよね、、?」
「!」
「!」
「万が一ってことは無いんでしょうか」
「!」
「?」
「どう思う」
何かに気づいたように初老の女性は提案を改めた。
「分かった。そうね。万が一ってことは有るわね。
じゃあとりあえず電話してみるっていうのはどうですか?」
「デンワ」(理事長)
「そう。電話をかけて、間違っていたらごめんなさいって」
「あああ!なるほどな。カメラで確認できたぞと。違ってたらすまんって言いながらやった覚えはあるかって聞くってことか」
めっちゃ乱暴なもの言いだがまあつまりはそういう事だな。
「それを誰がするんですか〜?」
「まあ立場上私でしょうね」(理事長)
yamoはちょっとホッとする。理事長ステキ♫
「そうそう!理事長さんちょっと電話してみて」
「おうおうそうだそうだ」
「え、え、今ですか?」(yamo)
「善は急げって言うだろ!思い立ったら吉日だ!」
「しかしどうでしょうね〜、、平日のこんな午後とは言え早い時間に電話に出ますか?」(理事長)
「かけてみるだけかけてみましょうよ!」
「そうだそうだ」
マジで〜??今〜?
どうしてもこの人達は今すぐやっつけたいんだな〜、、と、yamoにはちょっと理解が及ばない展開に戸惑っていた。
とは言え、事態は動いた。
「ではかけてみましょう」
理事長が上着のポケットから自身のスマホを取り出して、相手の番号を選択した。
役員同士なのでここは何の問題も無い。
固唾を飲むとはこういう状態だ。
そこに居る全員がじっと息を殺すように静かになった。
呼び出しコールが3回聞こえたあたりでyamoが「出(ないね)」と、言ったその口を初老の女性に塞がれた。笑 手で。
シッ!
まあ立ち位置もちょうど良かった。
カメラの操作をしていたせいでイスに座っていたyamoのすぐ後ろに女性は立っていた。(その位置でカメラ映像を確認しながら、これまでのやり取りは行われていた)
背後から左手で肩を押さえられ、口を右手で塞がれた。笑
シッて。
黙った。
ハイすみませんと思っていた。
顔はニヤニヤ笑っていたかもしれない。
このシーンは後で思い出すと可笑しくて可笑しくて「思い出し笑い」してしまう。
シッ。笑
ふがふふ。
間もなく、いわゆる犯人は電話に応答した。
「ああ、理事長。こんにちわ。先日は理事会に参加出来なくてすみませんね」
「いや、それはいいんですよ。今、少しお時間大丈夫です?」
「ハイ?」
「いや、実はね、、、」
「なんでしょう?」
「今、防犯カメラ映像でね、ゴミ置き場の過去の映像を確認していたんです」
「、、、ハイ」
「あそこにここ数日放置されているアレ。
張り紙も貼られているアレです。
あ、いや、間違っていたら本当に申し訳ないんですが、映像を見る限りあなたが捨てているように見えるのでね、どうですか?心当たりありませんか?」
「、、、、」
「間違っていたらすみません。しかしね」
「スリッパラックですよね?アレって持って行ってもらえないんですか?」
「!!、、あれはそだいゴミなんですよはりがみにもそうかいてあったし1しゅうかんもって行ってもらえないだんかいであなたそこは分かるでしょ」
それまでとても柔和だった理事長も、犯人がそれを認めた途端ちょっと興奮モードになった。一気に捲し立てた。
「粗大ゴミはあそこに放置されては困るんです。」
「ハイすみません」
「すぐにでも引き取ってください。
ルールを守って手順に従って出し直してください」
「ハイ」
「この電話が間違いではなくて良かった。。。
それと、、」
ハイ
この件については、私以外は誰も知らないのでそれもお知らせしておきますね
私1人だけというこの段階で速やかによろしくお願いしますよ?
ハイ
「はい以上です」
理事長は静かにスマホをまた自分の上着のポケットにしまった。
一同拍手。
おおおおお良かった良かった。
初老の女性の手もyamoの両肩から離れた。
yamoの個人的には理事長を胴上げしたい気持ち。
「私1人しか知らない」という言葉を添えたのは素晴らしい機転だと思った。
きっと犯人もだいぶ体裁が悪いところから救われた感があったのではないだろうか。
間違いは犯したけれども、イエスに許しを得た弟子の気持ち。
理事長ステキ。
そして翌日、yamoが出勤した時にはそのスリッパラックはゴミ置き場から無くなっていた。
今度ヒマな時間に引き上げる様子も映像で確認してみるかな。
*****
と、言うわけでこの件は解決されましたとさ。
ちゃんちゃん🎵
いやあ〜本当に日常はドラマに満ちている。
ではまた。