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株式投資における禁忌

「禁忌(きんき)」は、医療の世界ではよく使用される言葉ですが、「やってはいけないこと」のことを指します。国家試験や専門医試験では、選択問題で禁忌肢を選んでしまうと、それだけで試験に合格できないほどです。株式相場でも禁忌に近い行動が存在します。せっかくの下落の機会ですので、個人投資家が踏むべきではない株式投資における禁忌をおさらいします。

禁忌① 使う予定のある資金で短期投資を行う

これが最もやってはいけない行動です。1年以内にスマホやパソコンを買う予定がある、3年以内に車を買う予定がある、5年以内に子供の学費の出費の予定がある、など、明確に資金の使用目的があり貯蓄している場合、基本的にはその資金に手を出してはいけません。使ってしまう場合は、その資金が増えることだけを考えてしまっていると思います。株式投資は、資産が増加する可能性が高い、資本市場へのすばらしい第一歩ではありますが、必ずリスクを伴います。「その資金を使う直前で売ればいい」と楽観視するかもしれませんが、いつ株式が下落するかはわからないものですし、たいていそのように楽観視している時に下落していくものです。また期日が決まっている時には焦りが生まれ、いつも通りにトレードすることが難しくなります。5年後、10年後、20年後など将来の使うだろう資金のために長期的に積立をしておくことは良いですが、使う予定のある資金を短期投資で運用するのは非常に危険です。

禁忌② 下落環境で信用取引(買い)を行っている

米国株投資を極めるシリーズ 「ポジションサイズ」 ③ 市場サイクルとポジションサイズ で言及していますが、利益の見通しが悪い時は、ポジションサイズを小さく保つことが常識です。そんな中で信用取引(買い)を行ってまでポジションサイズが膨れている場合は、相次ぐ追証にあい、最終的には破産への道を歩む可能性があります。下落環境でポジションサイズが大きい場合は、失敗を潔く認めてポジションを落とし、次の成功に備えましょう。

禁忌③ もう下落が終わりだと過小評価する

「落ちるナイフを掴むな (Don’t catch a falling knife)」は有名な投資の格言ですが、未来を見る超能力がない限り、どこまで株価が下落するか予想はつかないものです。特に幅広い範囲の個別株やETFが1日で大きく下落している、いわゆる投げ売りが起きている時はなおさらです。

黒が現在の株価値動き、桃色が下落の典型的な値動き、青が上昇の典型的な値動きだ。個人投資家は、底を狙おうとせず、少なくとも上昇の気配が見えたらトレードを再開する方がいい。

図のように、下落が強い場合はある程度反発するものが常ですので、たとえ反発があっても、高値が更新できず、安値が切り下がっている限りはずっと下落していきます。底が疑われる局面では、反発した後の下落がマイルドで、安値が切り上がり、高値は更新していきます。短期的に上昇局面が見えるまでは、高みの見物で見守る、ひと休みすることが理想です(Don’t catch a falling knife, let’s take a break)。

禁忌とまではいきませんが、やめた方がいい非推奨行為も説明していきます。

非推奨① NISAで損切りする

NISAは利益が非課税となる素晴らしい制度ですが、その一方で損益通算はできないデメリットがあります。損益通算は、損切りしてマイナスになった損失資金と、利益を得てプラスになった利益資金を相殺できる制度です。さらに年間のリターンが損失となっても、3年の間はくり越すことができます。通常口座(特定口座)では、弱気相場の年で大きくやられても、強気相場の年で取り返すことができます。(※提示していた具体例は間違っており削除しました。失礼しました。)

またNISAの個別株投資を行なって、数十万単位の利益が非課税になるとお得に感じると思いますが、非課税の恩恵をもっとも受けるのは、長期的に投資を行い、複利の力を身につけて膨大になった口座資金です。個別株NISAでちまちま喜ぶより、数十年先の莫大な利益で喜んだ方が良いです。NISAでの個別株運用、さらに損切りは愚の骨頂です。NISAは、損切りしないように指数(SP500や全世界)を長期で運用し、複利の効果を十分に享受するのがセオリーです。

非推奨② 為替換算してモメンタムを比較する

円安ドル高だと円建て米国株のリターンが良くなり、円高ドル安だとドル建て日本株のリターンが良くなります。eMAXIS-Slim米国株式は円建てのSP500として有名ですが、2020年1月12,168円に対して、2024年8月現在は29,337円で+141%のリターンですが、ソースであるSP500は2020年1月$3,265に対して2024年8月現在は$5,396で+65%のリターンです。この差は円安による為替の影響を受けているからで、日本円建てSP500のモメンタムは過大評価されています。

現在は円高に向かっていますので、ドル建て日経平均チャートを見ている方は注意してください。円高に向かうドル建て日本株資産なので、モメンタムは過小評価されます。ドル建て日経チャートではこの下落はSP500相当と思うかもしれませんが、それは為替換算されて過小評価されているだけです。個別株を見ても、日本個別株の下落率は米国株個別と比べても下落率が高く、非常に弱いモメンタムです。過大(過小)評価しないために、必ず1次ソースとなるもので評価、比較してください。

非推奨③ レバレッジ型ETFでトレードする

SP500の3倍の値動きとされているETFである$SPXL, $SPXS、また半導体指数SOXの3倍の値動きとされている$SOXL, $SOXSなどは、劣悪商品です。手数料は高いし、そもそもレバレッジ型ETFの値動きは正確にはその倍数(3倍など)にはなっていません。とはいっても、レバレッジ取引が悪いわけではありません。レバレッジ取引は、資本市場の中でも非常に大切な概念で、適切に使用すれば恩恵を受けることができる素晴らしいものです。医療では麻薬のような立ち位置でしょう。レバレッジをかけたいのであれば、信用取引や先物取引の方がはるかに手数料は小さく、パフォーマンスも正確にその倍数になるので、レバレッジ型ETFを購入するよりは、信用取引や先物取引を行った方が良いです。

現在の環境を踏まえて

日本株、米国株ともに下落しています。どこまで下落するか全くわかりません。日本株は日銀の利上げ、急激な円高、米国株の不透明感と、トリプルトラブル状態です。米国株はAIブームの懸念と景気後退意識のダブルトラブル状態です。FRBの利下げを待っていますが、9月まで利下げが待てる状態を保てればいいですが、万が一はFOMCを待たずして行われる緊急利下げがあります。緊急利下げは危険サインで(参考の広瀬孝雄先生の記事参照)、ハードランディング確実のパウエル議長によるオーバーキルですので、利下げであっても買い向かうことは危険です。

老練な広瀬孝雄先生の記事である。結局この後27%下落しCOVIDショックとして歴史に名を残すわけだが、強い下落で肝を冷やした記憶はまだ新しい。

私は、食べ物でも株式投資でも、「お得と旬」が好きです。米国株は短期目線のグロース株モメンタム投資(旬で買う)ですので、今は旬は過ぎたので当然現在はポジションは小さく現金中心で、次の旬が見えてくるまでは休憩です。日本株は長期目線の財務健全高配当増配株投資(お得で買う)ですので、まだまだお得ではないので優良株がもっと下落して買い増ししたいと考えています。特に、欲張って2022年の株式分割前の15,000円を逃した信越化学工業を狙っていますが、ぜひ4,000円まで落ちて欲しいと願っています。

参考

米国株投資を極めるシリーズ
株式トレード上達への道
損切りは素晴らしい行為である
広瀬孝雄先生の記事「広瀬の外国株式デビュー口座 FRBが0.50%の緊急利下げ その意味と今後の展開」(SBI証券のHPにとびます)

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