忙しい人のための『晴明伝奇』#25 天寿を操る秘術
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▶時期:康保四年(967)
晴明は眼前の鈴が鳴り響いている理由がわからず困惑し、賀茂保憲もまた晴明の身に何が起きているのか把握できていなかった。藤原師尹は捉妖鈴が晴明に反応したことに内心驚いていたが、詳しい状況を説明することなくその場を後にした。
帰宅した晴明が憲平親王の病状を案じていると、若藻が智徳法師から教わった秘術を提案する。それは唐の道士たちが泰山府君を祀って編み出したもので、自分の残りの寿命を相手に差し出す禁術だった。晴明が若藻の話を信じられないでいると、彼女は晴明の目の前で秘術の効果を証明する。
一方、碧霞は人知れず冥界の死籍を開いて憲平の天寿を確認し、師尹に対して遠回しに憲平の寿命が残りわずかであることを伝える。碧霞は師尹から例え話として「憲平を救うために、物の怪の力を借りても良いか」と問われる。碧霞は一歩引いた視点で「物の怪の力によって延命できたとしても、健康でいられるかはわからない」と答える。
師尹は晴明の力に頼ることを決意し、源満仲を介して晴明を小一条邸に招く。師尹は晴明の前に捉妖鈴を見せ、晴明の力を以て憲平を救うように命じる。晴明は断るが、師尹から憲平を救えなければ晴明の正体を公にすると脅され、息子たちの将来を潰すことを恐れて仕方なく引き受ける。晴明は憲平を救う方法について思案を巡らせている間に、若藻から教わった秘術を思い出す。晴明は師尹に秘術の概要について説明し、荒唐無稽だと却下されるに違いないと思っていた。ところが、意外にも師尹は晴明の言葉を疑うことなく彼の提案を採用した。
晴明は、憲平を救うためには身代わりとして寿命を差し出す者が必要だと説明する。師尹がその役割を買って出ようとすると、村上天皇が身代わりを名乗り出る。天皇は亡き妻である藤原安子を恋しく思って兼ねてから退位を望んでいたが、公卿たちに引き止められていた。そのような状況に置かれていた天皇は、彼の息子のために残りの寿命を犠牲にしても構わないと考えていたのだ。しかし、天皇の決断は晴明をはじめ周囲の人々に大きな動揺を与えた。
天皇は藤原実頼に「守平親王を次の東宮とする」と遺言を伝え、晴明に儀式を始めるよう促す。晴明は憲平と天皇の手をとって、天皇の寿命を憲平に移した。憲平の病が回復した代わりに天皇が病床に臥し、程なくして崩御された。晴明は自分が強大な力を持っていることを自覚し、朝廷を揺るがす行いをしてしまったと後悔する。