忙しい人のための『晴明伝奇』#20 浮生は夢のごとし
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▶時期:天徳四年(960)
平良門は朝廷に復讐するために、宣陽門に火を放った。やがて火は燃え広がり、侍臣たちは悲鳴を上げながら逃げ惑った。藤原兼家が村上天皇に未だ消火できていない状況を奏上し、天皇は内侍所に納められている大刀契を持ち出すよう命じたが、温明殿はすでに炎が燃え盛っていて誰も近づけない。陰陽寮に火災の報せが届き、晴明と保憲は皆が避難する場所を定めるために内裏へ急
いだ。
覚醒した白雪は、人間界でのすべての記憶を失っていた。彼女は地獄の火炎に呑み込まれて気を失ってから、自分の身に何が起こったのかわからず呆然としていた。炳霊はすぐに白雪を連れて帰ろうとしたが、彼女は遥か向こうに燃え盛っている炎を目にして、火災を鎮めてから帰ることにする。炳霊は人間界に干渉してはならないと説得するが、白雪はこの事態を放置できないと言い返
して火が燃えている方へ向かった。
晴明たちが内裏へ駆けつけると、凄まじい火炎が燃え盛っていた。保憲は天皇を太政官朝所へ避難させようとしていた藤原師尹を引き留め、忌むべき方角に当たることを伝えて他の場所に避難させた。三種の神器のうち神璽と宝剣は天皇が持って内裏を脱出したが、神鏡だけは宮中に残されたままであった。藤原実頼は燃え盛る炎のなか神鏡を探し回ったが、なかなか見つからない。
同じ頃、白雪もまた宮門の前にいた。彼女は炎を鎮めるのに最も適当な場所を探している最中に、灰燼の中に鏡が埋もれているのを発見する。その鏡が神鏡だと察した白雪は、神鏡を浮かび上がらせて木の枝に掛けた。その光景を目撃した実頼は、神仏の加護は消えていなかったのだと感涙した。
晴明は人気のない場所に移動し、妖狐の力によって炎を鎮められないか試したが思うようにいかない。ちょうどそこへ白雪が通りかかり、晴明は突然内裏に梨花が現れたことに驚いて声を掛けようとする。しかし、白雪はもはや目の前にいるのがかつて愛した男だということなど覚えていなかった。
内裏の中心部に到った白雪は空高く舞い上がり、幽冥傘を取り出して激しい雨を降らせる。内裏を包んでいた炎は鎮まり、人々はみな天女が恵みの雨を降らせたと感嘆する。炎が完全に消えると白雪は虚空へ去っていき、晴明はただ地上から見ていることしかできなかった。
騒ぎが収まって晴明が帰宅すると、子供たちが母親の不在を悲しんでいた。その時、晴明は初めて梨花の正体が内裏で炎を鎮めた天女だったのだと思い至った。