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【秋葉原アンダーグラウンド】 第9章 14話 (最終話)

シンが自首してから約三か月が経った。この間色々なことがあった。トガはロンと共に裁きを受けた。地上での一連の騒動はロンによるテロ、地下の能力者はそれに対する正当防衛力として処理をされた。一方で能力者やアンダーグラウンドの存在は世間を騒がせた。しかし、アキモトらの懸命な措置により能力者を非能力者にする薬が認可され、試験運用も始まったことで世間の興味も薄らいでいった。そしてアンダーグラウンドと地上とを隔てていた規制線が解かれ、アンダーグラウンドの民に地上での市民権が与えられることとなった。今では多くの人間が地下から地上へ、地上から地下へと行き来している。さらにAKIHABARA48の復活ライブも修復が完了したドンキホーテで行われた。マユたちがステージで歌っているのを、レンはタクと共に眺めていた。タクやハクは罪には問われなかった。これはアキモトだけではなく、リツやイジュンの説得によるところが大きかった。マリは目を覚ましサラやルリと生活をしている。ワンとリンのところに新しい家族も増えた。シュンはカイと共に世界を旅している。


レンは一人地下闘技場に来ていた。かつて師兵らの昇級試験が行われていた場所である。現在修復作業中で今後は別の何かに再利用されるらしい。レンにはもう能力はない。あの日、シンが地上に旅立つ日に抹消剤を打ったのである。


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「レンくん、本当にいいのか?君くらいは能力者であっても誰も文句は言わないと思う。」

「ワンさん、いいんだ。能力のせいで皆おかしくなってしまったんだ。それに能力がなくたって大切な人は守ることができる。」

「わかった。二度と能力者が生まれない環境を作ることを約束するよ。」

「ワン、それにレン。アンダーグラウンドが地上から受け入れられるまで時間を要するかもしれない。ここが正念場だ。皆で力を合わせて乗り越えてくれ。」

「わかったよ、シンさん。シンさんこそ早く戻ってきてくれよ。家族たちが待ってる。」

「あぁ。アンダーグラウンドの民は皆家族だからな。」


そう言うとシンはレンと握手を交わした。こうして全ての能力者は一般人として生活を再スタートさせたのだった。


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レンはぼーっと今後について考えていた。会社は休職していたため還る場所はあるものの、どこか物足りなさを感じていた。それだけこの数ヶ月の出来事が大きかったのである。またマユの元へと通おうか、そんなことを考えているとある人から声をかけられた。


「レンさん!」

「うぉ、マユか!?びっくりした!こんなところにどうしたの?レッスンは行かなくて平気なの?」

「レッスンは今日はお休みなの。だからちょっと地下を散歩したくなって。それで気付いたらここにいた。」

「気付いたらって、どうやってもここへは来ないでしょ。」

「だったらレンさんはどうしてここにいたの?」

「オレは・・・なんとなくかな。」

「じゃあわたしもそれで。」


二人は笑い合った。どこか恥ずかしく何よりうれしい。手紙でしかやり取りできなかった愛しの相手とこうやって一緒にいることができるのだから。やっぱりこの子に会いに行こう。


「決めたよ。オレまた手紙を書く。そしてきちんとマユに会いに行く。」

「手紙を書くのはもともと決まってたことでしょ?」

「あれ、そうだったっけ?なんか色々ありすぎて記憶があいまいかも・・・」

「ぶーっ。ちゃんと約束したんだよ。それに会いに行くってアキモト先生向こう一年はお休みするから、復活祭以降の活動は決まってないんだよ。」

「そ、それはリツさんにお願いしたりして・・・」

「あー、レンさんそれって抜け駆けっていうか職権濫用だよー。」

「だよね、ごめん・・・でも会いに行けなくなるわけじゃないんだ。毎日手紙を書いて、また会えるその日まで他のファンの方と同様に待っていることにする。」

「えーっとそのことだけどレンさん・・・こうするのはどう?」


マユはそのままレンの唇に自身の唇を重ねてみせた。レンはあまりの出来事にただ困惑し身動きがとれないでいた。マユは唇を離し話し始める。


「お付き合いするのはどう・・・かな?そしたら会おうと思えば会えるわけだし。」

「え・・・それって見つかったらまずいんじゃ・・・」

「それはリツがなんとかするとして・・・ってそうじゃなくて、私と付き合うことに異論はないわけ?」

「い、いや異論があるわけじゃなくて・・・ほんとにオレでいいの?」

「レンさんじゃなきゃダメなの。私と付き合ってください。」


女の子に全部言わしていいのかこのダメ男めとレンは情けなさを感じていたが、次にはマユの唇に自身の唇を重ねていた。先ほどより強く、優しく。二人は離れると互いの顔が見れないほど照れてはいたが、それからもう一度だけ唇を重ねてみせた。


「マーユー、いるのかー?そろそろ地上にもどるぞー?」


リツだった。二人は慌てて離れた。はーいとマユは言う。


「行こう、レンさん!」

「あぁ、そうだな!」


二人は手を取り合う。リツは何やら険しい剣幕をしていたが次にはやれやれといった顔で二人を迎えてやった。


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あとがき


ファンタジー小説「秋葉原アンダーグラウンド」完結でございます。能力者バトルはもともと描きたかったですが、そこにアイドルを融合させてみました。いかがでしたでしょうか?伏線もできる限り回収してきたつもりです。

はじめはここまで大きくなる話ではなかったのですが、実際に妄想から文字に起こしてみたときにあれも書きたい、これもアップデートしたいと思うようになり壮大な物語となってしまいました。多少お見苦しい所もあったかと思います。

ですがここまで描ききれたのは読者の皆さまがいてくれたお陰だと思っております。本当にありがとうございました。

次回作の案としては、レンが親となりその子供たちの世代を描こうと思っています。能力は個人が保有するのではなく、武器に宿すスキルとして発現させる構想を練っております。

いずれにせよ次回作にご期待ください。また皆さまと会える日を心待ちにしております。

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