【秋葉原アンダーグラウンド】 第9章 11話
「ミカサ、抹消剤をよこせ。」
ロンは自身に抹消剤を打つと深く深呼吸をした。活性化していた細胞が活動を止め能力が失われていく感覚が感じとれた。ロンはふーっとため息をつくと近くにあった椅子に腰かけた。
「これで能力に脅かされる心配はなくなった。ミカサ、お前も打つんだ。」
ミカサはロンに言われるがまま抹消剤を打つ。周囲に張り巡らされていた静電気が消えていく。
「それでロン、オウを生き返させてくれるのですよね?」
「問題ない。マリと引き換えに反魂を使用してもらう。それにシンをも生き返すとなれば確実に応じるはずだ。」
ミカサは安堵した。一方でロンは笑いが止まらなかった。まさかここまで思い通りにことが進むとは。ロンは転がっているシンに近づき言い放つ。
「もうすぐ世界を終わらせることができる。お前の愛した世界が滅びゆく様を見せてやりたかったよ。だがな安心しろ。すぐに皆そちらに送ってやる。」
ロンはシンの顔を覗き込んだがそこで一気に不愉快な気分となった。すでに死に体となっているにも関わらず微笑んでいたのだ。ロンはシンの体を蹴り飛ばした。
「この期に及んでなにを笑っていやがる!もはや希望なんぞどこにもないんだよ!それともまだ何か懸念材料があるとでもいうのか?」
ロンはもう一度シンの体を蹴り飛ばす。苛立ちを隠しきれなかった。頭をも掻きむしっている。しかし再度状況を整理することで冷静さを取り戻すことができた。ロンはミカサに告げた。
「ミカサ、今すぐマユをここへ連れて来い。おそらくだが時間がない。アキモトに地下を沈められてしまうからな。」
ロンはアキモトの算段をも把握していた。ミカサは少しうつむき加減でこう話す。
「ですがロン、私は今や非能力者です。向こうへ行っても戦う力がない。すぐに捕まってしまいます。」
「捕まってくれて結構。お前の命なんぞどうでもよい。すぐにオウの元へと送ってやる。だがここまで頑張ってくれたのだ。オウの復活だけは叶えてやる。」
オウが生き返っても自分が死んでしまったら元も子もないじゃないかとミカサは思ったが、それでも愛した人が生き返ってくれるのなら本望だった。ミカサは一人研究所を飛び出していった。ロンはそれを見送った後、シンの遺体のそばにオウの遺体を並べ始めた。
「ワンも死んでいるはずだ。どうせなら全員復活させてやるのも悪くない。あぁでもそれはできないか。シンも含め能力者だ。反魂による能力の二度打ちは意味をなさない。くくっ滑稽だな。」
「何が滑稽だって?」
ロンはゆっくりと声のしたほうを眺める。聞いたことのある声だ。この男はいつだって邪魔をしてくる。
「ようこそ、カイ。それにマユも一緒だとは驚いた。ミカサとは入れ違いだったかな。」
「シンさん!」
「おっと動くなよ。合図を出せばお前らもすぐにシンと同じ状態になる。まぁオレを殺しても起動スイッチが作動するようにしてあるがな。」
「それで、マリを返してもらう条件はなんだ?」
「マユに反魂を使ってもらう。今すぐにだ。」
「そこにいる黒焦げの遺体を復活させたいという訳か。何か訳ありというわけか。」
「人として最後に情けをかけてあげたくてね。まぁそれでも皆すぐに死ぬがな。」
「全部お前の思惑どおりという訳か。マユ、少し目をつむっていてくれ。オレはこのままマリを殺すとする。」
「そうきたか。だが殺したところで手遅れだ。マリの力、歌声は既に録音してある。スイッチを押せば全世界に配信されるようにしてあるのだよ。」
「取引としては成立していないな。」
「取引?これは命令だよ。マリを手に入れた以上もはや貴様らにどうこうする術はない。さぁアンダーグラウンドごと沈められるかマリの手によって殺されるか選びたまえ。」
ロンとの間に沈黙が流れる。しかしそれを破ったのは他ならぬマユだった。
「反魂・・・使わせてもらいます。」
「マユ、それはもはや意味をなさないんだぞ?」
「カイさん、私を信じてください。きっと大丈夫だと思います。」
「・・・わかった。だがもしものことがあった場合オレは剣を抜くぞ。」
「ありがとうございます。」
「結論は出たか?早くしないと・・・」
ロンがそういうと、マユは淡い緑色の光を帯び始めた。反魂の能力が解放されていったのだった。
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