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【秋葉原アンダーグラウンド】 第9章 13話

トガの放った飛燕は音速を超えた。レンはそれに向かい神風を浴びせる。2つの技がぶつかった瞬間、四神や黄龍をも凌駕する衝撃が走った。大地が砕け大気が割れ、周りのありとあらゆるものがその場に佇むことができないほどに。それでも2人の達人はその場に立っていた。


「出力最大。」

「出力最大!」


飛燕はまるで朱雀をも思わせる姿に形を変え神風を飲み込もうとする。神風もまたより大きく、より真球に近づき応戦する。しかしレンの腕は肉が裂け血が吹き出していた。それほどまでに飛燕の威力は凄まじかった。レンは思わず片膝をつく。このままでは神風ごと飛燕に飲み込まれてしまう。しかし時々飛燕は揺らぐ。出力が安定していないのだ。トガの肉体もとうに限界を迎えていたのだ。トガも筋肉が裂け至る所から出血がみられた。


「ぐっ・・・」

「トガっさん・・・」


次にレンは雄叫びをあげるともう片方の手のひらにもう1つ神風を作り、それを飛燕にぶつける。飛燕にひびが入り始める。トガも負けじと力を振り絞り出力を上げる。しかしそれでもなお神風の出力のほうが強い。そしてついに飛燕は神風によって破壊されてしまった。それと同時にトガの目の前の巨大な炎の弓も崩れ去る。トガは初め立ち尽くしてはいたが吐血後その場に仰向けで倒れてしまった。レンは急ぎなんとかそこまで歩み寄る。


「トガっさん!」

「強く・・・なったな、レン・・・最後に立っていた者が勝者。オレの負けだ・・・」

「トガっさん、もうしゃべらないでくれ。今すぐに治療を・・・」


レンはそこまで言うとどこからか歌声が流れてくるのが聞こえた。これはもしや・・・マユ?ダメだ、今反魂を使えばトガは生き返るどころか死んでしまう。トガをどこか安全なところへ避難させないと・・・しかしトガの巨体はぼろぼろの体のレンでは動かすことができない。歌声はどんどん近づいてくる。万事急須か・・・


「大丈夫ですよ、レンさん。」

「・・・マユ?ダメだ今反魂を使っちゃ・・・」

「だから大丈夫なんです。反魂の力、実は覚醒してるんです。二度打ちの呪縛はもうありません。」


そういうとマユは再び歌ってみせた。優しい歌声。これが覚醒したルリの力なのか。いやもしかするとマユ本来の歌声に反魂が重なっているだけなのかもしれない。懐かしくもありどこか新しい。レンはその歌声に酔いしれていた。気付くとレンは体が軽くなっていた。回復している。トガは気を失ってはいたが傷口は塞がれ呼吸も安定しているようだった。


「トガっさん・・・トガっさんの罪は地上で償ってもらうからな。今はそのまま眠っていてくれ。」


そう言うとレンはこときれたかのようにその場に倒れ込んでしまった。


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「なぜオレは生きている・・・」

「マユが反魂の力を使ったんだ。地獄に行くのはまだ先のようだったな。」

「ククッ、地獄か・・・それも悪くない。」

「お前もきちんと法の裁きを受けるんだ。そして裁きを終えたらお前の頭脳を困っている人たちに使ってやってくれ。」

「オレがそれに応じるとでも思うか?戻ってきたらまた同じことをしでかすかもしれないぞ?」

「させないよ。もし仮にそうしたとしてもオレが必ず止めてみせる。」

「相変わらずの自信家だな。だがな、今やアンダーグラウンドは日本にとどまらず世界的な脅威だ。お前にこの波が止められるかな?」

「その役目は私にやらせてくれないか?」


入り口付近にアキモトの姿があった。急いで駆けつけたのか息が少しあがっている。ロンはアキモトの姿を見ると奥歯を噛み締め悔しそうな顔をした。そうだ、この男は今や世界的な権力を持っている。この男なら世界と交渉のテーブルにつくことができる。


「私の罪を告白することにするよ。そしてサラくんの血とワンくんの抹消剤をブレンドした新薬を国から認可をもらえるように働きかけてみるつもりだ。」


きっとワンも生き返っているはずだ。アキモトに協力して動いてくれることだろう。


「シンくん、君はどうするつもりだ?」

「自首するつもりです。理由はどうあれ私は前首相を殺している。皆は精神的にも強くなったし信頼もおける。例えオレがいなくてもきっと大丈夫です。」


そうかとアキモトは静かに言った。シンはロンの手首をロープで括り立ち上がらせる。


「後のことはよろしく頼む。」

「シン、その前に家族たちに顔を見せて行け。自首するのはその後でも構わないだろう。」

「ありがとう、カイ。それじゃお言葉に甘えさせてもらうよ。」


シンはカイにロンを手渡すと、まずは外で戦っていたレンの元へと向かった。


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