【秋葉原アンダーグラウンド】 第9章 12話
淡い緑色の光はやがてベールのように辺りを包み込む。
「くくっ、反魂を使ったな?こっちの黒焦げは生き返ってもシンは生き返らん。能力の二度打ちだ。貴様らはシンにとどめを刺したのだよ。」
「(シンさん、お願い・・・)」
緑色の光は強く濃くなっていく。輝きを増し目を開けているのもやっとのほどだった。
「いくらやっても無駄だ。貴様らごときの考えなんざ・・・」
ロンはそこまで言って動きを止めた。そして次の瞬間、首元からおびただしいほどの血が流れ出た。首筋を切られたのだった。息をすることさえままならない。ロンはその場に崩れ落ちた。
「ふーっ、間一髪ってところかな。マユちゃん、ありがとう。ロン、なぜオレが生き返ったのかわからない顔をしているな。反魂を受けると能力者なら完全に死んでしまうのは変わりない。ではなぜオレは生き返ることができたのか?それはオレは能力者ではないということに他ならない。お前との接触の前に抹消剤を打っていたのだよ。」
「ごふっ・・・貴様・・・」
ロンは話の途中から完全に倒れ込んでしまった。すると周りのコンピュータが光始めた。マリの音声が流れるスイッチが作動したのだ。シンは急いでコンピュータを操作し始める。
「・・・くそっ、間に合わない・・・」
「シンさん、私がやります!」
やるって何をとシンは思ったが、マユの姿を見て考えを改めさせられた。マユは歌っていた。それもルリの歌声を真似て。決して同じ歌声とまではいかないが、それでも本人を彷彿させる。ルリの歌声をもってすればマリの破壊を中和させることができる。そこに目をつけたのだ。忘れていた、この子は地上での歌姫だったということを。シンは急いでその歌声を録音し、機械にアップロードした。アップロードの最中マリの歌声が流れ始め気を失いかけたがなんとかマユの歌声を再生することができた。歌声を通して反魂が行われていく。
「間に合ったのか・・・」
シンは一度は座り込んだがすぐにマリのもとへ行き、繋がれていたチューブを外しそっと抱きしめた。そこにミカサが戻ってきた。
「オウ!」
黒焦げだった遺体は完全に人の姿を取り戻していた。オウは何が起こっているかわからず辺りを見回していた。ミカサは急いでオウに抱きついた。
「ミカサ・・・?目が覚めたのか?」
「そんなことどうだっていい・・・また会えてうれしい・・・」
「そうだな・・・ミカサ、ずいぶん歳をとったんだな。もうすっかり大人の女性だ。」
「うるさい・・・」
オウは呼応するかのようにミカサを抱きしめていた。そんな二人をみてマユは涙が溢れていた。シンはマリに抹消剤を打った。その後その場を仕切り直すかのようにシンが言葉を発した。
「ロンは死んだ。マリはもう能力を使えない。脅威は去った!」
「まだ喜ぶのは早いんじゃないか?アキモトの爆弾を止めないと皆アンダーグラウンドごと潰されてしまう。」
「カイ、それなら心配いらない。先ほどマユの歌声をアップロードする際に爆弾も解除しておいた。あと数分ってところだったからこちらもギリギリ間に合ったわけだ。」
「自分が死にそうになっている中よくやるな。あと残すは・・・」
「レンだ。レンは今トガと戦っている。」
「加勢に・・・いや、やめておこう。この戦いはもはや次元が違う。入り込める余地はないだろうな。」
カイの言うことはもっともだった。シンもそれに気付いていた。達人であればすぐにわかる。覇気や出力といった類のものがこの場所まで震えさせている。近づくことはおろか、立っていることさえままならない。シンは静かに言った。
「レン・・・あとは頼んだぞ。」
-----
「覚醒領域・飛燕。文字通りこれが最後の技だ。オレの全身全霊をこめて放つ。」
「覚醒領域・転生・神風。トガっさん、これで決着をつけよう。」
「もはや言葉はいらないな。最後に立っていたものが勝者だ。」
トガは身の丈ほどある炎の弓に灼熱の炎で作った矢を当てがう。その出力は黄龍の何倍をも彷彿させる。レンは手のひらに風を超圧縮した球を作り出しトガのそれを迎え撃とうとしている。
「さよならだ、レン。」
「あぁ、トガっさんこそ。」
トガの矢がついに放たれた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?