【秋葉原アンダーグラウンド】 第9章 2話
シンとワンは地下公社へと戻ってきていた。二人は傷の手当を受けた後、地上での事の顛末をモズやソウたちへと伝えていた。裏切り者のトガのことを含めて。
「お前たちが地上にいる間、ゼロサンにも手伝ってもらい地下を隈なく探したが、ロンは見つけられなかった。」
「そうか、ありがとう。地下は広いからね。私たちの知らない場所があるのかもしれない。」
「それより、トガのアニキが裏切り者だって本当なのか?」
「あぁ。これまでの経緯から考えればまず間違いない。それに、この場にいないことが何よりの証拠だ。」
モズとソウは考え込む仕草を見せる。あのトガが?信じられない?重い空気を察したのかワンが話し始める。
「今は裏切り者の話よりロンの今後の出方を考えたほうが建設的だろう。ロンは未成熟のマリちゃんを使って何かする気だ。」
「そうだね。ミライの話から察するに、ロンの野望のためにマリには大きな役割が与えられるはずだ。ルリほどではないが反魂の遺伝子は入っているからね。」
「だとすると、不死の兵隊を作るというのが濃厚な気もするが。」
「いや、それだと能力の二度打ちという禁忌を犯してしまう。だがその禁忌を回避する新薬でも開発していれば話は別だが。」
そこで話し合いは再度中断してしまった。気まずい沈黙が流れる。しかしそれは意外な形で破られた。皆の目の前にロンが現れたのだった。
「なぜお前がここに!?」
「ワン、落ち着け。どうせただの水分身だ。」
「さすがはシンといったところか?でもまぁ眠気覚ましくらいにはなったろう?」
「それで?一体何しに来た?」
シンは今にもロンに斬りかかりそうな様子だった。無理もない、娘を人質に取られているのだ。しかしロンは淡々と会話を続ける。
「ここに一本のビデオテープがある。この内容を信じるか信じないかは任せるが、信じたほうが賢明だとだけ言っておく。その上でマリを救いに来るのはシンだけにしてもらおう。」
「何勝手なこと言ってやがる!」
「待て、ワン。とりあえずビデオテープを再生してみよう。決めるのはその後だ。」
ワンは納得のいかない顔をしていたが、しぶしぶビデオテープの再生を始めた。マリの姿が映っている。拘束されてはいたがひどい怪我をしている訳ではなく、シンは心を撫で下ろした。しかしその後、人々が死んでいく様子を見てシンは動揺した。ロンに操作されてはいるものの、マリの手によって人が殺されている。シンは激昂し、側にいたロンの水分身を斬り捨てた。
「シン、気持ちはわかるがこれはマリちゃんの仕業ではない。」
「だが・・・くそっ・・・」
シンは声にならない声で返す。ロンの水分身は水へと還り床を濡らした。判断を迫られている。
「シン、これはお前を動揺させる罠だ。何も従う必要はない。」
「ありがとう、ワン。でも私は行くよ。マリだけではない、こうなった今全人類がやつの人質だ。」
「だが今のマリはいくらお前でも太刀打ちできないのではないか?」
「そうだね。今のマリはただの操り人形だ。意志がない以上切れるものも切れない。でもね、実の娘に仮想であれ刃は振るわないつもりだ。」
「どういうことだ?わざわざ死にに行くつもりか?」
「娘が待っている。理由はそれだけで十分だろう。」
シンは身支度を整え始めた。そこにどこからともなくルリがやってきた。そのすぐ後ろにはサラが立っている。ルリはシンに抱きかかると泣きべそをかき始めた。
「おとうさん・・・マリちゃんを助けてあげて・・・」
「ルリはお姉ちゃん想いの優しい妹だね。」
「シンさん、ワンさんから話は聞きました。私からもお願いです。どうか、マリにこれ以上辛い思いをさせないであげてください・・・」
「わかってる。それじゃあちょっと迎えに行ってくるよ。」
行ってきます。ただ一言、シンの大きな背中から聞こえたような気がした。
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「ロン、シンが動き出しました。一人です。」
ミカサは電気の能力でシンの動きを察知した。ロンはマリに繋がれた機械の調整をしている。
「つくづく人間思いなやつだ。」
「ロン、相手はシンだ。あまり油断しているとやられるぞ。」
「オレが死んでもマリは止められないさ。それにお前だっている。」
トガは頷き、一人別室へと移動する。それはかつて昇給試験が行われた広間を彷彿させる。トガはそこで朱雀、白虎、青龍、玄武を順番に発動させた。
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