【秋葉原アンダーグラウンド】 第9章 8話
「君は私が何をしたいか考えたことはあるかね?」
「自分にとって不都合な人間を排除し自らが王となり世界を支配する・・・違いますか?」
「なるほど、悪くない答えだ。一時期はそう思っていた。終わらない戦争、無くならない格差。人は生まれたときから人生が決められ、それに抗おうものなら非難される。なんてつまらない社会だ。」
「人生は自らの手で切り拓くものです。」
「詭弁だね。だが私も今同じように人生を、社会全体を変えようとしているのだから皮肉なものだ。だがそこに天才科学者であるシンが現れた。正直見ていて恐ろしかったよ。悪魔的な理論を次々と打ち出すのだからね。まるで神だ。」
「あなたはシンさんに嫉妬しているだけです。」
「たしかに初めは嫉妬したさ。天才は二人もいらない。だがね、やつの理論の中で面白いものを見つけた。人類補完という言葉は聞いたことはあるかね?」
「いえ、ありません・・・」
「元々サラくんを助け出すための、能力者生産とは別の計画だった。魂は肉体に宿るという仮説をもとに、先に肉体を破壊してしまい魂の還る場所を無くしてしまう。行き場を失った魂は天に召され極楽浄土へと誘う。」
「馬鹿げています。それこそ科学的発想ではない。」
「宗教くさいかね?まぁ無理もない。私も初めはそう思った。だがね、その計画をみれば理屈は全て通るのだよ。ただ一つ懸念材料はあったがね。」
レンはロンが何を言いたいのかわからなかった。一つ言えることは狂っているということだった。レンは何も言わずロンの話の続きを聞いた。
「誰が肉体を破壊するのかという問題だ。世界に核でも落としてしまえば話は早いのかもしれない。でもそれだとダメなのだよ。生きたまま殺す。これが絶対条件なのだ。」
「言っている意味がわかりません。何が違うのですか?」
「要は死んだと思わせてはいけないのだ。肉体と魂の分離はその結果起きるものとされる。そして私はついにその手段を手に入れた。」
「それがマリちゃんという訳ですね。」
「理解が早くて助かるよ。ルリからは再生を、マリからは破壊を。二人は対となる存在にまで仕上がった。マリには全人類を生きたまま破壊してもらう。それと同時にルリには魂のみ再生してもらう。それで全人類は救われるのだ。」
ゴフッ。ロンは徐に吐血した。
「はぁ、はぁ・・・時間がない。我々能力者は細胞の超活性により長くは生きられないようにできている。」
「それで、ワンさんの抹消剤が必要であると。」
「私にしか計画は遂行できないからね。多少抗っても長生きしてみせるさ。」
「残されたマリちゃんとルリちゃんはどうなるのですか?」
「先ほども言ったが破壊と再生は同時に行ってもらう。すなわち二人とも消えてなくなる訳さ。」
「ルリちゃんがそんなこと許すはずがない。」
「そうかね?父親のもとに向かうとなれば話は変わってくる気もするがね?」
そう言うとロンは別室に忍ばせておいたシンの遺体を引っ張り出した。
「シンさん!」
「まったくしぶといやつだよ。マリの攻撃をもろに食らっておいてその程度で済んでいるのだからね。」
ロンはシンの遺体をレンのほうに放り投げた。レンは慌てて駆け寄る。呼吸が浅い。脈も弱っている。早く人口心肺に繋がないと・・・レンは渾身の力をこめて能力を流し込み蘇生を試みる。
「無駄だよ。例え回復できたとしても脳が焼き切れている。後遺症はおろか娘の顔さえ思い出せないはずだ。それに君もあんまり余裕はないと思うがね。」
ロンはマリに繋がれているコンピュータを操作し出すとマリの体が眩く光始める。レンはシンの介抱に気を取られロンの指の動きを黄龍で止めることができなかった。
「マリに攻撃の意志はない。終わりだよ。」
「くっ・・・」
マリの体が最高潮に輝いた直後、突如部屋の壁が大きく破壊された。マリの輝きは徐々に失っていき、ついには光るのをやめてしまった。
「やはりここにいたのか。直線距離で向かって正解だったな。」
「トガ貴様、何をやっている!?」
「レンが殺されかけていないか心配だったものでな。まぁ生きていて何よりだ。」
「トガっさん、オレ・・・」
レンは今にも泣き出しそうだった。トガは自分のことを守ってくれた。裏切り者なんかじゃなかったんだ。しかし次の瞬間、トガからは思いもよらない言葉が返ってきた。
「弟子の謀反を正すのが師の役目だ。さてレン、覚悟はいいか?」
トガの拳には青い炎と青い龍が蠢いているのが見てとれた。
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