【秋葉原アンダーグラウンド】 第9章 7話
アンダーグラウンドに風は流れないはずなのに、その時ばかりは冷たい風が頬を撫でた気がした。レンは一瞬言葉を失ったが、再びアキモトに声をかける。
「それってどういう意味ですか・・・」
「闇に葬り去る。つまりなかったことにするということだ。いつかの備えのためにこのアンダーグラウンドを爆破できるようにしていた。」
「地下には関係のない人々がいるにもかかわらずですか・・・?」
「この研究の被験者だ。皆既に関係者なのだよ。」
「それでも・・・」
そこでレンは言葉に詰まった。アキモトは地下にいる数千の民と地上にいる数十億の人々を天秤にかけ後者を取ったのだ。普通に考えたら正しいのかもしれない。しかし・・・
「非情な選択かと思うかね?何か代替案があれば積極的に採用したいものだよ。」
「オレに・・・少し時間をくれませんか?オレと黄龍ならなんとかなるかもしれません。どちらか一方を取るなんてできません。」
「2時間だ。それ以上は待てない。」
「ありがとうございます。」
そう言うとレンは研究施設の扉を開け中へと入っていった。アキモトはうすら目で爆破タイマーを見た。タイマーは一時間を切っていた。
「すまない、レンくん。期待させるようなことを言って。だがもう手遅れなのだよ・・・」
そう言うとアキモトはそばにあった柱にもたれかかり、そのまま動かなくなってしまった。
薄暗い廊下。レンは急いではいたが慎重に部屋一つ一つを確認して回った。おそらくマリの攻撃はルリと同じで光のようなものだろう。不可避の攻撃だ。せめて攻撃の前に黄龍を放つことができればいいのだが。レンは刀に手を添えいつでも抜くことができるようにしていた。とある部屋から僅かではあったが光が漏れていた。おそらくここにロンたちはいる。レンは黄龍を抜き扉を思い切り開けた。しかしそこには誰もいなかった。
「誰も・・・いない?いや、でも僅かだけどさっきまで人のいた気配がある。それに・・・」
血の匂いもしていた。ここで一体何があったのだろう。そんなことを考えていると、廊下から足音が聞こえてきた。レンは思わず身構えた。
「ここにいたのですね。」
「君は・・・ミカサ?どうしてここに?ワンさんはどうした!?」
「ワン博士はトガと戦っています。おそらくトガの勝利で決着はついたかと思われます。」
「そんな、ワンさん・・・それに、トガっさんも・・・」
レンは刀を握り締めていた。様々な感情が入り乱れ、とりわけ悔しさが溢れ出ていたのだ。
「あなた方の負けです。もはやこれ以上の戦いは無意味です。おとなしく今後の行く末を見ていてください。」
「それでも・・・オレには守らなきゃいけないものがある・・・」
「交渉決裂ですね。一思いにここで・・・」
ミカサはレーザーのような電撃をレンに浴びせようとしたが体が動かない。一体これは・・・
「ミカサ、君がいくら強かろうがオレには勝てないよ。四神を、黄龍を放ち、君の戦おうとする意志を食らった。」
「くっ、これがタクをやった黄龍ですか・・・」
ミカサはついにはその場に座り込んでしまった。レンは何も言わずその横を通り過ぎていった。レンは奥にある部屋まで来ていた。ここが最後の部屋。レンは恐る恐る扉を開いた。中ではマリが椅子に座らされ、その横にはロンが立ち待ち構えていた。
「コングラッチュレーション、レンくん。よくぞ辿り着いた。」
「あなたがロン・・・ようやくお会いすることができましたね。」
「初めましてで早速だが死んでもらおう・・・と言いたいところだが少し話をしないか?どうせ皆死ぬのだ、私のわがままに最後くらい付き合ってもらえないだろうか?」
レンは考えた。このまま時間を潰しアキモトの言うアンダーグラウンドを沈める手助けをするのも悪くないのかもしれない。しかしやはり関係者といえど無実の者を死に追いやることはできない。
「10分だけ話を聞きます。それが終わったら黄龍を放ちます。」
「十分だ。」
レンは刀を鞘におさめそのままロンを見据えていた。
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