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経営者なんてコケたら終わり~リスクを恐れず金は借りられるだけ借りろ
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■経営者育成セミナー参加日記:~借金~
<←前回記事>
「商品を作るため、まずは材料を買っていただきますが、残念ながら、今、みなさんは無一文です。したがって、最初に銀行からお金を借りていただきます。つまり……借金です」
ざわ……ざわ……
(最初から借金だって?)
一瞬、面食らったが、冷静に考えれば驚くことではない。 起業するときにかき集めたお金が、会社の設立費や設備投資で消え、運転資金は「借金」でまかなうというのはよくあることだ。実際、自分の会社もそうだった。
かつてサラリーマンだった頃は、「借金」というものに対して、過剰な拒否反応を持っていた。金の貸し借りは避けるべきものであり、ましてや借金など論外。しかし、経営者になってみると、それは単なる資金調達の手段のひとつにすぎず、日常茶飯事のことであった。
金が尽きれば、会社は終わる。思わぬ出費を考えれば、金があるに越したことはない。むしろ、無理に借金を避けたせいで、いざというときに資金が足りず、親戚や友人に頭を下げる方がよほど惨めだ。何度かそんな経験をして、ようやく「借金は悪ではない」と理解したのだった。
周囲を見渡すと、まだざわついている。どうやら実際に経営をしている人間はほんのわずかで、大半は企業の部長、いわゆる幹部クラス。きっと彼らは、会社の研修としてただ受けさせられているだけなのだろう。
(借金の意味、重要さ、恐ろしさ……そういう実体験のない彼らに、地獄を見てきた自分が負けるわけがない……絶対に勝てる)
などと考えていたら、
「ところで、借金するといっても、このゲームには破産はないので、安心してくださいね」
突然、講師がニコニコしながら、そんなことを言い出した。
ええ!? そうなの!?
「もちろん、現実の経営では破産が存在しますが、このゲームでそれを認めると、資金が尽きた人は残り時間を何もせず、他の人のプレイをただ眺めるだけになってしまいます。それでは、セミナーの意味がありません。そこでこのゲームでは、毎年、銀行から追加で借金ができる仕組みになっています。もちろん、赤字はどんどん積み重なっていきますが……」
なるほど。もし午前中で破産したら、午後はただの見学になってしまう。だから「破産はなし」のルールにしたわけか。まあ、それは理解できる。
しかし、甘い話だけではなかった。
「とはいえ、これでは現実の経営と比べてヌルすぎるので、このゲームの借金の金利は……、このような数字とさせていただきました」
ぐぐううううっっ!!
な、なんだこの金利は!? 暴利だろ、これ!?
「どんな赤字会社でも、毎年、借金ができるのですから、この金利は非常にリーズナブル、……良心的金利となっております」
ざわ……ざわ……
詭弁だ。この金利の数字は、ようするにプレッシャー。 「他人の足を引っ張ってでも利益を出せ。出さなければ、借金地獄の底なし沼に飲み込まれるぞ」という明確な脅し。
おそらく講師が一番恐れているのは、参加者全員がたいした損も得もせず、動きのないままゲームが終わってしまうことだ。しかし、これだけの高金利なら、誰もが必死になって利益を出そうとするだろう。他者を蹴落としてでも、黒字を目指さざるを得ない。
(このゲーム、勝ち組と負け組が、はっきりと分かれることになる……!)
そんな直感が走った。
「では、銀行からいくら借りるか、ひとりひとり申告してください」
講師の指示で、時計回りに参加者が順番に借入額を申告していく。
まだゲームの全貌はわからない。借金すれば、その分、利息が重くのしかかる。参加者たちは慎重に考え、限度額の10%~30%程度の無難な金額を提示していく。
そうだよな。最初からいきなり大金を借りて、もし失敗したら、多額の負債を抱えることになる。とくに、このゲームの金利は異常なほど高い。足りなければ後で追加で借りればいいのだから、最初は様子見が賢明……。ここは、みんなと同じような金額で……。
そう考えていたところ、僕の隣の席の、一癖も二癖もありそうなおっさんがこう宣言した。
「限度まで」
ざわ……ざわ……
うぅ……!!
いきなりルール上の限度額いっぱいの借金を宣言。
こいつ……もしかしてリピーター(ゲーム経験者)か……!?
だが、待てよ。こいつの判断は正しいかもしれない。
このゲームは「材料を買い、加工して、商品を作って売る」というシンプルな仕組みだが、最大の問題は競争相手がいることだ。まだ詳細は明かされていないが、おそらくは、設備投資をして他社より有利な状況を作り出し、競争に勝っていかなければならないのだろう。
だが、そのためには資金が必要。
そして、それは多ければ多いほどいい。
そうさ、現実の経営だってそうじゃないか。
「借金はしない方がいい」「借金は少ない方がいい」――そんなのは当然の話だ。だが、それは経営者の考え方ではない。
経営者にとって、金は寿命……戦場で言うところの実弾だ。それが尽きれば、何も打つ手がなくなる。
だから、むしろ逆の発想が必要……、つまり――
借りられるだけ借りろ、だ。
どうせ、経営者なんてコケたらそれで終わり。1000万借りて破産するも、3000万借りて破産するも同じこと。
危なかった……もう少しで見誤るところだった。
私は講師に向かって、こう宣言した。
「飲茶です……限度まで」
(続く)