世にも奇妙な実話 野坪の蠅 #2
落ち武者が引き合わせてくれた出会い
2009年の春だった。
どういうわけか、水曜になると必ず具合が悪くなる。熱はないが気力がない。体は重く、だるい。寝込むまでは行かないが、家に閉じこもる日が続いた。
何かおかしい。
職場の同僚に話すと生霊話が持ち上がった。霊感とは無縁の人生だったが、なかなか良くならないので病院ではなく、霊能者と呼ばれる人を紹介してもらい同僚と一緒に隣町まで会いに行った。
「ここに、落ち武者がおる。祖先は、武士だったな」
元僧侶で霊能者の壱芯は、初対面で落ち武者の話を始める不思議な人だった。
体の不調は落ち武者からのメッセージ。『やっとで伝えられる』と泣きながら訴えているという。意外すぎて拍子抜けした。武士が後ろに憑いているなんて、現実味がない。霊能者の力を知らないわたしは、落ち武者の話をほとんど信じていなかった。
「あんたの後ろの人は、戦で体中に矢が刺さって、死にきれなくて、自分で矢を首に刺して死んだんじゃ。潔いだろ」
壱芯が首に矢を刺す仕草をした。目が合う。やはり、実感が湧かない。
「信じていないじゃろ。胡散臭い。おじさん、何をしゃべっている、って顔をしている」
「いいえ、めっそうもない」
普段から顔に出るタイプで嘘は下手だ。心とはさかさまの言葉を返した。
「あんたの首の後ろにはホクロがふたつある。敵の矢が刺さった後だ」
疑い深い顔をしていたわたしに向かって、今度は自分の首元を触り、堂々と宣言をした。
それでもわたしは疑っていた。髪を束ね首の後ろを露わにし、隣に座る同僚に見せた。
同僚の口元が緩む。信じられないというように、ゆっくりと頭を降ろした。
首の横を手で探って確認した。ぼこっとした物体が、指の皮膚感覚に伝わる。指でなぞった。ふたつある。
「体中にあるホクロは、矢が刺さった後じゃ。背中にも刺さった。それが原因で、あんたの足は動かなくなっておる。戦で殺した人たちの恨みじゃ」
恨み……。 体が一瞬こわばった。
医師からは原因不明だと告げられた。突然、歩行困難になって七年。いろんなことを諦めたが、再び歩く希望だけは持ち続けていた。
「うじうじするな、って後ろの人が言っているぞ。歩けなくても胸を張って生きるんじゃ」
体調不調を生霊だと思い込み、除霊を求めて動いた日。
いま思えば、祖先の落ち武者が、霊能者の壱芯を引き寄せてくれたかも。
「――これからは、わしをおじさんと呼びなさい。あんたとはまた会うから」
初めて会った日、帰り際に指定された。以来、親戚でもない人に向かい、あだなのように「おじさん」と、呼ぶようになった。
不思議なことに壱芯と会ってから、水曜に起きる体の不調は消えていた。
***
つづく
『世にも奇妙な実話 野坪の蠅 #3』予告
因縁が残る土地、幽霊が出るアパート、除霊、心霊写真
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