卒展、出発を待つ君と
2022年10月18日、卒展初日。朝3時に目が覚めた。
午後は長女が受付で来場者の対応をしているというので
ゆっくり行こうと思っていた。
早朝の慌ただしさから解放された頃
心ここに在らず、
コーヒーを飲む時間も惜しく、
家事も手につかず、
これはいくしかないと身支度をした。
車を走らせながら、
涙が止まらない。
初めての感情だった。
マスクだし、キャップだし、会話もしないし
広い会場だし、泣き顔を見られることもないだろう。
渋滞もなく、10時過ぎには駐車場に着いてしまった。
岐阜県美術館の周辺は
緑に囲まれた静かな場所。
秋色になった紅葉樹を探しながら
会場に入って行った。
受付の生徒さんに声をかけて、
芳名帳に名前を書かせてもらった。
会場で泣いてしまいそうだと話したら、
どうぞ入って見てくださいと微笑んでくれた。
今年の展示は40名。
作品と自画像を出品している。
制作中は3者懇談の時にアトリエで7月に見たきりで
完成した作品を初めて見た。
会場のどこに展示されているか知らずに
ゆっくり歩いて作品と自画像を眺めた。
今回のエントランスは日本画なんだね、
この油画は白梅賞候補だろうか。
作品の人物はまるで作者自身のよう。
彫刻専攻の3人の自画像が並べられていた。
彼らのまっすぐな眼差しに囲まれ、
あまりの美しさに立ち止まった。
描いた作品から音楽も聴こえるような
美しい世界観と風が見えるような油画は彼女だ
これはプレ卒で描いた作品とリンクしてる
春にミドリバシで出展してくれた彼女だ
縛られた彫刻は映像も得意な彼だ
ロープを留める杭と床の間に無造作に裂かれた新聞
生徒会で校則を変えた時の新聞記事
自分達で未来は変えられるということを考えさせられる
金属の航空機の羽がついた女の子の像はあの彼だ
切り揃えられた後髪と長い首
感情がないように見えても温かさを感じる
ここが出発点なのだと地に足をつけ
いつか飛び立つためにゆっくり静かに呼吸をしているよう
その先に見えたのは長女の作品
見つけた、ようやく会えた
涙が溢れてしまって会場に入っても見ないようにしていた
でももう目の前にある
ゆっくり近づいて見上げてみた
タイトルは「瞬きの空」
この4年間たくさんの空の写真を撮っていた
空を見上げてシャッターを切る
同じ景色は2度とない
そのうち心に響くものはもっと少ない
170を超える蝶が美しい羽を広げ
光に向かって舞うように
それぞれの姿で、自分の思う姿で
高く遠く飛んでいくような
彼女らしい優しく美しく強い作品
隣に飾られたダークブラウンの額の自画像は
正面を見ている、口元には強い意志を感じる
成長を嬉しく思った
そして出発の日が近づいてきているのを知り
嗚咽を抑えるのに必死で
涙が止まらなくなってしまった
泣き崩れないように
涙が少し収まるのを待って
キャップを深めに被り直して
来場者に紛れて帰ろうと思った
写真に撮って残したいけれど
画像に収まりきらない
カメラを通すとなぜか目視の色と違う
作品を直接見て受け取る情報が
いかに多いことか思い知らされた
この卒展で、
出発点を見ることができて、
私はとても幸せだった。
これまでの長女との歩みを思い出した。
言葉にならない想いが溢れ、
涙が止まらなかった。