Toll The Bell ①
先日開催されたレコード・ストア・デイ2022では、毎年恒例となった感のあるデヴィッド・ボウイのニューリリースがふたつあった。
特に自分が注目していたのは、昨年リリースされた90年代ボックスの特別編的な『Brilliant Adventure EP』で、アルバム『アウトサイド』(1995年)期の初出レア音源が4曲収録されている。
(もうひとつは前出ボックスでオフィシャル初登場、今年1月に拡張版として単独リリースされた2001年の未発表作『TOY』の関連音源を収録した『TOY E.P.』。)
ここに収められた "I'm Afraid Of Americans"の初期ヴァージョンや、荘厳かつ、静かに燃え上がる炎のようなパフォーマンスのライヴ・テイク2曲、どれも聴きものだが、そのなかから今回は "I Have Not Been To Oxford Town"のオルタネーティヴ・シングル・ミックスを取り上げてみたい。
アルバム『アウトサイド』収録曲で、当初"Toll The Bell"の仮題が付けられていたというこのナンバー、個人的にはかつての”ゴールデン・イヤーズ”や”フェイム”に劣らないグルーヴを持つ、90年代ボウイ最高曲のひとつだと思っている。
今回初登場となるシングル・ミックスは、ボウイのサックスやギター等が追加され、この楽曲の持つキャッチ―さを前面に押し出した仕上がりになっている。
その結果アルバム・ヴァージョンにあるグルーヴ、特にカルロス・アロマーのリズム・ギターがバッサリ削ぎ落されているのが大いに不満なのだが、終盤のボウイのヴォーカル・パートや一部歌いまわしが明らかにアルバム・ヴァージョンと異なっていたり、同ヴァージョンにはなかったフレーズも聞かれる(コーラス 3の直後)など新たな発見もある。
海外の考察サイト、"Pushing Ahead Of The Dame" や『アウトサイド』2004年リマスターCDのライナー等によれば、この曲は同作の追加録音が行われた1995年1月(~2月)のニューヨーク、ヒット・ファクトリー録音で、イーノとカルロス・アロマー、前衛ジャズ・ドラマーのジョーイ・バロンの3人でリズム・トラックが作られたという。
しかし、『アウトサイド』にはニューヨーク録音の記載はなく、前年1994年3月~11月まで録音が行われたスイスのマウンテン・スタジオのみが録音場所としてクレジットされている。
今回のRSD発売を伝えるオフィシャルのプレスリリースやEPのクレジットでもその点については変わりなく、楽曲パーソネルもスイスの録音メンバー5人+前出のアロマーとバロン、そのアロマーからの連絡を受けてレコーディングに参加したイスラエルのベーシスト、ヨッシ・ファインとなっているが、ここにスターリング・キャンベル(ドラム)とアーダル・キジルケイ(ベース)も名を連ねているということは、この曲のバッキングトラックにも前年の”レオン”・セッションからの素材がカット&ペーストされているということなのだろうか。
といろいろと書いてしまったが、そのバッキングの音に注意深く耳を傾けたり、意表を突かれる冒頭部や強調されたベースラインといったダブの手法はワールドミュージックやレゲエ等のジャンルで活動するヨッシ・ファインの起用も影響しているのか? などとあれこれ想像しながら聴くのも楽しい。
ミックスとアディショナル・トリートメント(サウンド面の追加処理のことだろうか)を担当したのはアルバムの共同プロデューサーでもあるデヴィッド・リチャーズ。それらのアシストとしてボウイの名もクレジットされているが、やはりこの曲は当時シングル・リリースすべきだったと思う。
(参考文献)
・『アウトサイド』(ソニー/2004年リマスター) 国内盤CDライナーノーツ
・Pushing Ahead Of The Dame https://bowiesongs.wordpress.com/2013/04/22/i-have-not-been-to- oxford-town/
・HAARETZ Yossi Fine 2016年1月11日のインタビュー記事https://www.haaretz.com/israel-news/culture/my-week-in-the-recording-studio-with-bowie-1.5389178
(2022年4月29日)
一部記述をリライト、加筆いたしました。
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