The Stars (Are Out Tonight)
キース・リチャーズ(㊗78才)と同じく、本日が誕生日のブラッド・ピット(こちらは58才)は以前から好きなハリウッド俳優だが、近年映画プロデューサーとしても活躍する彼の演技は年々、円熟味を増していると思う。
個人的には、『セヴン』(1995年/ボウイも同年曲”ハーツ・フィルシー・レッスン”を提供)などのデヴィッド・フィンチャー監督とタッグを組んだ作品が特に好きだが、近作では2019年に相次いで日本公開された『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(クエンティン・タランティーノ監督)と制作者としても名を連ねる『アド・アストラ』(ジェームズ・グレイ監督)の演技が素晴らしかった。
その後者『アド・アストラ』のプロモーションで来日したブラピは公の場でいまの憧れはデヴィッド・ボウイだと明かし、日本のボウイ・ファンを嬉しがらせてくれたのも記憶に新しい。
「デヴィッド・ボウイはすべてを受け入れて、優雅に去った気がする。そういう彼に憧れているし、僕もそんなふうになりたいよ」
(Movie Walker Press 2019年9月21日記事より)
また、以前にはこんは発言も残しているようだ。
ボウイが2004年に行ったニューヨーク公演は、6月4日Jones Beach でのショー1度きりなので、上段ツイートでは正確な日時は断定できないが、6月のライヴだとすれば、ブラピもボウイ最後のニューヨーク単独コンサートを目撃した一人だということになる。また、今回拙文タイトルに引用した『ザ・ネクスト・デイ』(2013年)収録曲で自身の名が歌い込まれたことも彼にとって最高の栄誉だったはず。
そして、映画『アド・アストラ』についてだが、鑑賞時真っ先に思い浮かんだのが、ボウイ言うところの「精神的な探求」(クロスビート 2002年7月号など)という言葉で、物語の設定などからある意味非常に「ボウイ的」な作品だと自分は感じた。
ブラピ演じる宇宙飛行士のロイ・マクブライド少佐(これはやはり”スペース・オディティ”に登場するキャラクター、トム少佐のオマージュだと思う)が同じ宇宙飛行士で事故死したはずの父の元へと向かうなか、その過程で自身のパーソナルな内面を見つめ直す…というストーリーは、映画『地獄の黙示録』(1979年)の原案としても名高いジョセフ・コンラッドの小説『闇の奥』をベースにしているようだが、この映画の舞台となっている”宇宙”とは、かつてボウイが自身の孤独や疎外感を表現する際、また他者との客観的な距離を保つために幾度と用いてきた”スペース(宇宙)”とも共通する。
(これはまったくの余談だが、イギー・ポップも1993年曲 ”ワイルド・アメリカ”で『闇の奥』からインスパイアされたフレーズを書いており、『アド・アストラ』では"Search & Destroy"という台詞もあって、つい反応してしまう。)
そんな”トム少佐”と『闇の奥』の合わせ技といった趣もある『アド・アストラ』だが、16年前に地球から消息を絶った父に対する怒りを抱えながらも、その感情を抑え込むことで以降の人生を生きてきたロイは、当時受けた心の傷とその痛みから他者との関係がうまく築けず、妻とも離婚していた。
そしてアメリカ宇宙軍から父が生存している可能性を知らされたロイは、最終的にその父と対峙すべく海王星へと向かうことになるのだが、地球から離れ、宇宙の奥深くへ突き進むほど(火星では隠された父の秘密を知ることになる)ロイは自身の内面とも向き合わざるを得なくなる。
そして、その宇宙での孤独な旅と父との決別を通して、ロイはあるひとつの真理に突き当たる。長い孤独のなかで、それまで拒んでいた他者と触れ合いを求める感情が芽生え始めたロイは、その他者との関係性に苦しむ最大の要因は父ではなく、(演じたブラピも話しているように)自身にあったことに気付いていく。
つまり、この『アド・アストラ』という作品は、壮大なスケールの宇宙を舞台とした極めてパーソナルな一人の男の自己探求の物語であり、過去に(人間関係で)何度も失敗を犯してきた主人公がもう一度、人生を生き直そうとする物語でもある。
ここに自分は、大きな孤独や不安を抱えながら、音楽を通してそれらを克服しようと究極の自己探求を繰り広げてきたボウイを連想してしまったのだが、次に引用するボウイ2003年の発言をご覧いただくと、彼の楽曲とこの映画が共通のテーマを扱っていることに気付いていただけると思う。
「自分の書く題材について調べるようになって、突き詰めるとそれは主に孤独とある種の精神的な探求、他者とのコミュニケーションを手探りすること。結局それ、40年間書いてきたテーマはそれなんだよ。」
(東洋経済新報社刊・『想像思考:起業とイノベーションを成功させる方法はミュージシャンに学べ』より)
だから、当時プライベート面で様々な局面を迎えていたというブラピにとっても、この作品は「自分自身を探す旅のように思えた」(シネマ・トゥデイ 2019年9月17日)のだろうし、SFモノとはいえ、こうした内省的な作品をとりわけ商業的成果が求められるハリウッドで制作・実現させるところにブラピの映画人としての志があると思う。
今後もプロデュース業はもちろんのこと、伊坂幸太郎の小説を映画化した『Bullet Train(原題)』出演や公開を控えた『ザ・ロストシティ』が伝えられている映画俳優、ブラッド・ピットのさらなる活躍に期待したい。