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怒りをこめてふり返れ(ライヴ篇)

デヴィッド・ボウイの "Look Back In Anger"(1979年曲) のステージ初披露は、発表から4年後の1983年だった。

そのシリアス・ムーンライト・ツアーでの演奏は当時の大ヒット・アルバム『レッツ・ダンス』のサウンドに合わせたホーン編曲がなされていたが、ラ・ラ・ラ・ヒューマン・ステップスとのダンス作品用にリメイクされた1988年の新ヴァージョンを挟み、ボウイが次にこの曲を取り上げたのが、彼がシーン前線に本格復帰した1995年のアウトサイド・ツアーである。

同ツアーでのこの曲は、1979年オリジナルと1988年リメイク版の両ヴァージョンを組み合わせたアレンジが特徴だが、この90年代仕様にアップデートされた"Look Back In Anger" が個人的には一番好きだ。

特筆したいのが、1988年ヴァージョンの導入部を踏襲したイントロ・パートで、"怒り"や”刹那”といった楽曲タイトルの持つイメージを見事に音像化したこの冒頭部は最高に素晴らしい。
また、ここでは翌1996年の同ツアー後半には不参加だった本家本元、カルロス・アロマーのリズム・ギター・ソロが聴けるのも最高である。
同年6月の来日公演でこの曲が演奏された時、アロマー不在の大きさを痛感したのも懐かしい思い出だ。

さらにイントロについてもう少し触れると、このパートは先述したように1988年ヴァージョンが基になっているのだが、F/Eの繰り返し(×4)から、高揚感のあるC/Gへと移行するコード進行は、『アウトサイド』(1995年)表題曲のそれと同じ。

ここに以前書いた1988年ヴァージョンからの連続性があって、そのリワーク版の前半/後半部を流用したのが、翌年のティン・マシーン1stツアーで演奏された"Now"で、その"Now"中間部のヴォーカル・パートの歌詞を書き変え、ボウイが自身のソロ曲として再利用したのが、"アウトサイド"(作曲はボウイとケヴィン・アームストロングの共作)というわけである。

自分がこれに気付いたのは、以前このツアーのライヴ音源をチェックしていた際、両曲イントロのギター・カッティングがほぼ同じだったからなのだが、ボウイがリーヴス・ガブレルスとの初コラボ作を90年代のソロ曲へと発展させているのは興味深い。

この1995年のライヴ・ヴァージョンについては、昨年ようやく『Ouvrez Le Chien (Live Dallas 95)』(※見出し画像)と『No Trendy Réchauffé  (Live Birmingham 95)』のふたつのライヴ作品が公式リリースされ、特に前者収録テイクは気迫・熱量がこもっていて凄くいい(このヴァージョンではアウトロのパートが付いている)のだが、個人的には当時BBCでラジオ放送された11月17日のロンドン、ウェンブリー・アリーナでのテイクをベスト中のベストと断言したい。
USツアーを経たバンドのアンサンブルも最高で、イントロからメンバーが一丸となって迫ってくる演奏、切迫感のあるボウイのヴォーカル、ともに素晴らしく、名演だと思う。

1996年に終了した同ツアーの翌年、早くも開始された1997年のアースリング・ツアーでもこの曲は同じアレンジで演奏されているが、なかでも(動画サイトでオーディエンス・ショットが見れる)8月12日のロンドンの演奏では、冒頭で”死の使い”と化すボウイのヴォーカルをはじめ、なかなか凶暴なインダストリアル・ヴァージョンに進化していてこれも好きだ。ワウを駆使したガブレルスのギター・ソロも決まっている。

その後、2002年のヒーザン・ツアーでもこの曲はセットリストに加えられるが、この時のボウイはヴォーカルのキーを下げており、楽曲もそれに合わせてアレンジ(前述のイントロ付で移調。手掛けたのはマーク・プラティ?)されている。当時55歳のボウイは原曲キーで歌うことが厳しくなっていたのだろう、結果的にこの曲がライヴ演奏されるのはこれが最後となってしまった。

そして、『★』(2016年)でバックを務めたサックス奏者のダニー・マッキャスリンがボウイ死去後、自身が率いるグループでこの曲を取り上げている。彼のサックスが主旋律を奏でるインスト・ナンバーとしてプレイされることが多く、マーク・ジュリアナ(ドラムス)をはじめとする『★』参加メンバーが帯同した2017年の来日公演でも披露されたようだ。

仮にもし、『★』のライヴが実現していたなら、ボウイとマッキャスリンのツイン・サックスでこの曲を披露してくれたのでは…と想像してしまうが、動画サイトでいくつか上がっている演奏を聴くと、やはり『★』に斬新なリズム感覚をもたらしていたマーク・ジュリアナのドラミングがこのジャズ・ヴァージョンのサウンド・イメージを支配しているといってもいい。

それはきっと、この曲の持つ新たな可能性を示唆するものでもあるはずだ。

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