豚の角煮とラフテーと
沖縄赴任シリーズ第三弾。
実は、個人的には一番面白い記事が書けそうだと思っていたエピソード。
ただし、難点は写真がほぼ無いこと(笑)
そう、宮古島赴任も落ちついてくると。
新しい事に慣れるのに必死で、写真を残すということすらしていなかったのです。ですから、ほぼ写真無しの期間が多いのです。
そんなこんなで、ビジュアルに乏しい回です。
ご了承ください。
さて、皆さんは沖縄のラフテーはお好きでしょうか。
私は大好きです。
「沖縄料理店に行くと、ラフテー頼みます!」という人も多そうです。
だって、定番料理でしょ。そんな声も聞こえて来そうです。
私も、そういう認識でいたのですが、宮古島赴任でそれは間違いであることに気がつきました。どうぞ、今回も宮古島の思い出にお付き合いください。
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この日も、例によって例の通り。
突然、オバア宅に呼び出されました。
「はい、ゆきさん。今日は私のお家でお祝いがあります。お祝いのお料理を作りましたので。さたてんぷらを取りにいらっしゃい」
そう、取りにいらっしゃいということはお料理教室無しです。
"さたてんぷら"耳慣れない名前だと思いますが。
何てこと無い、沖縄本島で言う所のサーターアンダーギーの事です。
何度か、同じ様な電話を貰い。オバアのさたてんぷらを貰いましたが。
これが、本当に美味しいのです。市販の物が霞むくらい。
「赴任が終了するまでに、このレシピを聞き出す!」
これが目標になったほどです。
宮古島では、こんな感じでサーターアンダーギーを売っています。
ほら、さたてんぷらって書いて有りますよね。ミツ=黒糖味です。
オバアのさたてんぷらの話題は、また別の回にするとして。
今回は、さたてんぷらを貰いに行った時に食べた「ラフテー」の
お話をいたしましょう。
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その日、オバアのお宅にお邪魔すると
「一口ですが、お祝いのお料理をあげましょうね」
小鉢にチンマリと乗せられたラフテーをいただいたのでした。
宮古島では、何かのお祝いの時にさたてんぷらを作ります。
他にも、お祝い料理といえばラフテーです。
プルルンとした層と、濃厚なお肉の味が口の中でとろけていく。
上等なラフテーはそんな食感です。
「今日のさたてんぷらは、うまく出来ましたよ。ほら、綺麗に割れているでしょう。ゆきさんは知らないと思いますが、こうやってまん丸ではなくパックリと割れると運が開けると言いましてね。ここまで割れないとダメなのです。これは、腕の見せ所ですね」
毎回聞く、お料理うんちくも蓄積してどんどん地元民化してきました。
もう少ししたら、孫のところにお料理を持っていくというので頂き物を手に早々に退散しました。
帰り道。
赴任してからというもの、沖縄料理を教わっているのでお調子者の私は沖縄料理は作れる!と思っていました。実際に、ランチなどで立ち寄ったお店の味を、家で再現して悦に入っていた時期だったりします。
ですから、先ほど食べた絶品ラフテーも作れるのではないだろうか。そんな幻想を抱き、スーパーに寄り道しました。
ラフテーの味を思い出しつつ。精肉コーナーで、三枚肉(豚ばら肉)の塊を買って帰りました。今夜は、美味しいラフテーをたらふく食べるのだ!頭の中で、妄想しつつ帰宅しました。
私の料理知識では、肉を煮る時は1度湯通しして。
水と酒と砂糖で煮て、柔らかくなったら醤油を入れる。
まあ、薬味は工夫次第。
その知識を元に、沖縄っぽい味付けにすればラフテーが出来ると思っていたのです。所が、数時間掛け作って見た所「豚の角煮」が完成したのです。
もう、大爆笑。どうしたら、あの味になるのか。
数日してから、オバアに電話で聞いて見ました。
「ゆきさん、貴女はなにを妙ちくりんな食べ物を作ってますか。
仕方無いのでラフテーをおしえてあげましょうね。
また明日にはお祝いがありますから、作ってもいいですよ。
本当は、大したお祝いでは無いですから、作らないつもりでしたが
作りましょうか。午後2時半に家にくるといいさー」
楽しそうな笑い声と共に、お料理教室開始の鐘が鳴りました。
翌日、14時半きっちりにオバアの家に上がり込むと・・・。
そこには、宮古島に来たときに見てどん引きした肉がありました。
そう、精肉売り場で存在感を放っていた肉。
なぜか皮が付いていて、処理が悪いのか豚の毛がチラホラ付いているあの肉が、どーんとシンクの上に置かれていました。
うわぁあああああ、何てことでしょう。
隣りには、黒糖となぜか泡盛の一升瓶に、醤油。
濁った黄色っぽい液体は、香りからして鰹だしでしょうか。
「ではお料理しますからね、メモを取ってくださいね。ラフテーの調理はまだ、貴女には任せられませんので」
「どういうことですか」
「それは、鏡面を作るのが貴女では難しいからですよ」
頭の中に「?」が飛びまくったのはいうまでもありません。
オバア曰く、ラフテーは仕上がった時。
お肉の上の面が傷1つなく鏡のように艶やかに光るのが上等だそう。
お祝いだから、絶対に傷のある仕上がり面ではいけないのだとか。
「あとね、ゆきさん。貴女、皮なしを使いましたね。
ラフテーは皮付きでないとダメです、艶々の鏡面は皮が無いと出ないからです。毛が残っているのは乱暴に毛を取ると傷が付くので、作る人が処理するからです」
ああ、なるほど。だから皮付きで、毛が残っている状態なのか。
「へええええ、そうなんですね。知らなかったです」
「ナイチャーにはわからないね」
オバアは満足げに笑うのです。
「皮に付いている毛はですね、取り方は人それぞれですが。
カミソリで剃ってしまうか、バーナーで焼き切るかです」
「ば・・・バーナー」
ポカーンとする私に、これさぁーとハンディータイプのバーナーを見せるオバア。意外と、沖縄料理はワイルドみたいです。
皮目を焦がさない様に、距離を調整しつつ。
オバアは、バーナーに火を付けてザーザーと撫でる様に毛を焼いていきます。野獣くさい匂いに、ウッとなりますが・・・そこは我慢我慢。
チリチリになった毛を、今度は水を溜めたタライに入れて丁寧に洗って落とします。手で撫でて、まだチクチクが残っている部分は丁寧にカミソリで剃ってしまうとか。
確かに・・・これは私では絶対に出来ない作業です。
「いいですか、お肉は丁寧に洗うんですよ」
「あの、お肉って生でお水で洗って良いんですか」
「何を言うんですか、固まりの豚肉は擦り洗いしないとダメです」
常識がガラガラと音を立てて崩れていきます。
オバアが丁寧に肉を洗い始めて10分15分くらい経ったでしょうか。
「では、これで良いでしょう」
空の鍋に水から引き上げた肉をポーンと入れ、上から普通の水をドバドバと入れ蓋をして火をつけるのを見て「えっ・・・」思わず声が漏れました。
「あの、水からなんですか」
「水からに決まってるサー」
「えっと、母には水から煮ると旨味が全部煮汁に出てしまうからダメだと教わったのですが。水・・・ですか」
「水から、基本」
そう言って、水から茹でること1時間。
「そろそろ良いでしょう」
火を止めると、鍋に蓋をしてダイニングテーブルの下。
新聞紙の束の上にドンと乗せました。
そして、奥に置いて有る鍋をずるずると引っ張り出すと変わりにコンロの上に乗せて蓋をあけて「続きをおこないましょうね」と笑うのです。
中には、先ほど煮ていた肉と同じサイズの肉が入っていました。
「肉は、茹でた後、煮汁に入れて冷やすのです。冷えていく間に、旨味が肉に戻って行きますから。完全に冷えるまで、肉を取りだしてはいけませんよ」
「あの、この汁はどうするのですか」
「これは、別の容器で保管しますね。上に固まっている白い物は豚肉の脂ですから、これはザルに乗せて水を切ります」
「汁は、容器に保存。脂はザルで水切り。ってこれは、使わないのですか」
「ラフテー用には、これはつかわないさね。汁は、鰹だしと合わせて塩を入れて”そば”の汁にして。脂は、冷蔵庫で保存して炒め物用のラードとして使うさ」
「ほえぇえええ、沖縄そばの汁ってそんな感じだったんですか」
「はい、ゆきさん。そのくらい知らないで、良く宮古で暮らしてましたね」
「だって、そば汁はスーパーで袋で買って来ますもん」
オバアは楽しそうに笑い飛ばしました。
「ラードは炒め物に使うと、コクが出ますよ」
「炒め物と・・・」
メモを取る私を見て、頷く。
「はい、では煮ていきましょうね。新しい鍋に、砂糖、泡盛・・・」
というと、一升瓶の泡盛を豪快にひっくり返して回し入れます。
「ま、待ってください!!どれだけ入れるんですか」
「煮汁は、泡盛だけでもいいくらいですよというのは、冗談ですが。私は、一升瓶の1/3くらいは使いますよ。残りは鰹だしを入れてコトコト煮ていきます。ゆっくりじっくり煮て、完全に肉に火が通ってきたら醤油で仕上げていきますよ。醤油も香りが飛びますからね、仕上げの醤油と2回に分けて入れますよ」
「どのくらい煮込むのですか、砂糖の分量は?醤油はどのくらい?」
矢継ぎ早に聞く私に、オバアお得意の「だっからよぉ~」が飛び出しました。
オバアの「だっからよぉ~」は、そんなの分からないさ自分で考えなさい。と言う意味です。主婦のお料理は、感覚で作っているので味付けは分量で表せないと言う事のようです。
「これで、後は延々焦がさない様に煮るだけですから。待つ必要はないですよ。これで、お料理教室おしまい。あとは、仕上げのコツは火を止めてから1度冷ますこと。食べる時にもう一度温める。こうすることで、肉を下ゆでした時と同じで、旨味と味が染みますからね」
鍋の下を覗いて、火加減を調節すると。
ついでに、シンクの下から真っ黒い物体が入ったビニール袋が取り出されました。また謎の物体が発生です。
「これ、差し上げましょうね。今年のは、来月作りますので貴女も良ければ来なさいね、ご近所皆さんで作りますので貴女も入れてさしあげます」
手渡されると、ズッシリと重くヒンヤリとした感触が手に伝わってくる。
香りもふわんっと届き「あ、お味噌」と思わず口に出しました。
そう言えば、オバアのお宅でいただくお味噌汁。
こんな色してましたっけ、赤だしみたいだけど、香りも風味も全く別だったので謎に思っていたのです。
「自分で作られていたのですね」
「この辺りは、昔から味噌は地域でまとめて作るのです。まとめて作るので、何㌧と作りますよ」
また、新しい食材を入手してしまいました。
それにしても・・・。
豚の角煮とラフテーと一緒にしたらそりゃダメな訳です。
手の掛かり方が、段違いですから。
沖縄料理は奥が深い、また1つ新しいレシピを仕入れた私でした。
#料理はたのしい