森を伐る
◆地球が燃えている
地球の未来が心配である。それも、ごく近未来が。
今年、痛感した。往診で外に出ると、そばで焚火でもしているかのようだった。相棒の盲導犬・エヴァンは少し歩くと、呼吸が速くなる。
この事態に手をこまねいているわけにはいかない。思いついたのが、温暖化に対する森の効用をテーマに、小説を書くことだった。主役は都内の動物酒場で働くタヌキのタヌエ。猛暑の東京から、涼しい四国の森にUターンを決行する。客のサルタ(猿)、イノダ(猪)、シカヤ(鹿)も一族を引き連れ同行する。
◆命を絶たれる自然林
彼らは森で夏は涼しく、冬暖かく過ごしました、という結論にしたかった。しかし、それでは面白くない。それに、サルエより5年ほど前にUターンした私からみれば、田舎はもう楽園ではなくなっていた。
私がモデルに考えていた生地の森の端には、道路が抜かれていた。多くの自然林が伐採されていたのである。中には樹齢何百年というのもあったはずだ。幾世紀にもわたる営みに、一瞬にして終止符が打たれてしまった。もちろん、若木や幼木は豊かな自然を担う、限りない可能性を秘めていたはずだ。
◆放置される杉林
目の悪い私にも、森の様子は容易に想像できた。もうひとつ、確認したいことがあった。それは、森を伐るのとは正反対、人工林を放置するとどうなるかということだった。
妻の運転で近くの森林地帯に出かける。
「真っ暗になったけど、まわりは何?」
訊くと、妻が答える。
「これ、杉林よ」
密集して植林された杉が枝を張り、地面に太陽の光が届いていないのである。
◆「緑化計画」の残したもの
戦後、広葉樹を伐採して、杉が日本全国の山野に植林された。杉材は日本再生の期待の星とされたが、外材の輸入により価格は暴落、林業人口の減少でほとんど放置状態となった。広大な杉林は荒れ放題となり、保水力を失って地下水は枯渇、大量に雨が降れば大洪水を引き起こし、杉が流木となって災害を増幅させる。毎年、繰り返される惨状だ。
私が中学にあがる前だったか、村中総出で、杉の苗を山奥や山の頂上付近まで運んだ。1本植えるといくらと国の補助金が出ていたらしい。村人はこぞって、およそ人が寄りつけないような場所にも杉を植えた。
やがて、成木となった杉は花粉を飛ばし始める。ある時、帰省すると、周囲の山に煙がたなびいていた。初めて見る光景だった。義兄に訊いてみた。
「あの煙みたいなのは何?」
「あれは杉花粉じゃ。山をあんな風にしてしもうた」
今から40年近く前の話である。
◆温暖化に挑む動物たち
小説は先に出した『過疎化バスターズ』の続編で、題名を『温暖化バスターズ』とした。桃太郎伝説の三銃士、犬・猿・雉が今日的課題に挑むシリーズである。キジのジキータがタヌエの勤める店に飲みに行っていたことが、話の糸口となる。なんとかハッピーエンドにはしたが、東京の神宮の森を再開発すると聞き、暗澹たる気分になってしまった。バスターズなら、どう対応するだろうか。乞う、一読 ↓(下記、サツはサルの間違いです。近く訂正されます)
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