栗澤順一『本屋、地元に生きる』KADOKAWA
本が売れないといって久しい。本を読まなくなった。そのうえ、電子書籍が増えているから、紙の本を読んでいる人は、さらに少なくなっていることだろ。
そうすると、ネット書店もあり、本屋は厳しくなってくる。東京でも、今後、賃貸契約が切れるときに、消えていく店舗があると予想されているが、地方の本屋の場合は、さらに苦しく廃業してしまう。
ところが、岩手県盛岡市は「読書のまち」であり、市内に27店もの書店があり、売り場面積が広い店も多いので、本好きにはたまらない街であるそうだ。
本書は盛岡市に本店がある「さわや書店」の現役書店員による著作である。地域経済の中で、本屋の存続のため、どのような活動をしているかしるしたものである。
さわや書店は、盛岡市を中心に数店舗をチェーン展開している老舗書店である。しかも、全国的にも知られた名物書店員が集まって、次々にユニークな企画を打ち出している。著者もその一人である。
初代名物店長と言われた伊藤清彦さんは、入社時、文庫の担当であった。文庫の老舗といえる新潮文庫を全点揃えることにこだわらず、ちくま文庫や講談社学術文庫を増やすなど、構成比を変えて売上を伸ばし、「伊藤マジック」と騒がれた。
入社、翌年に店長になると、ダイナミックに商品構成や配置を見直し、平台なども最大限、活用した。時間帯によって店頭の雑誌平台を入れ替えて、朝と夕方では別の店のように見せるやり方を導入した。
さまざまなフェアをやり、そうした際にPOPをうまく活用した。さらに、地元のラジオやテレビに出演したり、タウン誌に書評を書いた。松久淳、田中渉『天国の本屋』(かまくら春秋社)や、鎌田實『がんばらない』(集英社)などは、1千部以上の売上につながった。
前日の売上スリップをすべてチェックし、ノートに書き写した。ノートを担当者ごとに振り分けて、注文に関する指示を出していた。伊藤さんは、退社後、一関市立図書館副館長になったが、2020年6月、急性の心臓病で、65歳という年齢で亡くられた。
田口幹人さんは、郷土書の棚を店の入口近くに移し、店のバランスを捨てた。松本大介さんは、外山滋比古『思考の整理学』(ちくま文庫)に、「もっと若い時に読んでいれば‥‥‥そう思わずにはいられませんでした」という手書きPOPで、ブレイクのきっかけをつくった。また、長江貴士さんは、表紙をオリジナルの手書きカバーで覆ってしまい、書名をわからなくして販売する文庫Xを企画した。
物産展やモノづくり販売会をやるなど挑戦し続けたが、2019年春に、田口さん、松本さん、長江さんの3人が辞めた。効率化が求められ、新刊を中心としたシンプルな店づくりを求められた。
著者は、お客さま、地域との関係性が重要だという。ネット書店で購入できる本をわざわざ注文してくれるお客さまの存在がありがたいという。贈答用の図書カードの定期注文も大事な売上だという。
ついつい買ってしまうというパターンをいかに増やすかは書店員個人のスキルにかかってくるという。自分の引き出しにはないものを見つけたときにこそ、おっという喜びを感じる。そのためには、自分の経験を積み上げていく、大げさに言えば書店員ひとりひとりの生き方が問われているのではないかと言う。
さわや書店は挑戦をやめたわけではない。減塩で健康に良い『いわて健民』という醤油を売り、健康書や料理書のフェアも開催した。創業70周年記念で“裂き織り”手法のオリジナルブックカバーを販売した。
それでも経営が厳しいのが現実である。本書には触れられていないが、取次店からのプレッシャーも強いと思う。懐が広い会長さんがいるからこそ、いろいろなことが、まだできてはいる。
1日1店舗が消えていくと言うほど書店経営は厳しい。本書を読んでもらうとともに、本屋で本を買うことによって、地元の本屋を応援しよう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?