見出し画像

【節分の思い出】

今年の節分は暦の関係で2月2日だそうだ。
毎年この日に思い出す「節分の思い出」、不肖の父を偲んで、今年もここに置かせてください。


【私小説】『鬼は〜外!』

……舞台は昭和40年代の田舎町の小さな商店。

母と幼い兄妹が、町のよろず屋として食品や雑貨を販売して生計を立てていた。

家長であるその家の父はそこにはいない。賭け事に明け暮れ、たまに帰ってきたと思えば、店の売り上げや子供たちのお年玉貯金にまで手をつける始末。そしてまたしばらく家を空け、都合が悪くなると帰ってきて大声をあげる。

賭け事だけに留まらず、他の悪事にも手を染め、警察のお世話になったことも数多い。町でも噂の的だった。兄妹を見る近所の目も、同情と蔑みが半々なのは子供ごころにも理解していた。あの父親さえいなければ…。
殺意さえ覚えた。

今日は『節分』、どの家庭でも豆をまき「無病息災」「家内安全」を願う。子供たちも近所のお寺の豆まきを楽しみにしていた。

その夜、あの父親がまた現れた。よりによってこんな日に…黙って家の玄関に立つその男。

兄妹は誰に言われたのでもなく、コタツの上にあった大豆を手にして、その鬼に豆を投げつけた!

「鬼は外!💢」

男は黙ったまま立っている。

「鬼は外!鬼は外!鬼は外〜!鬼は出ていけぇ〜‼️」

兄妹は喉が枯れんばかりの声を振り絞って、その鬼に豆を投げ続けた!

鬼は外💢
鬼は外💢💢
鬼は外💢💢💢‼️

母はその光景に目を伏せて黙っていた。
その家の節分に『福は内』の掛け声は無い。

男は何も言わず、そっとなにやら手土産を置いて出ていく。ようやく「鬼は外」に消えていった。

兄妹の育った小さな商店は、時代の流れにも乗り、地域でも有数のスーパーマーケットチェーンに成長していた。

✔︎あれから30年、家族3人がその男に再会したのは、終末医療施設の個室、旅立ち間近の人が最期を迎えるための部屋。そこにはもうあの家族を苦しめた「鬼」の表情は無かった🙏🏻

鬼「悪かったな🙏🏻」

……それからまもなく鬼は魔界に消えた。

今日も日本中の家庭で、子供たちの声が聞こえる。

「鬼は外!、福は〜内!」


#今はそのネタで稼がせてもらっています合掌笑


いいなと思ったら応援しよう!