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創作小説『こうして店は消えていく』 (4/4)

会社の資金繰りが不安だった社長は、銀行への対応を顧問税理士と話し合った。

👤「社長、まずは銀行の元本返済を止めてもらいましょう。これ(リスケ)を頼むにはしっかりした『経営改善計画』が必要です。策定に金が掛かるけど補助金も出る。経営が回復したらまた少しずつ返済を再開すればいいんだから!」

借り入れの大きい「スーパーとまと」は月々の返済が減れば資金繰りは相当楽になる。「そんな簡単にいくのか?」不安に満ちた社長も藁にもすがる思いで『経営改善計画』策定に取りかかった。

全取引銀行が保証協会に集まってもらい(バンクミーティング)、返済猶予(リスケ)を認めてもらうには、県の「再生支援協議会」を通じて申し込む必要がある。そこで『経営改善計画』を認めてもらうのだ。


🚙社長と顧問税理士は沢山の資料を抱えてその協議会に向かった。

そこにはかつて融資を断られた地銀の元支店長、別の信用金庫で付き合いのあった若手行員、顔見知りの商工会議所のOBらが顔を揃えていた。

「えっ、銀行のリスケを取り付ける窓口に、銀行から出向しているってどんな組織なんだ?」社長はこのシステムを不思議に思った。

以前、取引先からの嫌がらせを地元にバレないように東京の「下請け110番」に相談した時も、「中小企業駆け込み寺」と称するこの組織の職員に転送されたことを思い出した(出来レースか…)。

協議会で回を重ねること数回、保証協会の会議室でいわゆるバンクミーティングが開催された。社長は着慣れない背広を着て、税理士とともに下座に着席した。「俺も行くから!」と息子の専務も同席した。

出席者は関係者10名ほどで、ここでのやり取りは信用不安にも繋がる恐れがあるため、すべて非公開で行われる(はずである)。経営改善の内容、期間、返済再開の見込み等、銀行のヒアリングとは比べものにもならない厳しいレベルである。時折返答の言葉に詰まる社長を見て、専務の緊張も頂点に達していた。

……(中 略)……

約1時間後、その会は社長の願いが叶い「全金融機関のリスケ承認」の結論に至り、書面にその旨が記された。

息子「良かったね!これで生き延びた。せっかく時間をもらったんだから、性根を据えて頑張るよ。やっばりスゲぇよ、おやじ!」
息子の目も潤んでいた。

👤「金の苦労はしたくねぇな…」社長も同じだった。息子はリスケの条件として「連帯保証人」に名を連ねた。

その2年後、資金繰りが改善されたスーパーとまとは、息子の専務が「移動販売や御用聞き、買い物代行」などのアイデアを成功させて着実に成長し、厳しいながらも銀行への返済も再開することができた。


👤その年の瀬、お正月商戦の直前、長年店を支えてきた社長が急逝した。

経営危機からのストレスに加え、増えた酒量とやめられなかった煙草が原因かは分からないが、脳梗塞で倒れ意識を失くし、そのまま一週間後、懸命の治療の甲斐もなく旅立ってしまった。

店の復活と息子の商人としての成長を見届けることができなかった無念さを考えると心が痛む。70代前半の早過ぎる死は、多数の参列者の涙を誘った。

葬儀は家族の意思で葬儀場ではなく店頭の駐車場にその祭壇を設けた。弔問には息子も知らないたくさんの友人やお客さんたちが訪れた。金融機関や同業者、昔の従業員の姿もあった。「立派なおやじさんだったな!」みんなが息子に声を掛ける。

👤「最後まで商人を貫いた父親を誇らしく思います!」深々と頭を下げる二代目。そして「これじゃおやじは浮かばれない…」と悔しさを飲み込んだ。


📝後日、息子は父の遺言めいたメモを母親から渡された。

✅もし俺が死んだら、
・生命保険ですべての借金を返すこと
・担保の不動産は銀行にすべて内入れして、返済に充てること
・お前は連帯保証人から外れて、自分のやりたい仕事に就いて欲しい
・お母さんのことはよろしく頼む

先代社長は銀行から「経費削減のためにやめろ」と言われていた自分の生命保険だけは、頑なに払い続けていたのだった。

✅とき隣町に巨大なショッピングモールの建設計画があることを報道で知った。

2代目社長(息子)は父の遺言通り店を閉めることにした。店舗跡地はコンビニに貸し、2階にはそのまま家族が住めるようにしてもらった。妻はそのコンビニでアルバイト、少ししたら自分(息子)も外に働きに出ようと思っている。とてもコンビニでは働けない(^^;

気丈な妻は「今までは人間の暮らしじゃなかった、お父さんの死は殉職よ!」とつぶやいた後、「もう毎日お金の心配をしなくて済むだけで幸せだわ」と微笑んだ。

こうして田舎の商店は、惜しまれつつもその長い歴史に幕を下ろした。

「あれっ、スーパーとまとがコンビニになってるぞ!」
「どっちにしたって潰れてただろ?ハハハ」

街の声などそんなもの、きっとこれでよかったんだ。

……『こうして店は消えていく』 終わり。


すべてフィクションである。ハッピーエンドでなくて申し訳ない。商人とはそういうものです。

お付き合いありがとうございました🙏🏻



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