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【連載】かなめ珈琲②バーベキューに誘われるタイプのひきこもり

南砺市・井波にひっそりと暮らす、1人のうつ病患者がいる。私の夫、かなめくんだ。

彼はシングルマザーだった私と結婚し、家事と育児をしながら「かなめ珈琲」という屋号で小さな珈琲屋をやっている。

彼が何故うつになり、何故珈琲屋をやっているのか、妻の私の目線から書いていこうと思う。

第一話はこちら

■バーベキューに誘われるタイプの引きこもり

かなめくんは友だちが多い。

私はずっと、「鬱でひきこもり経験者」は友だちが少ないという、勝手な偏見があった。

彼は地元の幼なじみや大学時代の友人と今でもつながっており、
家から一歩も出られなかったひきこもり全盛期にさえ、幼なじみからバーベキューに呼ばれていたらしい。
参加できるか、できないかは別として。

“ひきこもり”と“バーベキュー”

かけ離れているようだけど、かなめくんの中にはひきこもりの“陰”もバーベキューの“陽”も両方存在する。

人との関わりが少なかったからひきこもりになる、とか、友だちがいないから鬱になるとか、そんな単純な図式では決してない。

そんな事すら、私は彼と出会うまで知らなかった。

高校時代、かなめくんはやばすぎるくらい高圧的な監督の元、キャプテンとして野球部をひっぱっていた。

「1番大変な練習は部員集めだった」と遠い目をして語る彼の青春は、生き急ぎと自己犠牲にまみれていた。

キャプテン就任時の野球部員は7人。

試合に出るには2人足りないので、学校中の野球経験者に声をかけ、レフトとライトをバスケ部とテニス部から調達したそうだ。

その後、1年生が入部してくれたため、なんとか高校最後の試合に出場できた。

あっちこっちに声をかけて集めた3年生と、ほやほやの1年生を使ってどう試合を成り立たせるかを、エースで四番でキャプテンを謳歌するかなめくんは、脳みそ振り絞って考えていたそうだ。

結果、夏の試合時のメンバーは18人。ベンチは埋まり、キャプテンとしてやりきった彼は、仲間たちとともに青春の1ページを描ききったのだった。

……なんてことはない。大変すぎるでしょ。監督何やっとんねん!!

もし、かなめくんが野球が大好きで、やりたくてキャプテンをやり、
「なんだか、じっとして居られなくて!!」と、試合に出たくてメンバーを集めていたならば、
このエピソードはウォーターボーイズ顔負けの青春キラキラエピソードとして誇れるだろう。

圧倒的大前提として、かなめくんは野球をするのが好きではない。

高校の野球部なんて軍隊だ。理不尽な監督の元、理不尽なしごきを受けていた。

好きではない野球をやり続け、何故かセンスはあるのでエースで四番をやらされ、責任感だけでメンバーを集めた彼は、熱中症で倒れた時「練習サボれる…!」と歓喜するレベルで社畜みを帯びていた。

高校生なのに社畜。まさに生き急ぎだ。

そんな日々を過ごしていた最中、ある日ふと、彼は青空を見つめてこんな事を思ったそうだ。

「このまま毎日毎日我慢して、勉強して野球して、高校も大学もいつか卒業できるから終わりはやってくる。
でも社会人になったら、定年まで終わりはやって来なくね?

……無理じゃね??」

その時に感じた“果ての無さ”に対する不安感は、社会人となった時に見事的中してしまう。


社会人1年目、彼は鬱病を発症し、その後数年のひきこもりを経験する。

が、こんなに生き急いだ高校時代の頑張りを見てくれていたある人が、鬱によるひきこもり時代に転機となる出会いをもたらしてくれるのだ。

バーベキューに誘われるタイプのひきこもりは、このような青春時代を過ごして爆誕した。

彼の周りにはいつも友だちがいて、仲間がいた。

やるべき事をがんばっていたし、教師からしたら他の生徒のお手本的な存在だったのだろうと、簡単に想像できる。

ちなみには私は、全くひきこもっていないにも関わらず、最近までバーベキューに誘われた事は無かった。

バーベキュー文化の強い富山県で、バーベキューに誘いたいと思われないという事は、私は集団行動の中で社交的ではないということだ。

そして私の友人は似たようなタイプなので、誰もバーベキューをやりたいと思わない。

バーベキューは私にはほど遠い、きらきらパリピ行事だった。

そんな私も職場で、「春になったら歓迎会兼ねて、バーベキューをやろ☆」と声をかけられた。ついに!である。

ひきこもりのかなめくんが、ひきこもりながら誘われまくったバーベキューを、私は30代半ばにして、初めて誘われたのだ。

つまり彼と同じ位の社交性を、この年にしてようやく手に入れたということになる。

生き急ぎならぬ、生きノロいにも、ほどがあるなあと思う。

つづく

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