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生きのびるために、事務
坂口恭平の「生きのびるための事務」を読んだ。
坂口恭平、知れば知るほど面白いのだけど、あまりの変人ぶり+「バズって売れてて羨ましい!」と思ってしまって、著書を読んだり深く知ろうとすることを避けていた。
それでもバズっているから、彼の情報は入ってくる。自分の電話番号を公開して、誰でも電話をかけてオッケー!な「いのっちの電話」というシステムは、本当に本当に素晴らしい。
彼は画家や執筆など、色んな事をしていて、その様々な「やっていること」の中に私が惹かれてしまういくつかのコトがある。だから、目を反らしたくても反らせないのだと思う。
「生きのびるための事務」だって、販売される前から存在は知っていた。絶対に面白いんだよなあ…と思いつつ数カ月寝かせ、最近ようやく重い腰をあげて、ページをめくった。ポロポロ泣いてしまった。さっさと読めば良かった。卑屈になっていてごめんなさい。
ここでいう「生きのびるための」とは、「競合他社の中でわが社が生きのびるためには」とか、「難しい局面をどう切り抜けようか」とか、ビジネスライクなたとえ話の「生きのびる」ではない。
自分が死なないため、という意味合いの、ガチな言葉通りの、「生きのびる」だということを、ハッと気付かされた。
人は簡単に打ちのめされ、簡単に死んでしまう。芸術家は特に。
居場所がないからだ。東京にはギリギリ、居場所っぽい何かはあるのかもしれない。でも、地方にはない。まじで無い。
居場所のなさ、寄る辺なさ、世間とのギャップから、芸術家は作品を生み出すのかもしれない。
アウトローな自分に酔わないと、怒り続けていないと、一人である寂しさに打ちのめされてしまうから。
そして地方の、数少ない芸術家たちが集い、どんどん排他的になっていくあの感じが、私は辛い。
他人を寄せ付けず、仲間たちか東京しか信用していない。でも、それは寂しいと思う。
さみしさを起点とした作品は、何故かさみしくなるし、ね。
そして、さみしくなればなるほど、死にたくなりませんか?居場所をつくるには、事務が必要なのです。
「生きのびるための事務」、美大生に読んでほしい。
いつか一人でどうにかしなきゃいけなくなる日がくる。そこには芸術仲間はいない。
芸術仲間はいなくても、こちらが心を開けば、自分の出来ることを協力してくれる人はいるよ、と、私は知っている。
2024年6月に、「旅鳥たちの芸術祭」という小さな芸術祭を開催した。
山の中の廃校になった小学校にアーティストの作品を展示し、「目のみえない白鳥さん、アートを見にいく」という映画の自主上映会も同時に行った。
私が思い描く芸術祭をするために、会場を探すところからはじめ、アーティストにアポを取り、チラシをつくり、映画の版元に問い合わせ、、、
事務、事務、事務
事務の連続だった。
自分やりたい事、こんな芸術祭がベストだという状態に、ひとつひとつ近づけていくための、①想像②計画③段取り④交渉こそが、「生きのびるための事務」だった。
芸術家は①想像は最高にできる。
だから、残りの②③④を堂々とやるだけだ。そのためには、芸術家以外の他人を信用しないといけない。
会場として使用させていただいた旧小羽小学校を管理されているHさんは、超アクティブな方だった。
私だけでなく他の沢山の人からの連絡に即レスし、即アポでつながり、つながった人をさらに別の人へつなげ…と、事務の荒波の中で生きていた。
Hさんには旧小羽小学校をどのような場所にしたいかという、明確なビジョンがあった。
そのための事務に、私がのっかる事ができ、一緒に事務をした。
一緒に事務をしたからといって、Hさんは普段美術館に行くわけでも作品をつくるわけでもない。と、いう意味では、Hさんは芸術仲間ではない。
Hさんは事務仲間だ。いや、事務先輩、事務師匠…。そのくらい、Hさんがいないとマジで何にもできなかった。
この経験から私が学んだのは、「事務で人はつながれる」ということ。事務をしっかりしていけば、尊敬すべき事務仲間に沢山出会える。どんな奇人変人でもさみしくならない。つまり、極論死なずに済む。
死なないために、
「生きのびるための事務」
読んでみてはいかがでしょうか。私はほっとしたよ。
美大生の皆さま。奇しくも卒業シーズンですね。
そ自分にだけ都合の良い居場所は存在しない。家族や親戚が助けてくれるわけでも、美大やギャラリーが守ってくれるわけでもない。
愛はすべてを解決しない、お金があれば、少しはどうにかなるのかもしれない。
それでも、あなたのつくる芸術作品が、誰かのよりどころになるかもしれない。芸術が無い世界などあり得ない。
だから作り続けるべきだ。マイペースでも、休んでも良いから。
事務さえしっかりしてれば、どうにか、なるように、なるよ。
大学では少しも教えてくれない、生きのびるための事務を、下手っぴなとこから少しずつやっていく。それが、大人になるという事なのかもしれない。