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呪いごと愛してくれる人。ソフィーの白い髪。


最近、週末の度にジブリをみている。
子どもの頃からジブリオタクで、ナウシカもラピュタも擦りきれるほど見てきたのだけど、唯一あんまりピンときていなかった作品があった。


それは、ハウルの動く城。


駿さんにしては荒削りなような気がして、ストーリーも初見では何がどうなったのかよくわからず、そのくせに世界観は他の作品とも劣らず美しく、なのにしっかり(何故か)面白くて、どう言ったら良いのかよくわからない作品だった。


久しぶりに見返したのだけど、数年前に見た時にはわからなかったことが、ストンと腑に落ちた。


世の中には二種類の人間がいる。ソフィーみたいな人と、そうでない人だ。 


長女であるという責任感から亡き父の残した帽子屋を継ぎ、来る日も来る日も針を持つ日々。

継母は華やかな人で、妹も美人。彼女らと比べてしまって自分の容姿に自信がなく、仕事で華やかな帽子を作っているのに、自ら身につけるのは地味な帽子。まるでおばあちゃんが被っていそうなものだ。


ソフィーの心は、荒れ地の魔女に呪いをかけられる前から老け込んでいた。きっと、荒れ地の魔女の呪いは心の年齢が姿形に現れるというものなのだろう。


おばあちゃんの姿になってからのほうが、どこかホッとしているようなソフィー。

若い女性でいることで、誰かと比べられたり品定めされる目線がどれほど辛いか。おばあちゃんになってしまえば、周囲もおばあちゃんとしてしか見ない。解放感がソフィーのくすぶっていた何かを呼び起こしたように思う。


ソフィーはハウルの城に乗り込んでからも、以前とは別人のようにシャキシャキ動き回る。誰からも頼まれていないのに勝手に掃除婦として働きはじめ、ゴミ屋敷だった城は、徐々に住み良く整えられていく。



世の中には二種類の人間がいる。ハウルみたいな人と、そうでない人だ。


城に帰ってきたハウルの姿は、ハードワークをこなしズタボロになった会社員のようだ。自我を殺し、与えられた役割をこなし、報酬を得る日々。


ハウルは料理はできるが、整理整頓までは気が回らないらしい。

生きていくためにいくつもの名前を持ち、誰よりも臆病なのに魔力を持っているがために気乗りしない戦争に駆り出されている。

魔法の風呂で疲れを癒し、まじないで髪を金髪に染め上げて、自分を美しく保つことでなんとか自我を保っている。

寝室は魔除けグッズで溢れ、壁も床も見えない。生きていくのに必死すぎて、部屋を整えている場合ではないのだ。


ソフィーが風呂の棚をいじくって、魔法が狂い髪が変な色に染まってしまった時、「美しくなければ生きている意味がない!」と鬱モードに突入する。

そんなハウルにコンプレックスを刺激されたソフィーは、「私なんか美しかったことなんて一度もない!」と、ぶちギレて号泣する。


本人たちから見たら修羅場だけど、傍からみたら大したことが起きている訳では無い。ハウルの髪がどんな色だろうが充分イケメンだし、ソフィーだってちゃんとしっかりかわいい。


だけど、こういう事ってあるな、と思う。
世の中は世知辛すぎるから、傷つかないために自分で自分に呪いをかけないといけない。美しくいようとすることも、長女という役割を生きようとすることも、自分はブサイクだと思い込むことも。

その呪いは、こんがらがっていて誰にも解けない。カルシファーにも、荒れ地の魔女にも。



世の中には2種類の人間がいる。

自分の中の呪いに気づいてしまった人と、永遠に気づかないままの人。


ソフィーとハウルの出会いは、お互いの呪いに気づくきっかけだったのだろう。「ソフィーは綺麗だよ」と、ハウルはソフィーの目を見て伝え、「ハウルは臆病がいいの!」とソフィーは言ってのける。

その一言で簡単に呪いが解けたら良いのだけど、この物語はおとぎ話ではないのでそうはいかない。

エンディングでも、ソフィーの髪は白いままなのだ。だけど、彼女は今まで着なかったようなクリームイエローのワンピースに、かわいい帽子を被っている。ヤングケアラー的だったマルクルも、無邪気にわんこと戯れている。


この世はおとぎ話ではないから、愛する者のキスが全てを解決するわけではない。碌でもない戦争は終わらせようとしないけど終わらないし、きっと呪いは一生解けない。


呪いは誰の中にもある。気づくか気づかないかだ。
呪いは解けないけれど、ほぐされ薄まっていくことはあるだろう。呪いごと受け入れてくれる人がいたなら。呪いごと、誰かの事を愛せるならば。


ラピュタみたいに愛する人と冒険したり、耳をすませばみたいに愛する人に追いつくために努力したり、テーマやストーリーの起承転結を追っているわけではなくて、

ハウルは愛そのものをそのまま見せつける、みたいな抽象的で難解な事を、ファンタジーに乗っけているんじゃないかなと気付いた秋。


次はぽんぽこが見たい。ぽんぽこを見て、マックを食べたい。

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