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『古事記』に隠された音の魔法──「こをろこをろ」の神秘

『古事記』には、音で世界を形作る力が秘められています。その象徴が「こをろこをろ」。これは、イザナギ・イザナミの二柱の神が天の沼矛(ぬぼこ)で海をかき混ぜたときに発生した音であり、その滴り落ちたしずくが積もって オノゴロ島 が誕生するという壮大な神話が描かれています。

しかし、この「こをろこをろ」は単なる擬音語ではありません。
この言葉には 古代日本人が音に込めた神聖な力、すなわち“言霊(ことだま)”の概念 が宿っているのです。



🌊 「こをろこをろ」は何を意味するのか?

「こをろこをろ」とは、海水がかき混ぜられながら固まっていく音を表したオノマトペ(擬音語)です。
音の形態的には、清音の畳語(くり返しのある言葉)であり、以下のような性質を持つと考えられます。

☑︎清音:「澄んでいて、おだやかな音」
☑︎畳語:「連続する、勢いが加わっていく」

つまり、「こをろこをろ」とは、単なる水の音ではなく、秩序が生まれ、形が整っていく過程 を象徴する音なのです。これは、オノゴロ島の誕生という物語と深くリンクしています。

さらに、『古事記』では、後の時代の天皇を讃える儀式歌にも「水こをろこをろ」という表現が登場します。
これは 天皇の神聖性を強調し、人々を神話の世界へと誘う役割 を果たしていると考えられています。


📜 『古事記』の英訳と「こをろこをろ」の解釈

この「こをろこをろ」という表現は、英訳の際にもさまざまな解釈がなされています。

🔹 B.H. チェンバレン(1882年):「curdle-curdle(凝固する音)」
🔹 D.L. フィリッパイ(1968年):「churning-churning(かき混ぜる音)」
🔹 G. ヘルト(2014年):「sloshed and swished(バシャバシャ、シューシュー)」

訳者によって表現が異なり、音の持つ意味やニュアンスが変わるのが興味深い点です。
チェンバレンは「液体が固まっていく」イメージ、フィリッパイは「激しくかき混ぜる」イメージ、ヘルトは「水しぶきや流れ」のイメージを強調しています。


🏝 オノゴロ島=天皇の神聖なルーツ?

オノゴロ島とは、単なる神話の舞台ではなく、「天皇の統治する国が誕生した神聖な場所」 としての役割を持っています。

📖 天皇即位の儀式で「こをろこをろ」が登場する理由
『古事記』の中には、「水こをろこをろ」と表現された歌があり、これは天皇の権威を讃える祝詞として使われました。
これは、単なる擬音ではなく、天皇の神聖性を保証する神話的な音 であると考えられています。

つまり、オノゴロ島の誕生の音=天皇の権威の象徴という構造になっているのです。


🌟 古代の人々が信じた「音の力」

現代の私たちにとって、オノマトペは何気なく使う表現ですが、古代人にとっては 音が持つ力(言霊) によって 現実が動かされるもの でした。

📢 音が「世界を創る」力を持っているとしたら?
「こをろこをろ」の音が国土を生み出し、
「水こをろこをろ」の音が天皇の権威を高めるように、
言葉にはただの記号以上の “創造の力” が宿っているのかもしれません。

あなたの名前の音にも、まだ眠る力があるかもしれません──✨

この投稿は、「古事記の中のオノマトペ」(高橋憲子)という論文をまとめたものです。


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