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自分を酔わせるもの

高校時代、プロレスより凄いものは存在しないと信じていた。小遣いはすべて観戦チケットやグッズ、書籍に捧げ、大阪府立体育会館に毎月のように通った。3年生で進路を決めるときも、週刊プロレスの記者になるため立命館大学のマスコミ学科を志望。まともに勉強したのは入試前の3ヶ月間だけ。最後の追い込みでなんとか最終模試で合格まちがいなしのラインに来た。

いよいよ受験を明日に控えた前夜、事件は起こった。緊張で寝れず、深夜1時にテレビをつけると、アメリカンフットボールの頂点を決める第36回Super Bowlが飛び込んできた。米国のプロリーグNFLの上位2チームがぶつかるOne Night Carnival。アメフトは初見だったが、観客と実況の異常な興奮によって見入ってしまった。

フットボールはサッカーと同じく、11人でコートの端までボールを運ぶゲーム。接触が反則のサッカーと違い、守備側はボールを持っている攻撃陣に襲いかかる。守備のトップ選手の突進は1トントラックを止めるより難しく、タックルを喰らうたびに攻撃選手は交通事故に遭遇する。

プロの平均選手寿命はたったの3年。引退後は全選手の30%が脳震盪の後遺症に悩まされ、アルツハイマーや認知症と闘う。

なぜ?栄光が欲しければ他にいくらでも道はあるはずだ。なのに楕円形のボールを巡って戦士たちは侵略に向かう。洗練されたルールの戦争。相手の未来を奪い合う処刑遊戯は受験生を飲み込んだ。

そのとき古代ローマのコロッセオで剣奴と猛獣の殺し合いになぜ民衆が熱狂したかを理解した。「俺はプロレスの奴隷になる」と公言していた18歳にとってあまりに残酷な一目惚れだった。大学は合格したが、記者になる夢は諦め、今ではSuper Bowlを1年のメインイベントに生きている。

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