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正月の山:倉岳山&高畑山

「すごいスピードだね。箱根のランナーみたいだ」
そう声をかけられたのは令和最初の正月を迎えた2020年1月3日、フレッシュグリーンの躍動に感化されて向かった倉岳山。

毎年、山初めは谷川岳だったが、令和になってから中央沿線の山に変わった。その最初の登山が令和二年だった。

車を持たない自分が電車で行ける山を探すとき、重宝する2冊が『一日の山 中央線私の山旅』と『日本百低山』

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駅から直接アプローチできる山として、山梨の倉岳山と高畑山が載っていた。横山厚夫さんは倉岳山に、小林泰彦さんは高畑山に想いを寄せる。1.5キロほどしか離れていないが、2人の岳人が違う山を推すのが面白い。

正月三が日の最終日、高尾から鳥沢駅に向かう中央線はガランとしている。人口が増え続ける東京で、都会の孤独も年々増していくだろう。

夜明け前の6時30分、田舎の朝は早く、車も動き近所を散歩する人もチラホラ見かける。夜明け前、シルエットに浮かんだ倉岳山を眺め、小篠を歩く。30分ほどで貯水池へ。ここから本格的な登山道に入る。

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詩人の尾崎喜八さんが単独行の楽しさを再確認されたのが、このオシノ沢の峠道。尾崎さんは、『雲と草原』のなかで「君の歌に合わせて歌う鳥が何羽いるだろうか」と単独行の優美を称えた。

つづら折りになった急登を登っていると年配の登山者を追い越す。冒頭のセリフはそのときに言われたものだ。

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まずは標高981mの高畑山に登頂。横山厚夫さんによると、正式には高畑倉山。今はどの標識や山地図でも正確な山名は幻となっている。

初富士が眼前に迫る迫力と神々しさ。日本の正月を際立たせる。新年の縁起物として山を拝む文化は日本独特ではないだろうか。そのまま穴路峠を歩き、倉岳山を目指す。

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40分ほどで倉岳山へ。ここでも正月富士と対面。登山道がくっきり見える富士山なんて初めてだ。

尾崎喜八さんは「さあ、これで倉嶽山は僕のものになった。今後、他人のような気がしたりすることはないだろう」と一つの山を味わい尽くしている。スピード登山に心を奪われている間は、本当に山と対話できない。


ひっそりと生えている松の木が新年を祝う門松のよう。この時、来年はどこの山から富士を見ているのか想像がつかなかった。

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全く別のクライマーになっているのか、まったく変わっていない可能性もある。その答えは令和三年、ひとつ分かっていることは、きっとまた中央沿線の山を旅していることだ。

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