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好きな季節

新宿のなか卯のお姉さんが「ひとの肌には季節があるよ」と教えてくれた。彼女の診断によると、ぼくの肌は『冬』らしい。

これまで友人からは「夏休みの少年みたいだね、年中」と言われることが多く、少し奥を覗いてくれた気がした。

「お兄さんはクリアで鮮やかな服が似合うよ。スカイブルーとかスノーホワイトとか。あとはピュアレッドもね」

冬がいちばん好きになったのは、雪山の魅惑にとり憑かれた8年前。仕事を手伝うことになった登山家の影響だ。夏の山も登ったことがないのに、長野に住むベテランのクライマーに連れて行ってもらい、2月の赤城山に登ったのが運の尽き。

雪漕ぎでヘトヘトになったのに翌月には八ヶ岳を縦走。あと一歩で崖に真っ逆さまになり「二度と来るか!」と叫んだ。

それでも次の冬がくるとまたら雪山に向かい、いつの間にかワクワク感が支配してしまった。晴天の日は炊き立てのコシヒカリのように雪が踊り、曇天の日は雪舟の水墨画のような世界が手招きする。恐怖は最高潮に達するのにそれを求めてブーメランのように帰ってくる。

この8年間で何かを得たのか、それとも何かを失ったのか。

東京では少し気構えが要る緊張する赤いウェアが勝負服。白粉で化粧した山にいる自分は弱さも情けなさも晒す。都会と違って本当の自分に出逢える気がする。

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