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歴史という名の劇薬

よくミステリー系のドラマで「真実を知りたい」というセリフを聞く。だが、真実を知るというのは相応の覚悟が必要な行為だ。なぜなら、真実は時に人を傷つけることになる。
それを正面から扱った小説がある。城平京氏の『名探偵に薔薇を』である。ネタバレ回避のため、あまり踏み込んで書けないのだが、主人公の瀬川みゆきは探偵としての才能に恵まれた女性である。一見、冷徹な彼女だが、古くから付き合いがある三橋は、彼女の不安定さを見抜いていた。彼女はある事件によって「真実がもたらす衝撃」にさらされ、ひどく傷ついているのだ。彼女が探偵として事件の真相を暴くのは、事件関係者を傷つけることになる場合もある。そして、それは自分の古傷を抉る行為でもある。

これと同じことが、歴史にも言える。ミステリーで扱われる殺人事件に限らず、あらゆる事件は不確定性を持ち、真実は常に曖昧なものだが、証拠や証言で揺るぎない事実が積み重なっていった結果、現れた不動の事実は真実と見なしていいだろう。これは過去の歴史上の事件になり、さらに古くなればなるほど真実はより不鮮明になっていくが、ある程度事実を認定できれば「限りなく真実に近いビジョン」は見えるはずだ。しかし、そのビジョンは現在を生きる我々にとって都合のいいものばかりとは限らない。
実例を見よう。その昔、東北地方などで50〜60万年前に遡る旧石器時代の遺物が発見され、話題となった。ところが、毎日新聞が、調査に参加した一人の研究者が「仕込み」を行っていることをスクープした。この事件により、日本人の起源などについて大幅な見直しを迫られる事態となったが、まず前提として日本が極東の島国であることを思い出す必要がある。言葉は悪いが「吹きだまり」だ。おそらく、日本人の祖先は沖縄、朝鮮半島、サハリンを経由して日本列島に到達したと考えられるが、どのルートを通っても、日本列島では大陸より後に文明が発達するはずである。これは現生人類の起源が東アフリカであることから見ても明らかである。ちなみに北京原人が約50万年前とされているので、上記の観点に立つと北京原人より日本の歴史が遡るのは不自然である(大陸で北京原人より古い人類の痕跡が見つかれば、また話は変わってくるだろうが)。

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