代弁者の罪(実態にそぐわない代弁について)
本記事は後半にCOVID-19パンデミックに関連する内容を含んでいる。COVID-19については非科学的な言説も多くあり、その信奉者を刺激していらぬ波風を立てる恐れがあるので、不本意だが限定公開とさせていただく。
(普段は1,000字程度を目安に記事を書いていますが、今回は5,000字ほどと長いです。)
以前、『社会主義前夜』という本を読んだ。こちらに書評を載せているが、これは「空想的社会主義」と呼ばれるマルクス・エンゲルス以前の社会主義思想家であるサン・シモン、フーリエ、オーウェンの思想と事績を紹介した本である。
社会主義と言うと労働者の思想というイメージがあるが、今挙げたサン・シモン、フーリエ、オーウェンのうち、サン・シモンは貴族、フーリエとオーウェンは実業家で、どちらかと言うと支配階級に属する人々であった。つまるところ、社会主義とは「支配する側にいる人間が、自分たちの行いに疑問を持ち、支配される側を救済するための思想」なのだが、問題はこの思想が「支配される側」の実態をきちんと把握していない点だ。彼らが考えた支配される側=労働者は支配される側=資本家によって不当に搾取されている存在だったわけだが、当時の労働環境が今と比べて劣悪だったとはいえ、本当に労働者間に不満が溜まっているなら、何らかのかたちで爆発しそうなものである。
私はヨーロッパ史に疎いので、そうした暴動の話は聞いたことがなかったのだが、簡単に検索するとラッダイト運動という事件がイギリスであったらしい。Wikipediaによると、これは「産業革命に伴い、生産の効率化による低賃金、失職、技能職の地位低下などの影響を受けた労働者階級が使用者である資本家階級への抗議として工場の機械を破壊した」事件で、労働者による反発ではあるのだが、資本家による搾取ではなく、機械化による技能職の地位低下や失職のほうが主な原因だったと思われる。
実のところ、産業革命を境に労働者階級全体としては労働環境の改善が進み、生活水準の向上などのメリットが多かったようだ。このラッダイト運動の場合は、前述した通り「機械化による技能職の地位低下や失職」が源で、資本家による労働者の不当な搾取が原因だったとは言いがたい気がする。
『社会主義前夜』を読んで、社会主義の出所について考えてみたところ、どうも「資本家が、労働者のために“良かれと思って”打ち立てた労働者救済の思想」という側面が強いようだ。ここで問題になるのは、彼らが考えた「支配される側=労働者は支配される側=資本家によって不当に搾取されている存在」という構図が実情をほとんど反映していない空想だったことだ。
これと同じことが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの余波の中で起きていた。問題とされたのは、パンデミック初期の感染対策の是非だ。
蔓延当初は当然ながら、COVID-19の特性などはわからなかったので、今振り返ると過剰すぎるような感染対策が奨励されていた。ただ、これは後になってCOVID-19についていろいろなことが解明された結果、言えるようになったことで、実態がわからない段階では過剰すぎるほどの対策を取るのはむしろ当然と言える。このように、事後であればだれでも名采配ができるという意味で、「事後諸葛亮」あるいは「事後孔明」という言葉が使われるそうだ。
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