第12回: 消費者に直接、売ってみる (Dec.2018)
消費財メーカーがインドに進出しようとする際、数年前までは “まずOrganised Retailerと組む” ことをお勧めしていた。いわゆるスーパーマーケット等をチェーン展開する大手小売事業者である。“市場参入 = 販路開拓” と捉えて代理店や卸にアプローチするケースが多いが、当地の流通事業者が日本企業の期待する価格水準を示してくることはまずない。品質や性能を踏まえた妥当な価格帯を消費者に直接諮らない限り、“インドでシェアを獲る” には至らない、というのが経験だ。まず大手小売の本部を訪ねて製品を紹介し、どの地域からどんなキャンペーンを仕掛けるか、連動広告、店頭展示や販売員配置をどう設計するか、“売り方” の相談から始めるのが一昔前までの定石であった。
他方で当地の小売事業者の大半は、街角に数畳の店を構えてあらゆる日用品を扱うヨロズ屋 “Kirana” だ。昨今、消費拡大を狙うショッピングモールの乱立や規制緩和に伴う外資の参入も顕著ではあるが、庶民の日常の買い物シーンにはほとんど影響がない。“人口13億の巨大市場” と枕詞が付されるインド。日本の10倍超、国土面積も9倍、正にケタが違う。大手小売とトレンドが作れたとしても一定の成果を見極めるまで “年単位の我慢” は必須だし、そこまで大きく仕掛けられるのも大手メーカーに限られた。補助金を契機に現地に赴き、展示会を通じて市場の反応を見てから次の一手を、といった一般企業には、“現に販路を有する代理店・卸にお願いする” という選択肢が現実的なのも頷ける。
しかし方や、インターネット利用者は5億人、スマートフォン利用者も3億人を超える。モバイル決済やEC (電子商取引) もかなり一般化し、新規サービスが日々登場している。インドは小売分野でも “デジタル” の成長性や存在感、影響力が圧倒的だ。
ECの利点は改めて語るまでもないが、殊、“インド進出の実験場” としては有用性が極めて高い。かつて大手小売と施策や予算、期待する成果について議論や想定を重ね、各種の手配・準備を経てようやく実現したことが、手元で一瞬にして再現できる。“検索さえしてくれれば”、消費者の掌でキャンペーンを行える意義は大きい。一連の仕掛けとそれに対する反応も逐一観察できる為、次の一手が即座に打てる。
日本メーカーが海外売上を稼ぐ手段として “越境EC” も活況のようだ。が、これらは中国・東南アジアの “東京24区・25区” にいる日本ファンが主な対象だろう。ブランド名も商材の存在すらも知らない、日本に特段の関心もない当地の消費者が “わざわざ検索して買いに来る” ことは期待できない。日常の買い物の延長線上にない越境ECは "インドでシェアを獲る" には繋がらない。
“日本からインド” の流れを拡大するには “動く歩道” が有効だと話してきた。多少の勇気をもって一歩踏み出せば、自動的に一定のところまで進める仕掛けだ。自ら歩もうとする者ほど、予期せぬ凹凸に躓き、泥濘に足を取られ、余計なものを踏ん付け、目的地に辿り着く前に体力は尽き気持ちも萎えがちなインド。日本製品を送って売るだけでも、商材・価格・条件の提案と交渉、納品先までの物流手配、輸出入通関の書類作成と折衝、許認可の確認・申請、現地在庫や帳合の管理等と煩雑な手続きが続く。多少割り引いても日本国内で商社に渡したらあとはお任せ、というのも確かに楽だが、それではいつになっても市場の様子は分からない。
当社はECサイトと提携し、日本メーカーがインドの消費者に直接、アピールできる “インド進出の実験場” を用意した。日本発の “動く歩道” は掌の上で日常の買い物に際した "ついで買い" や "お試し" を誘い、モバイル決済、宅配サービスを経てKiranaの店先や消費者の自宅まで続く。インドの消費者が見たこともない製品をどう紹介できるか、市場が求める要求にメーカーとしてどう応えられるか、まずは実験をしてみるのが何より早い。
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