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高齢者の入院適応 - 入院治療の必要性の線引き

こんにちは。やまとドクターサポートの原田です。毎週開催している「15分で終わる医師カンファ」では、現場での気づきや悩みをテーマに、やまとの全診療所の医師が様々な視点から解決策を考える場を設けています。今回は「高齢者の入院適応」について話し合いました。

Take Home Message

  • 入院によるADL低下は避けられない現実として認識

  • 入院の必要性と予測されるリスクを家族と共有

  • 早期退院と在宅復帰に向けた体制づくりが重要

カンファでの意見交換
A医師:「在宅患者さんの入院適応について相談させてください。入院によってADLが低下してしまって戻って来られなくなるリスクと入院治療の必要性の線引きに悩むことが多く、どういった方が特に危険なのか、皆さんの経験をお聞きしたいです」

B医師:「私の場合、入院時にはADL低下の可能性について必ず説明するようにしています。特にリスクが高いと感じるのは、高齢で認知症がある方です。あとは、ご家族とのつながりや社会的支援が手厚い方は、環境が変わることで認知症が進んだりADLが低下したりすることが多いですね」

「ただ、稀に自宅で生活環境が不良な方やネグレクト気味な方だと、むしろ元気になって帰ってくる方もいます。状態に応じて入院の必要性をきちんと判断するのが大事ですね。ある先生が言うには”ときどき入院、ほぼほぼ在宅”と」

C医師:「患者さん家族が強く希望している時は、デメリットは十分にお伝えしつつ送り出すという感じになりますね。『入院したら寝込んでしまってメリットがないかもしれない』と思った時には、あまりおすすめしないという雰囲気を伝えるようにしています」

D医師:「ADLの低下は前提として考えていて、それで入院の適応を判断することは少ないですね。むしろ、入院して回復した後のリハビリや医療資源、介護支援につなげられるかどうかを重視しています」

E医師:「これは高齢者医療のすごく大きなトピックで、『入院関連機能障害』、英語では『hospitalization-associated disability』という論文がJAMAに出ています。ぜひ読んでいただきたいですね」

F医師:「入院の線引きはなかなか難しいですよね。一つの答えを出すのは難しいです。入院という選択肢が出てくる時は、こちらである程度優先すべきことがあって、それには入院が一番望ましいという判断があるからだと思います」

「ただ、病院によってはリハビリを早期から入れてもらえる場合もありますし、逆に自宅では叶わなかった人が良くなって帰ってくることもあります。一律に『病院に行くと辛くなる』というイメージだけを持たれるのも辛いですね」

G医師:「入院期間が長くなればなるほどADLは落ちやすいんです。病院の先生とよく話すのですが、帰る先がないことが入院を長引かせる原因の一つになっているそうです」

「病院での治療が早く終わった時に、受け入れてくれる場所があることが大切。ADLがどんどん落ちていくのを防ぐために、早めに自宅や施設に帰れるという環境が重要なんです」

H医師:「私が病院に勤めている時は、蜂窩織炎や肺炎などを受け入れる側でしたが『早く帰れそう』『ADLを低下させずに帰せそう』と思った患者でも、意外と長引いたり、合併症が起きて寝たきりになってしまったりすることがありました」

「なので、入院させたら落ちるかどうかの予測は本当に難しいと思います。そういった可能性があることをきちんと説明するのが大事なのかなと思います」

A医師:「最近悩んだケースの具体例で、乳がんで出血している患者さんに緩和照射をしようと考えたんです。でも、通院ができないため入院が必要でした。目的は止血してADLを改善させることなんですが、入院することで今度は生活ができなくなる。血は止まっても、ADLが低下して生活ができなくなって帰ってくるという本末転倒なことになりかねない、と」

B医師:「そういう場合はどうされたんですか?」

A医師:「その方は結局、ご家族と相談の上、入院はしないという判断になりました」

I医師:「参考までに、当院では入院の判断基準をいくつか設けています。例えば、痰の吸引が1日4回以上必要で家族が対応できない、持続的な発熱が3日以上続く、在宅酸素導入しても酸素飽和度が90%以下、慢性硬膜下血腫や骨折など病院で治療可能な状態、6時間以上の継続的な観察が必要、呼吸苦で呼吸回数が30回以上、1週間以上の訪問看護による薬物投与が必要な場合などです」

F医師:「そうですね。必要条件としては、家族の理解と本人の希望があること、事前指示に入院が含まれていること、そして何より在宅では対応できないということが前提になりますよね」

おわりに
今回の議論を通じて、高齢者の入院判断には慎重な検討が必要なことが改めて確認できました。特に必要な医療と予測されるADL低下のバランス、そして早期退院に向けた受け入れ体制の重要性が浮き彫りになりました。

A医師:「皆さんのご意見を伺って、入院の判断には様々な要素を考慮する必要があることがよくわかりました。やはり、こちらとしてできることをサポート体制をしっかり整えた上で、入院期間を長引かせず、早く退院できるようにすることが大切だと感じました。ありがとうございました」

本日の議論が、医療介護の現場での実践の一助となれば幸いです。
やまとドクターサポートの原田でした。