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高齢者心不全治療の新展開を考える - TAVIと薬物療法の実践

こんにちは。やまとドクターサポートの原田です。毎週開催している「15分間の医師カンファ」では、現場での気づきや悩みをテーマに、やまとの全診療所の医師が様々な視点から解決策を考える場を設けています。今回は、大動脈弁狭窄症(AS)に対するカテーテル治療(TAVI)と最新の薬物療法について話し合いました。

課題背景

高齢化社会の進展に伴い、ASの患者数は増加の一途をたどっています。75歳以上の高齢者では約13%がASと診断され、8人に1人の割合とも言われています。また、心不全治療においても新しい治療薬が次々と登場し、治療戦略が大きく変化しています。

カンファレンスでの意見交換

TAVIの適応と実際

A医師(循環器専門医):「ASの症状として、息切れ、胸痛、めまい、失神などがありますが、これらは『年のせい』として見過ごされがちです。重要なのは、症状が出現してからの平均余命が2-3年と予後不良な疾患であることです。

最近のガイドラインでは、80歳以上の高齢者にはTAVIが推奨されています。TAVIは胸を開かず、心臓を止めることなく人工弁を留置できる低侵襲治療で、90歳の患者さんでも約10日程度で歩いて退院できるケースが多いです」

B医師:「実際の適応判断はどのようにされているのでしょうか?」

A医師:「フレイルティスケールを用いて評価しています。1-3は手術も検討、4-6はTAVIの良い適応、7-9は適応を慎重に判断する必要があります.。特にスケール7以上の重度の虚弱状態では、3年間の累積死亡率が50%を超えるためです」

最新の薬物療法

C医師:「心不全治療薬について、特に"Fantastic Four"(ACE阻害薬/ARN、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)の導入のタイミングや順序について教えていただけますか?」

A医師:「導入方法は変化してきています。以前は6ヶ月かけて段階的に導入していましたが、最近は4週間程度でより早期に導入する傾向にあります。特にSGLT2阻害薬は比較的導入しやすく、HFpEF(駆出率の保たれた心不全)にも効果が期待できます。ただし、高齢者や衛生管理が難しい方では尿路感染症のリスクに注意が必要です」

D医師:「薬剤導入時の具体的な注意点はありますか?」

A医師:「SGLT2阻害薬は血圧への影響が少なく、血糖も極端には下げないため、比較的安全に導入できます。一方、β遮断薬とARNiは血圧や心拍数に影響するため、外来での慎重な導入が望ましいです。必要に応じて循環器専門医への紹介も検討します」

終末期の対応

E医師:「心不全の終末期判断が難しく、特にがん合併例での対応に苦慮することがあります。症状緩和の方法について、アドバイスをいただけますか?」

循環器専門医:「心不全の終末期は、がんと異なり予後予測が非常に難しいのが特徴です。基本的には緩和ケアと積極的治療を並行して進めることが推奨されています。腎機能低下により利尿薬の反応が悪くなり、呼吸苦が増強してくる場合は、看取りの時期を考慮します。モルヒネの使用は限定的で、必要に応じてミダゾラムによる鎮静を検討することもあります」

今後の展望

カンファレンスでの議論を通じて、以下のような方向性が見えてきました:

  1. 早期発見・介入の重要性

    • 高齢者の症状を「年のせい」としない

    • 心雑音聴取時のエコー検査の実施

    • 適切な専門医紹介のタイミング

  2. 新しい治療選択肢の活用

    • TAVIの適応評価

    • 新規薬剤の段階的導入

    • 病院との連携体制の構築

  3. 緩和ケアの充実

    • 治療との併用

    • 症状緩和の個別化

おわりに

高齢者心不全治療は、新しい治療選択肢の登場により大きく変化しています。しかし、その一方で、個々の患者さんの状態に応じた慎重な判断も必要です。地域の医療機関との連携を深めながら、適切な治療選択と緩和ケアの提供を目指していきたいと思います。