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施設職員の医療的不安にどう応えるか? - 信頼関係構築のための具体的アプローチ

こんにちは。やまとドクターサポートの原田です。毎週開催している「15分で終わる医師カンファ」では、現場での気づきや悩みをテーマに、やまとの全診療所の医師が様々な視点から解決策を考える場を設けています。

Take Home Message

  • 施設職員の不安に寄り添いながら、明確な判断基準を示す

  • 医療者、施設、家族の「信頼の三角形」構築が重要

  • 予防的な教育と関係作りが緊急時の適切な対応につながる

カンファでの意見交換
A医師:「介護者さんのニーズと患者教育のバランスで悩んでいる事例を共有させていただきます。70代の脳卒中後遺症と脳血管性認知症の方で、車椅子レベルでご自身ではっきりと訴えられない方です」

「定期診療の間の2週間で37度後半の発熱が続いていて、施設から2回ほど『37.8度の熱がありますが、どうしたらいいでしょうか』という連絡が時間外に入りました。軽度の誤嚥が原因で肺炎まで発展していない状態ですので、その都度カロナール服用して様子を見て、食事と水分が取れているならそのまま経過観察と指示したのですが...」

B医師:「具体的に様子をもう少し教えていただけますか?」

A医師:「次の定期診療の時に職員の方から『カロナールは服用すれば熱は一時的には下がるけど、また熱が上がって下がりきらないし、なんとなく体調も悪い気がする。看護師さんがいない施設なので、介護士だけではどのように対応したらいいか不安でした』と言われました。確かに緊急性はなかったのですが、施設職員の不安に寄り添えていなかったのかなと...」

C医師:「施設において、何かの基準があると安心なことが多いと思います。例えば、『この人はマイクロアスピレーションで常に熱が出る可能性があるけれど、37.5度以上の熱がなければ大丈夫です。食事がしっかり取れていれば、少しずつ症状が出ても心配いりません』といった具体的な説明が有効です」

「さらにSpO2モニターがあって『92%以上あれば、高い山に登っているくらいだから大丈夫です』という数値の基準を示してあげると、非医療者の方々も安心できます」

D医師:「夜間、看護師さんがいない施設では、介護士さんが診療所や訪問看護に電話するのを躊躇されていることも多いんです。『電話するのが悪いことだと思っている』という方もいらっしゃって。なので、まず電話をしていただいて、こういう状態では大丈夫だよとお伝えして、少しずつ話していくようにしています」

E医師:「施設ごとの温度差がすごく大きいですよね。担当者が一人変わっただけでも対応が大きく変わってしまうこともあります。特に慢性的に経過する方や、現状維持が精一杯の方の場合は、施設としての方針が重要です。最期まで看てもらえるのか、この先のストーリーが施設全体として共有されているのかが大切になってきます」

F医師:「私が大事にしているのは『信頼の三角形』です。我々診療所と施設とご家族、この三角形の関係性をいかに強固にするか。というのは、介護士の方の不安は、純粋に患者さんのことを心配する気持ちのほかに『何かあった時に家族に責められるんじゃないか』という責任からくる不安もあると思います」

G医師:「診察して適当な対応をする時に、ある程度の予測をしっかり理解してもらうことが大事だと思います。電話で『発熱したから助けてください』という時に、診察せずに『予想されているので大丈夫です』と言うのと、実際に診察した上で『こういうことが予想されます』と伝えるのでは、受け取られ方がまったく違います」

H医師:「非常に難しい問題ですが、施設のスタッフの方が患者さんの病状を不安に思うのは、その患者さんに興味を持っているからこそだと思うんです。そういう方たちと、先ほどの『信頼の三角形』をしっかり築いていくことが大事だと感じています」

I医師:「不安に思う原因は何かを明らかにすることのほかに、信頼の三角形を作る上で時間と場所を合わせて三者で今後の方針を決めていく、一種の意思決定支援が必要かなと思います」

K医師:「実は最近、施設の介護職員向けにバイタルサインの見方や連絡のタイミングについての研修会を行いました。普段のお体の見方や、よくある病気の変化について説明し、私たちに電話をする時に何を聞きたいのか、どういう時に往診を考えるのかを具体的に話しました」

「例えば『熱が出ました』『お腹が痛いです』という一言だけでは『すぐ行きます』とはならない。そういう時に何を見てほしいのか、何を言ってほしいのかを詳しく説明したんです。その後の週の診療時に、今まであまり話したことがなかった職員さんから『研修がすごく勉強になりました』という声をいただけて、よかったなと思いました」

A医師:「ありがとうございます。実は、その後、私の担当患者さんの件では管理者の方が来られて、職員が毎日不安だったという話があり、バイタルの測り方や基準について説明させていただきました。SpO2も測りづらい方だったので、測定方法についても具体的に説明しました。皆さんがおっしゃったような対応を今後も心がけていきたいと思います」

L医師:「最後に一つ付け加えさせていただくと、どうしてもコミュニケーションが足りず、信頼関係を築く前の施設もあります。その場合は、コールが来た時点でもう往診を考えた方がいいこともありますね。日頃からの関係性を見ながら判断することも大切ですね」

おわりに
A医師:「皆さんの意見を聞き、具体的な対応の指針が見えてきました。バイタルの測り方や基準を明確に示すことはもちろん、定期的なコミュニケーションを通じて不安の解消を図っていきたいと思います。ありがとうございました」

本日の議論が、医療介護の現場での実践の一助となれば幸いです。
やまとドクターサポートの原田でした。