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在宅医療におけるフットケアの重要性

こんにちは。やまとドクターサポートの原田です。毎週開催している「15分間の医師カンファ」では、現場での気づきや悩みをテーマに、やまとの全診療所の医師が様々な視点から解決策を考える場を設けています。今回は、在宅医療におけるフットケアについて話し合いました。

課題背景

在宅医療の現場では、爪白癬や巻き爪、血流障害など、様々な足のトラブルに遭遇します。特に爪の処置は、看護師や家族では対応が難しく、医師に依頼されることも多い一方で、診療頻度が月に1回、2週間に1回など時間的な制約もあり、効率的な対応が求められています。

カンファレンスでの意見交換

進行医:
「本日は在宅医療におけるフットケアについて、具体的な対応方法や工夫を共有したいと思います。特に爪白癬や血流障害への対応、多職種連携の在り方について、皆さんの経験をお聞かせください」

A医師(問題提供):
「当院では爪白癬で爪が厚くなり、看護師や家族では切れないため、医師に依頼されるケースが多くあります。2週間ごとの対応を求められることも多く、時間的な制約も大きな課題となっています。そのため、状態を見ながら処置の必要な爪とそうでない爪を選別し、必要な部分のみ医師が対応するようにしています。

また、血流障害のある患者さんへの対応など、フットケア全般についても課題を感じています。皆さんの対応方法や、もし参考にされている書籍などがあれば教えていただきたいと思います」

B医師:
「基本的なスタンスとして、処置は訪問看護師に依頼するようにしています。ただし、非常に厚くなった爪など、看護師では対応が難しい場合は医師が処置します。その場合でも、定期的な処置は避け、以下のような状態に限定して対応しています。

  • 爪が引っかかって取れそうな状態

  • 靴下の着用が困難な状態

  • 歩行に支障をきたす状態

爪白癬への薬物療法については、外用液の使用経験はありますが、効果の程度や費用面から、患者さんへの説明が難しいと感じています。本当に治療が必要な場合は内服薬を検討することもありますが、副作用への懸念から適応は慎重に判断しています」

C医師:
「私たちの診療所でも基本的には訪問看護師と協力して対応していますが、ある先生から『爪切りは単なる処置ではなく、患者さんとの触れ合いの重要な機会である』と教わったことが印象に残っています。確かに時間はかかりますが、この処置を通じて患者さんやご家族との信頼関係が深まった経験が数多くあります。

具体的な処置方法としては

  1. ニッパーで必要な部分を適切に切除

  2. ヤスリで断面を整える

  3. 必要に応じてテーピング指導を実施

また、看護師さんと協力して、ニッパーで大まかに切った後、ヤスリで整えるという役割分担も行っています」

進行医:
「ありがとうございます。D先生は清潔ケアを重視されているとのことですが、具体的な取り組みについて教えていただけますか?」

D医師:
「私は足の清潔保持を最も重要視しています。アプローチとしては以下のような段階を意識しています。

  1. 清潔状態の評価

    • 足が清潔に保たれている方には必ず『きれいに保たれていますね』と声をかけ

    • 良好な習慣を言語化して強化

    • ご家族の努力も必ず褒める

  2. 清潔が保てていない場合の対応

    • 入浴方法の具体的な確認

    • 清拭の方法の指導

    • ご家族と実現可能な改善策を検討

  3. 爪のケアについて

    • 切るよりもヤスリでの削りを基本とする

    • ドラッグストアで入手できる数百円程度のヤスリを推奨

    • お風呂上がりのケアを習慣化するよう指導

また、巻き爪のケースでは、以下のような対応も行っています。

  • 軽度の食い込みがある場合は、爪の脇をニッパーで切除

  • 多少の出血は伴うが、医師が処置したという安心感につながる

  • ただし、保険診療の範囲を超える可能性もあり、実施は慎重に判断

処置後は必ず、今後の予防的なケアについて説明を行い、再発防止に努めています」

E医師:
「私は最近、アメリカの医療制度におけるフットケアの位置づけに興味を持っています。アメリカでは

  • フットケア専門のナース

  • ポディアトリスト(足専門医)
    という専門職が確立されています。

日本でも、特定の看護師がフットケアを専門的に担当できる制度があれば、医師の負担軽減にもつながるのではないでしょうか。実際、形成外科医の中にも、フットケア専門のクリニック開業を目指す方がいると聞いています」

F医師:
「私の専門は主に週末期の患者さんのケアです。特に以下のような症状に注目しています。

  • むくみ

  • 血流障害

  • 皮膚の脆弱性

これらに対するアプローチとして、表在リンパの流れを重視したケアを行っています。具体的には

  1. 強いマッサージは避ける

  2. 優しく撫でるような手技を基本とする

  3. 表在リンパの流れに沿った方向性を意識

また、診察時にご家族にも手技を見せながら説明することで

  • 日常的なケアの継続性が向上

  • 家族の介護参加意識が高まる

  • 患者さんと家族の触れ合いの機会となる

入所施設での経験では、定期的なフットケアの導入により、入所者の足の状態が劇的に改善したケースもあります。清潔保持と定期的なケアの組み合わせが、予防的な観点からも重要だと感じています」

G医師:
「クレナフィンの使用経験について、私の見解を共有させていただきます。効果については比較的高く評価していますが、効果が得られない場合は主に以下の2つの要因を考えています。

  1. 塗布方法の問題

    • 添付文書に記載された塗布量の確認が重要

    • 実際には想像以上の量が必要

    • 塗布範囲や頻度の順守も重要

  2. 診断の問題

    • 爪白癬の種類による効果の違い

    • 表面に白癬が見られる場合と爪の奥に感染がある場合で治療方針が異なる

    • 正確な診断に基づく治療選択が重要

ただし、私自身は第一選択としてネイリンの内服を勧めることが多いです。3ヶ月という限定された期間であれば、患者さんの受け入れも良好です。費用対効果の面でも、内服治療の方が優れていると考えています」

H医師:
「当院の体制について共有させていただきます。訪問看護師との連携を重視しており

  1. 基本的なケア

    • 訪問看護師によるニッパーでの爪切り

    • 定期的な状態評価

    • 予防的なケア指導

  2. 困難例への対応

    • 皮膚科医への写真によるコンサルテーション

    • 具体的な治療方針の相談

    • 必要に応じた専門医紹介

また、サービスとしての側面も大切にしています。爪切りを通じて患者さんとの信頼関係が深まった経験も多くあり、コミュニケーションツールとしても重要だと考えています」

I医師:
「グループホームでの経験を共有させていただきます。以前、足の清潔管理が行き届いていない施設で、定期的なフットケアを導入した結果、劇的な改善が見られました。この経験から、定期的なケアの重要性を実感しています」

進行医:
「皆様、貴重なご意見ありがとうございました。フットケアは単なる処置ではなく、患者さんとの関係構築や生活の質向上に重要な役割を果たすことが改めて確認できました。また、多職種連携の重要性も浮き彫りになりました。今後も経験を共有しながら、より良いケアを目指していきたいと思います」

おわりに

フットケアは単なる処置ではなく、患者さんとの信頼関係構築の機会としても重要な意味を持ちます。多職種連携を活用しながら、患者さんの生活の質向上に寄与できるよう、継続的な取り組みが必要です。